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何故、彼女は義兄様と共に有るのだろう。
自分の義兄様は、謀神と呼ばれ、部下を駒としか思わない冷徹な人だ。
彼女は義兄様とはまるで似ても似つかぬ性格で。
あの長曾我部家の姫で。
あの長曾我部元親の実の妹で。
全てが反対なのに。
何故あんなに恐ろしい、義兄様などと共に有るのだろう。
私には、理解が出来ない。
それは私が、本当の毛利の人間では無いからだろうか。
「五十鈴様」
「どうかしたの?雪姫」
美しく微笑む五十鈴を見据えて、ああ、やはり理解が出来ないと首を振る。
「五十鈴様は…何故、義兄様と…元就と、共に有るのですか?」
貴女はなんなのですか。何故、義兄様と一緒に居ようと思えるのですか。
「何故、って…」
「義兄様は……人を駒としか、思わぬようなお人です。……五十鈴様とは正反対ではございませんか。…それなのに」
「それは至極簡単よ」
「え?」
「私は元就を愛してる。…ただ、それだけよ」
「………」
愛してる?
ただそれだけ?
愛してるってだけで、あの、義兄と一緒に有れるの?
この人に…あんなことをした、義兄と?
「愛してる…!?何故貴女様は、あのようなことをされて尚!尚笑っていられるのですか!何故愛してるなどと言えるのですか!私には…理解が出来ませぬ!」
「…そうね。雪姫には、まだ解らないわ」
「まだ!?まだってなんですか!?私はそんな薄汚れた感情なんて、一生理解しなくていい!理解なんてしたくない!」
何故、故郷を滅ぼされて尚、この人は笑っていられる!?
何故実の兄を裏切ってまで、義兄と共に有ろうとする!?
「いつかね。世界を、全てを天秤にかけてもいいと思える程に…大切な誰かが、貴女にも現れる筈よ」
故郷を?滅ぼされても?それでもいいと思える程のものが?
到底、信じられなければ信じたくもない。生憎愛などとそんなものは分からない。それは義兄である元就もそう感じていたようではあるが。
けれど義兄には五十鈴がいる。自分を愛し、慈しんでくれる存在が。
けれど自分には何もない。ただ義兄の恐ろしさに、その氷のような冷たさに怯えることしか出来ない。
「(私は──弱い)」
強くなりたい。
だから、覚悟を決めた。
毛利を。義兄を。
裏切ろうと。
「(此処に私の、居場所は無いから)」
・
流石は氷と称される義兄だ。
毛利に対する裏切りを許すはずも無く。
本気で殺す為に刺客を送ってきている。義理とはいえ肉親でさえ容赦しない。
それが毛利元就という男で。
「っ……は、」
正直立っているのも辛い。
先程なんとか刺客を撃退したが峰打ちだ。
いつまた意識を戻して自分を襲ってくるか分からない。
その前に、なるべく遠くに逃げなければ。
強くなると決めた。こんなところでまだ、私は死ねない。
「(けど……もう、意識が、)」
死ねない。死にたくない。
大嫌いな、あの氷のような義兄などには負けたくない。
義兄に自分の行いの過ちを気付かせるまで。
「(少しだけ…休もう…)」
ど、っと雪崩れ込むように木に凭れかかると、ひとつ溜息を漏らして。
意識が朦朧としていくのが分かる。
「(ああ、私は……このまま、)」
煌々と照らす日輪を眩しげに見つめて、雪姫はその意識を手放した。
やがてキイイン、と金属音が響いて。
それを見据える影が一つ。
「ん…?あれは…?忠勝、少し降りてくれ」
黄色の衣を翻して、男は雪姫へと近付く。
「酷い怪我だ…忠勝、彼女を」
雪姫に触れようと手を伸ばせば、風切り音がして。
己の首筋に刃が突き立てられていることに男はしばし目を丸くする。
「っ…おま、え、は」
息を切らして弱々しく己を睨む雪姫を見据えて、にこり、と男は微笑みかける。
「安心してくれ。ワシは敵じゃない」
「っ…!?」
ぎりり、と素手で刃を握りしめる男を驚いたように[#dc=1#]は見据えて。
男の掌から流れる血に冷静さを取り戻す。
「っ…!何…貴方、は…」
「ワシの名は徳川家康。酷い怪我をしていたので手当てをしようかと思ってな」
「徳川、家康…」
彼がかの有名な。
この男は。名も知らぬような、己に刃を向けるような者にも手を差しのべるというのか。
「敵じゃ、ない…」
「そうだ。ワシはただ、お前の怪我を」
「そう……」
「!?あ、おい…?」
ふ、と気が抜けて行くのが分かって。
どさり。と雪姫は家康の胸へと倒れ込んだ。
「(ああ)」
なんて…暖かいんだろう。
まるで、太陽のようで。
「(義兄様とは…大違いだ)」
それが太陽と雪の出会い。
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