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何故、裏切ったのかなどと、それは至極簡単だ。
「愛しているから」
それ以外の言葉など、見つからない。
そもそも何故、裏切らないと思っていたのだろう?私の、彼に対する執着を、感情を知っていて、尚。
彼が私を欲したというのならば尚更だ。私が彼に抗うことなど出来る筈がない。それは長く彼と共にいて、彼と戦ってきたのならば分かる筈だ。
私がどれだけ彼に焦がれてきたのかなど。
それも、血を分けた、実の兄妹であるならば尚更察することも出来るだろう。
「五十鈴…お前がまさか…裏切るなんて…」
「その考えがそもそもの過ちだと、何故この状況下に置かれても尚、気付かぬのです」
貴方はそこまで愚鈍ではない筈でしょう。
確かに彼は彼に比べれば決して賢くなど無い。寧ろ無知で単純で愚鈍だと、そう言える。
けれど本質では理解していた筈だ。彼女が……実の妹である五十鈴が、宿敵である毛利に付くであろうことを。
「彼…元就から聞いたのでしょう。四国を攻めさせたのは、紛れもない元就自身であると。徳川に罪を被せ、貴方が彼を恨むように。彼を疑うよう仕向けた、彼の策略だと。」
そして私が、それを知っていて、知って尚、彼に付いたことを。
「貴方は所詮元就の手の上で踊らされていたに過ぎないのです」
私が死んだと伝えられて。貴方は嘆き悲しんだ。徳川に、激しい憎悪を向けた。それが私自身の意志とも知らず。全て元就の策であるとも知らず。
「人を疑うことを知らぬその愚直な程真っ直ぐな性格が、仇となったのです」
嗚呼、なんて愚か。なんと嘆かわしい。
実の兄さえ裏切れる程に、──私は。
「なんでだ、五十鈴…!お前は…四国が…!アイツらが、大切だったんじゃねぇのかよ!四国を守りたかったんじゃねぇのかよ!」
アイツら。恐らく無惨に殺された、四国を守っていた彼らの事だろう。自らの目の前で膝を付くこの憐れな男の留守を、守っていた者達。
確かに紛れもなく、自身は彼らの中にいた。けど。
「四国よりも。彼等よりも。…貴方よりも、大切なものが出来たに過ぎません。…天秤に掛ける必要さえ無い程に、大切な者、が」
嗚呼、もう遅い。
狂ってしまっている。私は、等に。
「それ程までに愛してしまっている。──只、其だけです」
だから、さようなら。
かつて愛したもの。
もう、戻ることなんて
(出来やしない)
日輪を仰いで、天に手を掲げる彼を眩しげに見つめて思う。
(だって全て、消えてしまったのだから)
彼と、自分と、天に浮かぶ、この日輪以外。
…死んでしまった。……実の兄である、長曾我部元親も、ながく、永く相見えていた蒼紅も、かつての主への復讐へと燃えていたあの鋭い紫も、それを守ろうとし最後まで元就を翻弄し苦しめた凶星も。
「五十鈴」
全ては
「我等の天下ぞ」
この時の、為だけに。
(──…嗚呼、私はなんて酔狂なんだろう)
今更嘆いても、遅いと言うのに。
後悔なんてしていない。……けれど。
(ハイドランジア)
紫陽花
「貴方は美しいが残酷だ」
ねぇ、何故かとても、悲しいのです。
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