嵐を呼ぶレディ
Nawe Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「私、帰りますわ」
嵐も収まって一段落した朝。
すました顔でフローラが言い、シルバーは呆気に取られた。
「それはまた急なことで……我々に何か不手際でも?」
「…………」
色々と突っ込みたいところを副長としての礼節をもって堪え、キースは黙って舵輪を回している。
「いいえ」フローラは口もとに笑みを浮かべて首を振った。
「皆さん、とても良くしてくださいました。不手際があるとすれば、それは私の方です」
シルバーはしばらく黙ったまま、フローラの顔を見つめた。
「……貴女がそうおっしゃるなら、引き留めはしません。嵐のせいでまともなおもてなしも出来ず、それだけが心残りです」
「ありがとうございます、ミスタ・ゴールディ」
「濡れネズミになりたくなかったら、前もってご連絡を」シルバーはほんの少しだけ口角を上げた。
「……そうしたら」フローラはシルバーの顔を見上げた。
「『綺麗なの』を選んでいただけます?」
「は……?」
困惑顔のシルバーを見て、フローラはふふっと笑った。心なしか、瞳が潤んでいる。
「何でもありませんわ」
彼女は言い、両手をシルバーに差し出した。
シルバーも静かにその手を取り、船長としての所作で口づけを落とす。
「ごきげんよう、ミスタ・ゴールディ」
その時、トップの見張りから声がかかった。
この海域を通る帰港予定の船が、通信を受けてフローラを迎えにきたのだ。
シルバーはフローラに腕を貸し、ゆっくりと弦門に向かった。
ルークスの看板にはフローラの見送りのために乗組員が整列しており、綾もその列に混じっていた。
やっと終わる。フローラがシルバーを諦めて帰ってくれれば、自分も恋人役から解放される。
綾は胸を撫で下ろし、笑顔でフローラを見つめていた。
「リョウさん」フローラは乗組員の中に綾を見つけると嬉しそうに歩み寄った。
「色々とありがとうございました」
「とんでもない」綾は首を振って彼女の手を握った。
「うちのドクターの紅茶をご馳走したかったです。とても美味しいんですよ」
「それは次の楽しみにとっておきますわ」
「えっ」
目を丸くした綾に、フローラは笑って言った。
「私も軍人の娘、引き下がる事は致しません。戦術を変えるだけです」
「えっ……え?」
綾がぽかんと口を開けたまま固まっていると、フローラはその手をそっと握り返した。
「次に来るときには、もう少し私らしく参りますわ。覚悟なさって、リョウさん」
それだけ言うと、フローラはふわりとスカートを翻し、優雅に船を降りていった。
乗組員一同が見送りの敬礼をして、船はゆっくりと離れていく。
遠ざかる姿を見ながら、綾はしばらくその場を動けずにいた。
「どういうこと……?」
その隣でフェイスがぽんと綾の肩を叩いた。
「そりゃお前、まだ終わっちゃいないってことだな」
「ええぇ……」
綾はガクッと肩を落とした。
船上に笑いがこぼれる。
風はもう穏やかで、水平線には太陽が輝いていた。
おわり
嵐も収まって一段落した朝。
すました顔でフローラが言い、シルバーは呆気に取られた。
「それはまた急なことで……我々に何か不手際でも?」
「…………」
色々と突っ込みたいところを副長としての礼節をもって堪え、キースは黙って舵輪を回している。
「いいえ」フローラは口もとに笑みを浮かべて首を振った。
「皆さん、とても良くしてくださいました。不手際があるとすれば、それは私の方です」
シルバーはしばらく黙ったまま、フローラの顔を見つめた。
「……貴女がそうおっしゃるなら、引き留めはしません。嵐のせいでまともなおもてなしも出来ず、それだけが心残りです」
「ありがとうございます、ミスタ・ゴールディ」
「濡れネズミになりたくなかったら、前もってご連絡を」シルバーはほんの少しだけ口角を上げた。
「……そうしたら」フローラはシルバーの顔を見上げた。
「『綺麗なの』を選んでいただけます?」
「は……?」
困惑顔のシルバーを見て、フローラはふふっと笑った。心なしか、瞳が潤んでいる。
「何でもありませんわ」
彼女は言い、両手をシルバーに差し出した。
シルバーも静かにその手を取り、船長としての所作で口づけを落とす。
「ごきげんよう、ミスタ・ゴールディ」
その時、トップの見張りから声がかかった。
この海域を通る帰港予定の船が、通信を受けてフローラを迎えにきたのだ。
シルバーはフローラに腕を貸し、ゆっくりと弦門に向かった。
ルークスの看板にはフローラの見送りのために乗組員が整列しており、綾もその列に混じっていた。
やっと終わる。フローラがシルバーを諦めて帰ってくれれば、自分も恋人役から解放される。
綾は胸を撫で下ろし、笑顔でフローラを見つめていた。
「リョウさん」フローラは乗組員の中に綾を見つけると嬉しそうに歩み寄った。
「色々とありがとうございました」
「とんでもない」綾は首を振って彼女の手を握った。
「うちのドクターの紅茶をご馳走したかったです。とても美味しいんですよ」
「それは次の楽しみにとっておきますわ」
「えっ」
目を丸くした綾に、フローラは笑って言った。
「私も軍人の娘、引き下がる事は致しません。戦術を変えるだけです」
「えっ……え?」
綾がぽかんと口を開けたまま固まっていると、フローラはその手をそっと握り返した。
「次に来るときには、もう少し私らしく参りますわ。覚悟なさって、リョウさん」
それだけ言うと、フローラはふわりとスカートを翻し、優雅に船を降りていった。
乗組員一同が見送りの敬礼をして、船はゆっくりと離れていく。
遠ざかる姿を見ながら、綾はしばらくその場を動けずにいた。
「どういうこと……?」
その隣でフェイスがぽんと綾の肩を叩いた。
「そりゃお前、まだ終わっちゃいないってことだな」
「ええぇ……」
綾はガクッと肩を落とした。
船上に笑いがこぼれる。
風はもう穏やかで、水平線には太陽が輝いていた。
おわり
16/16ページ