簡素なベッドと小さなクロゼット。

ベッドわきのサイドテーブル。

それだけだった。

勝手にクロゼットを開ける。

白いワイシャツとデニムパンツ、質素なスーツが何着か。

ベージュのコート。

それだけだった。

「なによ、これ。あの3人でさえもう少し生活感あるわよ？」

その声に綾も目を覚ましてベッドから半身を起こす。

「不二子……？」

「綾、何なのよこれは」

不二子は非難がましい目で綾を振り返った。

「何にも入ってないじゃない」

「えーと。必要な物はそろってるわよ？」

不二子はやれやれとため息をついた。

「いくらクロスジェンダーが流行りって言ったって、ドレスの1枚位は持ってなくちゃ」

「持ってたもん」

次元に出会った次の日、例の組織にやられて38口径の穴があいちゃったけど。

口の中でモゴモゴと呟く。


「んもぅ。コブラの刺青ばっかり追いかけてるからいけないのよ」

「そんな……」

「出かけるわよ、支度して頂戴」


不二子は綾を連れて街へ出かけた。