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酒は飲んでも飲まれるなとは、随分有名な文句だ。
それもそうだろう。酒とは恐ろしいものなのだから。
「五十鈴……」
「っ……!」
あの元就が、酒を飲んで酔っ払っている。いや、それどころか。
「愛しておるぞ…」
とそんな事を呟きながら抱き締めてくるのだ。異常だ!この状況下はとにかく異常だ!
五十鈴はこの異質な状況を作り出した自分の兄である元親を睨む。
「お兄様……また元就にお酒を盛りましたね!」
「五十鈴~そう怒んなって~」
がはは、と盛大に笑う兄を見据えて溜息をつく。
これが怒らずにいられるか。確かに自分も元就の事を愛しているが、いかんせんこの状況は恥ずかしすぎる。
というか元就は酒を好かない筈なのだが。一体どうやって盛ったのだろうか。
「一体どうやって元就にお酒を盛ったのです?」
「んなの簡単だろ?コイツが甘味に夢中な間にすり替えた」
「馬鹿なんですか!?元就はお酒が好きではないというのに……!」
「そう怒鳴るなって…五十鈴、お前も悪い気はしてねぇだろ?」
愛する元就に抱き締められ愛を囁かれてるこの状況下が五十鈴にとって満更では無いのは事実で。
そう言われてしまうと怒るに怒れなくなってしまう。
「はぁ…もう…元就、大丈夫?」
「五十鈴……?」
「ごめんなさい、兄が貴方にお酒を…」
「……兄…長曾我部…五十鈴…我以外の男の名を……」
「え?どうし、ええっ!?ちょ、ま…っ!」
ドサッ、と小気味いい音と共に近くなる元就の、ほんのりと朱に染まった顔。押し倒されたのだ、と事を理解するまでにそう時間は掛からず。
ぐっ、と元就の細い腕でからでは考えられない程の力で引き寄せられて。
「五十鈴…」
「元就、何を、ま、待っんっ、」
唇に感じるぬくもりと、先程まで飛んできていた冷やかしの声がしん、と静まりかえって。五十鈴は今己がどういう状況下に置かれているのかをやっと理解した。
元就と、口付けを、している。
しかも兄や、多くの部下の目の前で。
五十鈴は頬にかあ、と熱が集まったのが分かって。
静まり返っていた場が、再度喧騒を取り戻す。
「ああああ五十鈴様が毛利に穢されたァァア!!」
「あの毛利殿が!?あの氷のような毛利殿が!?」
「いいんですかアニキィイ!五十鈴様が毛利に貞操を奪われやしたぜ!」
「オイコラ毛利イイイイイ五十鈴から離れやがれこの野郎!!」
ぎゃあぎゃあ。
一気に騒がしくなる周りに、五十鈴はされるがままの状態で内心で突っ込みを入れた。
助けてくれ!見てないで助けてくれ!
確かに元就のことは好きだし愛しているし、口付けされたって嫌な気分ではないのは事実だ。でもここでこの状況下でされるのは本意ではないのだ!誰かこの酔っぱらいを止めてくれ!
「ん…も、元就、や、だ」
ぐいぐい。と押し退けるように抵抗をすれば離れていく唇。むす、と不機嫌そうに歪められた顔さえ愛しいと思ってしまうがそうではなく!
「オイ!毛利いい加減に五十鈴から離れやがれ!」
抵抗する五十鈴の心情をようやく察したのか、元親が五十鈴と元就を引き離した。それに五十鈴は安堵の息を漏らし。
「五十鈴、大丈夫か?」
「…ありがとうございます、お兄様」
す、と五十鈴へと差し伸ばした手をぱしりと何者かに掴まれる。
ちらり、と一瞥すれば、恐らくまだ酔っているのであろう元就が元親をじっと睨んでいて。
「長曾我部貴様…我と五十鈴の邪魔をするなぞ…」
そう呟くと、ぐ、と元就が掴んだ手に力を込めたのが分かった。
にやり、とそれを挑発するように元親は笑みを浮かべて。
「ああ?五十鈴は俺の(妹)だからなァ?」
元親はそう言うと、愉しげに五十鈴の肩を引き寄せた。
何故わざわざ場を拗れさせるようなことを言うのかこの馬鹿兄貴は!と五十鈴は痛くなる頭を抱えた。
「貴様…余程死にたいと見える。五十鈴は我のぞ……」
ちゃき、と響く金属音。何時になく真面目な目付きをした元就が輪刀を構えたのだ。二人とも別の意味で性質が悪すぎる!と五十鈴は肩に置かれていた元親の手を払い除けた。
「うおっ!五十鈴!?」
「お兄様、意地が悪いです。…ごめんなさい、元就」
五十鈴は輪刀を構えた元就を飛び付くように抱き締めた。それに少しばかり驚いたように元就は目を見開いて。
「あのね。わ、私が一番好きなのは…も、元就だから…!」
かあ、と顔を赤くして呟く五十鈴に、元就は己の中の何かが音を立てて崩れたのが分かって。
「だ、だからあのね。その…」
そう上目遣いに見つめてられて。
そうか。これは据え膳か。ならば。
「私は…きゃっ!?」
ぐ、と。元就は軽々と五十鈴を持ち上げる。
所謂お姫様抱っこ、というやつで。
普段の元就であれば絶対にしないであろう蕩けたような表情で、五十鈴を愛おしそうに見つめた。
それにさぁ、と五十鈴は血の気が引いていく気がして。
あっ、これやばいやつだ。
「五十鈴…そんなにも……我の事を…」
「っ!」
「ならば我も存分に愛してやろう…褥の上で、な…」
「っ!!??!?!?も、もっ、も、元就っ!?」
普段なら絶対言わないであろう台詞を吐かれて、ぞわ、と肌が粟立った。
「明日は立てぬかもしれぬが…」
「ま、待ってえええ離してえええ!」
じたじた、と暴れる五十鈴の抵抗も虚しく、元就は軽い足取りで閨へと消えていったのであった。
(お酒は時と場合と量を守りましょう!)
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