「いったい俺は、何に巻き込まれているんだ？」次元は言った。

「お前の妹はさっきからまるで葬式みたいな顔して黙りこくってるし」

「綾が気になるのか」

「そいういう言い方するんじゃねぇよ」

「すまぬ」

何に対しての『すまぬ』なのか、五エ門は次元の怒りを真摯に受け止める。

「そのうち説明するだろう……話しても良いと彼女が判断すれば。それまで、待ってやってくれぬか」

そう言われれば黙るしかない。

次元がため息をついたその時、綾の小さな悲鳴が聞こえた。

振り向くと、ガラの悪そうな男がふたり、今にも綾に襲いかかろうとしていた。

彼女の手からジュースの缶が転がり落ちる。

次元は舌打ちをして綾の方へ駆け出したが、それよりも早く彼女が動いた。

掴みかかる男の手を体を引くしてかわし、相手の胸ぐらを掴んで引き寄せ、素早く体を反転させる。

次の瞬間には男の体は地面にひっくり返っていた。

その流れるような動きに次元は思わず見惚れる。

もうひとりの男が綾に突進してくる。

彼女は足もとに転がっていたジュースの缶を思いきり蹴飛ばし、それが股間に直撃した男は悶絶してうずくまった。

投げ飛ばされた男が立ち上がり、怒号を発してナイフを取り出すのを次元は見た。

「綾、後ろだ！」

その声に反応して綾は振り向いた。

しなやかな曲線を描いてポニーテーが空気を薙ぐ。

男が鬼の形相でナイフを振り上げた。

間に合わない！

綾は息をのんだ。

「ガキ相手に刃物とは、情けねぇな」

駆けつけた次元が男の腕を掴んで捻りあげた。

男は苦痛に顔を歪め、ナイフを落とす。

綾はナイフを遠くへ蹴飛ばし、男に向かって言った。

「私は帰らない。諦めて」

次元が手を離すと男たちは慌てて逃げて行った。