目覚め
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「そう落ち込むな。お前のせいじゃない」
ふいに話し声が聞こえて、私の意識は浮上する。
「だが、このまま意識が戻らなかったら、俺は……」
どうすりゃいい、と呟くような声。
そっと薄眼を開けた。
青白い天上。点滴がぶら下がったスタンド。
どうやら自分は病院のベッドの上らしいと、ぼんやり理解する。
かたわらには、二人の男が何やら沈痛な面持ちで座っていた。 白い壁に、二人の上着の色が鮮やかだ。
ルージュ・エ・ノワール。赤と黒。
「綾は優しいから、泣き落としなんか効くかもよ?」ルージュさんが明るく言った。
「そうだお前、キスでもしてみたら? 眠り姫にはやっぱキスでしょ」
「お前な、この状況でよくそんな事を……」
立ち上がったノワールさんに、ルージュさんが私を指さした。
「だってこの子、意地が悪いんだもん。さっきからずっと寝たフリして様子を伺ってんの」
そこで私は目を開け、 ルージュさんの笑顔と、ノワールさんの驚いた顔を見た。
「ヒヤヒヤしたぜ。頭部に外傷はないって言われても、あの落ち方したら……なぁ?」
「まったくだ。次からはクライミングハーネスでもつけとくんだな、綾」
この人たちは私を綾と呼び、親しげに話しかけてくる。
でも、見知らぬ男性だ。
「誰……?」
かすれた声でそう問えば、二人は驚いた様子でお互いの顔を見合わせた。
「おい、先生呼んでこい!」
ルージュさんが叫び、
「あいよ」
ノワールさんが病室を飛び出して行った。
不思議な気分だった。記憶喪失だなんて、まったく現実味がない。
でも確かに、思い出そうとしても何も浮かんでこない。目を閉じれば、そこに広がるのはただ真っ黒に塗り潰された空間。
まるで、何かあったはずの場所を無理やり消し去ったみたいに────
自分が何者で、何をしていたのか、病院で目を覚ます前のことは綺麗に抜け落ちていた。
ふいに話し声が聞こえて、私の意識は浮上する。
「だが、このまま意識が戻らなかったら、俺は……」
どうすりゃいい、と呟くような声。
そっと薄眼を開けた。
青白い天上。点滴がぶら下がったスタンド。
どうやら自分は病院のベッドの上らしいと、ぼんやり理解する。
かたわらには、二人の男が何やら沈痛な面持ちで座っていた。 白い壁に、二人の上着の色が鮮やかだ。
ルージュ・エ・ノワール。赤と黒。
「綾は優しいから、泣き落としなんか効くかもよ?」ルージュさんが明るく言った。
「そうだお前、キスでもしてみたら? 眠り姫にはやっぱキスでしょ」
「お前な、この状況でよくそんな事を……」
立ち上がったノワールさんに、ルージュさんが私を指さした。
「だってこの子、意地が悪いんだもん。さっきからずっと寝たフリして様子を伺ってんの」
そこで私は目を開け、 ルージュさんの笑顔と、ノワールさんの驚いた顔を見た。
「ヒヤヒヤしたぜ。頭部に外傷はないって言われても、あの落ち方したら……なぁ?」
「まったくだ。次からはクライミングハーネスでもつけとくんだな、綾」
この人たちは私を綾と呼び、親しげに話しかけてくる。
でも、見知らぬ男性だ。
「誰……?」
かすれた声でそう問えば、二人は驚いた様子でお互いの顔を見合わせた。
「おい、先生呼んでこい!」
ルージュさんが叫び、
「あいよ」
ノワールさんが病室を飛び出して行った。
不思議な気分だった。記憶喪失だなんて、まったく現実味がない。
でも確かに、思い出そうとしても何も浮かんでこない。目を閉じれば、そこに広がるのはただ真っ黒に塗り潰された空間。
まるで、何かあったはずの場所を無理やり消し去ったみたいに────
自分が何者で、何をしていたのか、病院で目を覚ます前のことは綺麗に抜け落ちていた。