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名前変換
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ねぇ、やっぱり変です。
「櫻姫」
すり、と寄ってくる彼はまるで猫のようだと、そう思います。可愛いと。けれど最近ずっとこの調子で、抱き締めたまま離してくれません。
家康様とのお喋りがバレたあの日から、ますます様子が可笑しいのです。
「櫻姫」
何を話すでもなく、彼はそう私の名前を呼び続けるのです。
そしてそれに答えるように、私は彼の頭を撫でます。
無視すると、彼は怒りますから。
「櫻姫」
ずっと私の名を呼び続ける彼の表情は、私の肩に隠れて見えません。
やはりおかしいと、そう思います。
私の知っている三成は、凶王と恐れられる、あの三成です。
ところがどうでしょう。今の三成はあの凶王の片鱗さえありません。
「三成?」
名前を呼んでやると、顔を上げました。
ああ、やはり彼は、綺麗な顔立ちをしている、とそう思います。
「どうかしたの」
「………」
やはり何も答えません。どうしたのでしょうか。
「櫻姫」
「うん?」
「愛している」
…………。熱でもあるのでしょうか。
突然何を言い出すのでしょう。
「…三成、熱でも?」
「そんなものはない」
「じゃあ、」
「貴様は」
私を抱き止めるその腕の力がぎりりと身体に食い込みます。…痛い。
「私が、嫌いか。…だから家康の元へ行くのか」
「はい?」
本当に、何を言い出すのでしょうか。
私が三成を嫌うことなんてありません。
だって三成ですから。例え凶王と恐れられても、血だらけで殺戮を繰り返していても、三成は三成なのです。
「…私のものだ……家康にも…例え秀吉様にも、渡さぬ…」
けれど最近の三成は怖いと思います。だって、目が据わっているのです。燃えるような瞳が、狂気を交えて、私を見つめるのです。
「櫻姫」
「なに?」
「愛している」
ああ、おかしい。
彼は、こんなに愛に飢えていただろうでしょうか。
そして三成の綺麗な顔が近付いてきて。
また、噛みつかれるのだと。
「ん…っ、」
彼の口吸いはとても乱暴です。優しさの欠片もありはしません。
けれど抵抗は出来ないのです。彼は抵抗を嫌いますから。
彼の思うままに、咥内を蹂躙される。翻弄される。
一体、あの日から、三成の中でどんな心境の変化があったのでしょうか。
「……三成?」
震える声で微かに声をかければ、また強く抱き締められます。ああ、どうしたのでしょう。
「櫻姫…」
「…三成?」
「……私から離れるな…」
本当に、何を言っているのでしょう。私が三成から離れるなどと有り得ないのに。
「離れたりしないよ」
「裏切りは許さない」
「裏切ったりしないよ」
譫言のようにそう繰り返す三成の頭を撫でて、櫻姫は微笑む。
きっと寂しいのだ。三成は。
・
…だからこうして閉じ込めるのだろう。
ジャラリ、と三成を撫でる度に鳴る無機質な音。手足に繋がれた枷。
簡潔に言えば、監禁されています。
家康様とのお喋りがバレたあの日から。
さながら鳥籠の形をしたそれに繋がれた私を、彼は毎日必ずどこかを血塗れにして、ふらりふらりと見に現れるのです。
そして必ず、自分の気が済むまで私を愛でるのです。
「……櫻姫…」
三成の異様に冷たい掌が頬を撫でる。それに皮膚が粟立った。
「っ、みつな……ん」
じわり、じわり。蝕まれるような口吸い。がしりと頭を押さえられて、逃げられない。
そしてこれは、彼の歪んだ愛撫の合図。
ああ、私達は一体どこで道を踏み外したのでしょうか。
神様。
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