日常と違和感
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「あ……」
彼に伸ばしかけた手は行く当てをなくし、膝に落ちる。指先が震えていた。
『そりゃ知らねぇよ。お前が言わねぇんだから』
言える訳がない。貴方を疑ってるなんて。殺されるかもしれないと思ってるなんて。
コツコツ。
車の窓を叩く音に、私は顔を上げた。
「どしたの?」
ルパンさんが窓を覗き、ドアを開けた。
車を降りる私に、さりげなく手を貸してくれる。
「泣きそうな顔してっけど。俺の胸でも貸そうか? なーんて、」
優しい言葉に、もう我慢ができなかった。
唇が震え、彼の上着の色が滲む。
そして私は、彼の腕の中に飛び込んだ。
「うわっ」ルパンさんは驚いた声を出した。それから、そっと背中をさすってくれる。
「何があったかは聞かねぇけど」ルパンさんは優しい声で言った。
「心配しなくていい。記憶がなくたって綾は綾だ」
その言葉に、ぎゅっとしがみついていた指が少し緩む。
深呼吸をすると、ルパンさんのシャツに染み込んだ煙草の匂いと、どこか甘い香りがした。
「……ありがとう」
震える声でそう言うと、ルパンさんは「おう」と笑って、私の背中をぽんぽんと軽く叩いた。
「いいってこと。でも、そんなにしがみつかれると俺、綾のこと好きになっちゃうかも」
「……もう、そういうのやめてください」
顔を上げると、ルパンさんはいたずらっぽく笑っていた。
少しだけ、呼吸が楽になった気がした。
それ以降、私は彼らとの接し方が分からなくなってしまった。
いつも通りに見える彼らも、不信感というフィルターがかかると、ルパンさんは以前より饒舌になり、次元さんは目つきが鋭くなったような気がした。
私はキッチンでシェパーズパイを焼きながら、そっと彼らを観察していた。
二人はグラスを片手にテレビを見ている。
「お前、どっちにつく?」グラスを持った手で画面を指差し、次元さんがルパンさんに尋ねた。
「女ぁ」
「……スパイだぞ?」
「女はな、ミステリアスなとこがあった方が魅力的なんだよ」
ルパンさんが訳知り顔で言うと、次元さんは呆れた顔をした。
「ミステリアスが過ぎんだろ」
私がパイを持っていくと、次元さんはさりげなく立ち上がって皿を受け取り、無言で切り分けてくれる。
「綾はさ、」ルパンさんが私を振り返った。
「俺と次元、どっちに助けられたい?」
「えっ」急にそんなことを聞かれて、返答に困る。
「ほら、この映画みたいにさ。絶体絶命のピンチに颯爽と俺様登場~! ……ってのと、無言で現れる背後霊みたいな次元、どっちがいい?」
「おいルパン、その選択肢は悪意がねぇか?」 次元さんが口を挟んだがルパンさんはお構いなしだ。
「えーっと……」
「答えなくて良い」次元さんがぼそっと言い、私の口にシェパーズパイを押し込んだ。
「んぐっ」
口に飛び込んできたかなり大き目のパイを必死で咀嚼する。
「綾は口が塞がってるとさ」
「まぁ、答えは分かってるけども」ルパンさんはなぜか得意げだ。
「この前は俺の腕の中に飛び込んできてくれたし?」
「ぶっ!」
ゴホゴホ……思わず吹き出した私に、ルパンさんはニヤニヤしている。
「あ、あれは……!」私は顔が熱くなるのを感じながら慌てて言った。「不可抗力というか何というか……!」
「あーあー、真っ赤になっちゃって」とルパンさんは笑っている。
軽口を叩くルパンさんを横目に、次元さんは何も言わなかった。
視線を向けると、グラスを傾けながらじっとテレビを見ている。
私は、そっと目を伏せた。
『コッチのことは、バレるわけにはいかねぇ』『消さなきゃ』
怖かった。ずっとその言葉に囚われていたけれど……
今日のルパンさんは、いつも以上にくだらない冗談ばかり言っていた。
次元さんだって、いつもの無口さの中に私を気遣うような仕草が見え隠れする。
……もしかしたら、私の勘違いだったのかもしれない。
言葉の意味を取り違えたのかもしれない。
思い出せないせいで、勝手に疑っていたのかもしれない。
そう思いたい自分に気づいて、私はひとり自嘲的に笑った。
彼に伸ばしかけた手は行く当てをなくし、膝に落ちる。指先が震えていた。
『そりゃ知らねぇよ。お前が言わねぇんだから』
言える訳がない。貴方を疑ってるなんて。殺されるかもしれないと思ってるなんて。
コツコツ。
車の窓を叩く音に、私は顔を上げた。
「どしたの?」
ルパンさんが窓を覗き、ドアを開けた。
車を降りる私に、さりげなく手を貸してくれる。
「泣きそうな顔してっけど。俺の胸でも貸そうか? なーんて、」
優しい言葉に、もう我慢ができなかった。
唇が震え、彼の上着の色が滲む。
そして私は、彼の腕の中に飛び込んだ。
「うわっ」ルパンさんは驚いた声を出した。それから、そっと背中をさすってくれる。
「何があったかは聞かねぇけど」ルパンさんは優しい声で言った。
「心配しなくていい。記憶がなくたって綾は綾だ」
その言葉に、ぎゅっとしがみついていた指が少し緩む。
深呼吸をすると、ルパンさんのシャツに染み込んだ煙草の匂いと、どこか甘い香りがした。
「……ありがとう」
震える声でそう言うと、ルパンさんは「おう」と笑って、私の背中をぽんぽんと軽く叩いた。
「いいってこと。でも、そんなにしがみつかれると俺、綾のこと好きになっちゃうかも」
「……もう、そういうのやめてください」
顔を上げると、ルパンさんはいたずらっぽく笑っていた。
少しだけ、呼吸が楽になった気がした。
それ以降、私は彼らとの接し方が分からなくなってしまった。
いつも通りに見える彼らも、不信感というフィルターがかかると、ルパンさんは以前より饒舌になり、次元さんは目つきが鋭くなったような気がした。
私はキッチンでシェパーズパイを焼きながら、そっと彼らを観察していた。
二人はグラスを片手にテレビを見ている。
「お前、どっちにつく?」グラスを持った手で画面を指差し、次元さんがルパンさんに尋ねた。
「女ぁ」
「……スパイだぞ?」
「女はな、ミステリアスなとこがあった方が魅力的なんだよ」
ルパンさんが訳知り顔で言うと、次元さんは呆れた顔をした。
「ミステリアスが過ぎんだろ」
私がパイを持っていくと、次元さんはさりげなく立ち上がって皿を受け取り、無言で切り分けてくれる。
「綾はさ、」ルパンさんが私を振り返った。
「俺と次元、どっちに助けられたい?」
「えっ」急にそんなことを聞かれて、返答に困る。
「ほら、この映画みたいにさ。絶体絶命のピンチに颯爽と俺様登場~! ……ってのと、無言で現れる背後霊みたいな次元、どっちがいい?」
「おいルパン、その選択肢は悪意がねぇか?」 次元さんが口を挟んだがルパンさんはお構いなしだ。
「えーっと……」
「答えなくて良い」次元さんがぼそっと言い、私の口にシェパーズパイを押し込んだ。
「んぐっ」
口に飛び込んできたかなり大き目のパイを必死で咀嚼する。
「綾は口が塞がってるとさ」
「まぁ、答えは分かってるけども」ルパンさんはなぜか得意げだ。
「この前は俺の腕の中に飛び込んできてくれたし?」
「ぶっ!」
ゴホゴホ……思わず吹き出した私に、ルパンさんはニヤニヤしている。
「あ、あれは……!」私は顔が熱くなるのを感じながら慌てて言った。「不可抗力というか何というか……!」
「あーあー、真っ赤になっちゃって」とルパンさんは笑っている。
軽口を叩くルパンさんを横目に、次元さんは何も言わなかった。
視線を向けると、グラスを傾けながらじっとテレビを見ている。
私は、そっと目を伏せた。
『コッチのことは、バレるわけにはいかねぇ』『消さなきゃ』
怖かった。ずっとその言葉に囚われていたけれど……
今日のルパンさんは、いつも以上にくだらない冗談ばかり言っていた。
次元さんだって、いつもの無口さの中に私を気遣うような仕草が見え隠れする。
……もしかしたら、私の勘違いだったのかもしれない。
言葉の意味を取り違えたのかもしれない。
思い出せないせいで、勝手に疑っていたのかもしれない。
そう思いたい自分に気づいて、私はひとり自嘲的に笑った。