第5話
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彼の背中に何を言えばいいのか分からなかった。
どう取り繕っても無駄だ。言い訳にしかならない。
涙が止まらなかった。
私のせいでルパンはこの世界に引き込まれたうえ、好きでもない私を好きになるよう仕組まれたのだ。
"好きでもないのに"
その事実がナイフのように私の胸を刺す。
「ごめん、なさい……」
私はただ、謝ることしかできなかった。
足が止まり、ルパンが振り返る。
彼の顔を見るのが怖くて、俯いたまま顔を上げられなかった。
「泣くな」
優しい声がして、彼の両腕が私の背中に回された。そっと抱きしめられる。
「泣かないでくれ……頼むから」
彼は困ったように言いながら、私の髪を優しく撫でた。
その優しさが今は痛かった。
もう一度ごめんなさいと呟いた。
「ジョンの言ったことは本当なのか」
ルパンの胸に顔をうずめたまま、私は頷いた。
高校生最後の夏。
逃げ出したいと、ずっと思っていた。
不仲の両親。居場所のないクラス。
学校の屋上の柵を泣きながら乗り越えた。
そこで私の記憶はなくなっている。
きっとそこから、私はこの世界で23歳のOLとなって生きてきたのだろう。
『本来の私』を忘れて。
「わたし、」
「言わなくていい」
ルパンが優しく私の髪を撫でる。
「綾は綾だ。俺はな、どんな綾だって……」
ふいにルパンの言葉は途切れた。
その訳を察して、私はそっとルパンから身体を離す。
ルパンは片手を口もとにあて、愕然とした顔で私を見ていた。
彼は気づいたのだ。
『私の望みが叶う』ということがどういうことかを。
「綾……」
「うん」
私は静かに頷いた。
「私の世界では貴方はアニメのキャラクターだけど、私は大好きだった。もしもどこかで出会えたらとか、好きになってくれたらとか、いつも想像……ううん、妄想ね。妄想してた。それが、ルパンが私を好きになったカラクリ」
小さくため息をつく。
瞬きをすると、目の縁にたまっていた涙が堪えきれずに零れ落ちた。
ルパンは呆然として私を見下ろしていた。彼は静かに言った。
「ずっと、綾を誰にも渡したくないと思っていた。その気持ちがどこからくるのか分からなくて戸惑っていた」
「ルパン……」
「それでも、お前を抱きしめたらそんなことはどうでも良くなった。操作された感情だろうが何だろうが、それは俺のものだ。俺は、俺の意思でお前を愛してる」
引き寄せられ、ルパンにきつく抱きしめられる。彼の腕は震えていた。
私たちはそっと唇を重ねた。最初で最後のキスだった。
もう会えないのだということを、お互いに理解していた。
「最後に、聞きたい事があるんだ」ルパンが言った。
「ジョンに俺の情報を流したんだろ。俺のことを何て説明したんだ?」
「えぇっ? それは……」
「目ぇ泳いでるぜ? 何を言ったんだよ」
ルパンは愉快そうに笑いながら白状しろと迫ってきた。
「待って、待って! 言うってば! えぇと……嘘つきで、いつも余裕たっぷりで、時に意地悪だけど、すごく優しくて」
ルパンは黙って聞いている。
「どんな不可能をも可能にしてしまう、世界一の泥棒だって」
「不可能を可能にする、か」
彼の指が私の頬を優しく撫でる。
「悪い気はしねぇな」
「でも女の人に弱いのが玉に瑕かな」
冗談めかして言うと、ルパンは口の端をニッと上げた。
「女に弱いんじゃない。いい女が好きなんだ」
「またまたぁ」
「俺はこう見えて、けっこう一途だぜ? お前のことしか見てねぇよ」
ルパンは私の目を覗きこむ。
私の反応に満足したのか、彼は嬉しそうな顔をした。
「まぁ、それはさておき、だ。不可能を可能にする大ドロボーのことを忘れないでくれよ、綾。約束だ」
「何それ?」
「いいから」
ルパンは返答を待っている風だった。
「忘れるわけがないよ。大好きだもん」
そう答えると彼は微笑んだ。
少し寂しげな笑顔だった。
「さて。今度こそさよならだ」
去っていく彼の背中を見つめていると、胸が張り裂けそうだった。
「ルパン! わたし……!」
その先は口にできなかった。
言うと現実になってしまいそうで恐ろしかった。
「さよなら、ルパン」
小さく呟く。
彼は一度も振り返らなかった。
どう取り繕っても無駄だ。言い訳にしかならない。
涙が止まらなかった。
私のせいでルパンはこの世界に引き込まれたうえ、好きでもない私を好きになるよう仕組まれたのだ。
"好きでもないのに"
その事実がナイフのように私の胸を刺す。
「ごめん、なさい……」
私はただ、謝ることしかできなかった。
足が止まり、ルパンが振り返る。
彼の顔を見るのが怖くて、俯いたまま顔を上げられなかった。
「泣くな」
優しい声がして、彼の両腕が私の背中に回された。そっと抱きしめられる。
「泣かないでくれ……頼むから」
彼は困ったように言いながら、私の髪を優しく撫でた。
その優しさが今は痛かった。
もう一度ごめんなさいと呟いた。
「ジョンの言ったことは本当なのか」
ルパンの胸に顔をうずめたまま、私は頷いた。
高校生最後の夏。
逃げ出したいと、ずっと思っていた。
不仲の両親。居場所のないクラス。
学校の屋上の柵を泣きながら乗り越えた。
そこで私の記憶はなくなっている。
きっとそこから、私はこの世界で23歳のOLとなって生きてきたのだろう。
『本来の私』を忘れて。
「わたし、」
「言わなくていい」
ルパンが優しく私の髪を撫でる。
「綾は綾だ。俺はな、どんな綾だって……」
ふいにルパンの言葉は途切れた。
その訳を察して、私はそっとルパンから身体を離す。
ルパンは片手を口もとにあて、愕然とした顔で私を見ていた。
彼は気づいたのだ。
『私の望みが叶う』ということがどういうことかを。
「綾……」
「うん」
私は静かに頷いた。
「私の世界では貴方はアニメのキャラクターだけど、私は大好きだった。もしもどこかで出会えたらとか、好きになってくれたらとか、いつも想像……ううん、妄想ね。妄想してた。それが、ルパンが私を好きになったカラクリ」
小さくため息をつく。
瞬きをすると、目の縁にたまっていた涙が堪えきれずに零れ落ちた。
ルパンは呆然として私を見下ろしていた。彼は静かに言った。
「ずっと、綾を誰にも渡したくないと思っていた。その気持ちがどこからくるのか分からなくて戸惑っていた」
「ルパン……」
「それでも、お前を抱きしめたらそんなことはどうでも良くなった。操作された感情だろうが何だろうが、それは俺のものだ。俺は、俺の意思でお前を愛してる」
引き寄せられ、ルパンにきつく抱きしめられる。彼の腕は震えていた。
私たちはそっと唇を重ねた。最初で最後のキスだった。
もう会えないのだということを、お互いに理解していた。
「最後に、聞きたい事があるんだ」ルパンが言った。
「ジョンに俺の情報を流したんだろ。俺のことを何て説明したんだ?」
「えぇっ? それは……」
「目ぇ泳いでるぜ? 何を言ったんだよ」
ルパンは愉快そうに笑いながら白状しろと迫ってきた。
「待って、待って! 言うってば! えぇと……嘘つきで、いつも余裕たっぷりで、時に意地悪だけど、すごく優しくて」
ルパンは黙って聞いている。
「どんな不可能をも可能にしてしまう、世界一の泥棒だって」
「不可能を可能にする、か」
彼の指が私の頬を優しく撫でる。
「悪い気はしねぇな」
「でも女の人に弱いのが玉に瑕かな」
冗談めかして言うと、ルパンは口の端をニッと上げた。
「女に弱いんじゃない。いい女が好きなんだ」
「またまたぁ」
「俺はこう見えて、けっこう一途だぜ? お前のことしか見てねぇよ」
ルパンは私の目を覗きこむ。
私の反応に満足したのか、彼は嬉しそうな顔をした。
「まぁ、それはさておき、だ。不可能を可能にする大ドロボーのことを忘れないでくれよ、綾。約束だ」
「何それ?」
「いいから」
ルパンは返答を待っている風だった。
「忘れるわけがないよ。大好きだもん」
そう答えると彼は微笑んだ。
少し寂しげな笑顔だった。
「さて。今度こそさよならだ」
去っていく彼の背中を見つめていると、胸が張り裂けそうだった。
「ルパン! わたし……!」
その先は口にできなかった。
言うと現実になってしまいそうで恐ろしかった。
「さよなら、ルパン」
小さく呟く。
彼は一度も振り返らなかった。