目覚め
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気がつくと、隣にいたはずのノワールさんが廊下の先で角を曲がるところだった。
「えっ、ちょっと」
自分の家も、ノワールさん達の素性も分からない。 このまま彼を見失ったら、私は完全に身元不明のジェーン・ドゥだ。
鼓動が早くなっていく。 まさか、こんな所で置き去りにされるの?
私は慌てて走り出した。
「待って……!」
勢いよく角を曲がって見回すと、彼は会計の列に並んでいた。
良かった。見捨てられたわけじゃなかった。
心の底から安堵し、ノワールさんに駆け寄った。
「座って待ってていいと言っただろう」
ノワールさんは事もなげに言った。
どうやら彼の言葉を聞き逃した私が勝手に焦っていただけみたいだった。
「置いていかないでください」と、彼の上着の袖をぎゅっと摘んだ。
まだ、胸がドキドキしていた。
病院の駐車場で、ノワールさんはツードアの小さな車のドアを開けた。
丸みを帯びたフォルムに白のソリッドカラー。ノワールさんにはどこか不釣り合いな気がした。
「乗んな」
運転席から手を伸ばして助手席のドアを開け、ノワールさんが短く言った。
「あ、はい」
慌てて乗り込みシートベルトを締めた途端、待っていたかのように車が動き出した。
不愛想なノワールさんだけど、予想に反して運転に荒っぽいところはなかった。
ノワールさんは黙ってハンドルを握っている。
話しかけにくかったし、特に話題もなかったので私もずっと黙っていた。
開いた窓から風に乗って潮の香りがする。海が近いようだった。
「不安そうだな」
急に話しかけられて、私は顔を上げた。ルームミラー越しにチラリと目が合う。
「見ず知らずのオッサンについていくしかねぇって状況は、不安か」
「そんな……」
ノワールさんは更に続けた。
「病院で、『置いて行くな』と言っていたな」
「……待っていろと言われたのを聞いていなかったみたいで。姿が見えなくなった時、家に帰れなくなると思って怖かったんです」
「俺が、お前を置いていくと思うのか?」
「えっ?」
何と返そうかと思っていると、小さく舌打ちが聞こえた。
ノワールさんはハンドルを切り、車はガタガタと砂利道に入って止まった。
「降りろ」
ノワールさんの短い言葉は冷たかった。 怒ったの? どうして?
オロオロしているうちにノワールさんは車を降りて反対側に回り込み、助手席のドアを大きく開けた。
「あのっ、」
私は慌てた。降ろされまいとシートベルトにしがみつく。
「気に障ったんなら謝ります! 謝りますから、こんな所に置き去りにするのは……!」
「俺を何だと思ってるんだ」
ノワールさんは呆れたような口調で呟き、苦笑した。
「俺は黙っていなくなりはしねぇよ。置いて行くなら置いていくと、ちゃんと言うさ」 私の目を見て、安心させるように優しく言った。
それから、「早く降りろ」と私の上に身を乗り出して、シートベルトを外した。
ほんのり、煙草の匂いがした。
ノワールさんは口もとに微笑みの名残を残していた。
笑うこともあるんだ、と思った。
こんな風に笑うんだ、と思った。
「えっ、ちょっと」
自分の家も、ノワールさん達の素性も分からない。 このまま彼を見失ったら、私は完全に身元不明のジェーン・ドゥだ。
鼓動が早くなっていく。 まさか、こんな所で置き去りにされるの?
私は慌てて走り出した。
「待って……!」
勢いよく角を曲がって見回すと、彼は会計の列に並んでいた。
良かった。見捨てられたわけじゃなかった。
心の底から安堵し、ノワールさんに駆け寄った。
「座って待ってていいと言っただろう」
ノワールさんは事もなげに言った。
どうやら彼の言葉を聞き逃した私が勝手に焦っていただけみたいだった。
「置いていかないでください」と、彼の上着の袖をぎゅっと摘んだ。
まだ、胸がドキドキしていた。
病院の駐車場で、ノワールさんはツードアの小さな車のドアを開けた。
丸みを帯びたフォルムに白のソリッドカラー。ノワールさんにはどこか不釣り合いな気がした。
「乗んな」
運転席から手を伸ばして助手席のドアを開け、ノワールさんが短く言った。
「あ、はい」
慌てて乗り込みシートベルトを締めた途端、待っていたかのように車が動き出した。
不愛想なノワールさんだけど、予想に反して運転に荒っぽいところはなかった。
ノワールさんは黙ってハンドルを握っている。
話しかけにくかったし、特に話題もなかったので私もずっと黙っていた。
開いた窓から風に乗って潮の香りがする。海が近いようだった。
「不安そうだな」
急に話しかけられて、私は顔を上げた。ルームミラー越しにチラリと目が合う。
「見ず知らずのオッサンについていくしかねぇって状況は、不安か」
「そんな……」
ノワールさんは更に続けた。
「病院で、『置いて行くな』と言っていたな」
「……待っていろと言われたのを聞いていなかったみたいで。姿が見えなくなった時、家に帰れなくなると思って怖かったんです」
「俺が、お前を置いていくと思うのか?」
「えっ?」
何と返そうかと思っていると、小さく舌打ちが聞こえた。
ノワールさんはハンドルを切り、車はガタガタと砂利道に入って止まった。
「降りろ」
ノワールさんの短い言葉は冷たかった。 怒ったの? どうして?
オロオロしているうちにノワールさんは車を降りて反対側に回り込み、助手席のドアを大きく開けた。
「あのっ、」
私は慌てた。降ろされまいとシートベルトにしがみつく。
「気に障ったんなら謝ります! 謝りますから、こんな所に置き去りにするのは……!」
「俺を何だと思ってるんだ」
ノワールさんは呆れたような口調で呟き、苦笑した。
「俺は黙っていなくなりはしねぇよ。置いて行くなら置いていくと、ちゃんと言うさ」 私の目を見て、安心させるように優しく言った。
それから、「早く降りろ」と私の上に身を乗り出して、シートベルトを外した。
ほんのり、煙草の匂いがした。
ノワールさんは口もとに微笑みの名残を残していた。
笑うこともあるんだ、と思った。
こんな風に笑うんだ、と思った。