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目の前にいるこれは誰だろうか。
「おお…!会いたかったぞ、五十鈴よ!」
このキラッキラの、極上の爽やかな笑顔を向けて己の手を握るこれは、一体誰だというのだろうか。
四国での兄のほっぽり出した政務を終えて、久々に元就に会いに安芸を訪れてみれば、肝心の元就の姿が見当たらず。兵にどうしたのかと尋ねれば、血相を変えて助けてくれと懇願されて。
何事かと思いつつ案内された西洋かぶれの奇怪な城へと足を運べば、ああ成程、と納得せざるを得なかった。
確かにこれは…助けも求めたくなる。
「我が愛しの五十鈴!そなたも我と共に愛を!愛を世界へと広めようぞ!」
何度も言おう。これは一体誰なんだ。
どこか神父を思わせる黒い衣装に身を包み、恍惚とした表情で己の手を握るこれは、一体。
「え?五十鈴?知りません誰ですか?人違いじゃないですか?」
私は何も見ていない。
爽やかな笑みを浮かべて愛を語る元就なんて。そんなもの見ていない。
「何を言っておるのだ五十鈴!さあさあ我と共にザビー様の愛を…!」
あ、これ完全に自分だけの世界だ、と五十鈴は遠い目を元就へと向ける。一体自分が不在にしている間に、何があったというのか。
「はあ…ほら元就。安芸に帰るよ、分かった?」
「五十鈴!ここではサンデーと呼ばぬか!」
知るかそんなもの!
とそう突っ込みたくなる気持ちを抑えて五十鈴は思わず苦笑した。完全に手遅れだこれは。
「ん?どうしたのですか、サンデー。随分と騒がしいようですが?」
どうしたものかと思考を巡らせていれば聞こえる声。ふと視線を移せば、奇抜な黒い服装に身を包んだ幼い顔立ちの青年が立っていて。
直感的に、ああ関わりたくない、と思った。
けれどそれは既に遅く。
「大友…!我は今愛しの五十鈴へと愛を語っていたところぞ!」
「おお、それは素晴らしい心掛けですサンデー!」
ずるずると引き摺られるように大友、と呼ばれた青年の前に連れられれば、にっこりと向けられる笑顔。
それに悪い予感がして、血の気が引いていくのが分かって。
「噂は予々聞いていましたよ!貴女がサンデーの愛しの五十鈴さん…ですね?」
「いいえ人違いです!!」
全力で拒否する五十鈴を余所に、大友はうんうん、と笑いながら頷いて。
待ってくれ。その含み笑いはなんなんだ!!
「時に五十鈴さん?こうしてザビー城を訪れたということは、貴女もザビー教へと入信しに来たのですね!?」
「違います!私はただ元就を連れ戻しに…」
「そうと決まれば早速洗礼名を決めなければ!」
「おい待て話を聞けぇ!」
あまりのその自由さにいつもの五十鈴はどこへやら、声を荒げてつっこんだ。くらり、と五十鈴は頭が痛くなるのを感じて、額を押さえる。
なんなんだこのノリは。全くもって理解が出来ないし、何よりついていけない。
「サンデーはどんな洗礼名が良いと思いますか?」
「五十鈴相応しい名でなければ我は納得せぬぞ!」
「全くサンデーは我儘ですねぇ~…うーん…でしたらウィングなんてどうです!エンゼルの羽根!五十鈴さんにピッタリなのでは!」
「ウィング…えんぜるの羽根…!良いぞ!五十鈴!今日からそなたはウィング五十鈴ぞ!」
「え?ちょっと元就、何を勝手に…!」
「さあ!それでは洗礼名も決まったことですし、ザビー様に挨拶に行きますよ!」
ぐいぐいぐい、と二人に押されるがままに城へと連れ込まれそうになり。
五十鈴はこの状況下に、己の中の何かが音を立てたのが分かって。
「いい加減に…しろぉ!!!!」
「!?」
ブンッ、と腕を振り払えば、二人は驚いたように目を見開いて。
…なんだか五十鈴の後ろに龍が見える気がするのは…気のせいであるとそう信じたいものだが。
ダァン!っと五十鈴は地面を勢いよく蹴れば、びくりと二人は肩を揺らして。
「元就ィ!」
「っ!」
「久々に…会いに来てみれば…ザビー教なんて胡散臭い宗教に現を抜かして安芸は放置、挙げ句に人の話を聞かずに人を勝手にその宗教に入信させようとさせる…いい加減にしろよ?あ?安芸に帰んぞオラ」
五十鈴の纏うオーラが黒い。
元就はさああ、と冷や汗が背中を伝うのが分かって。
五十鈴は怒らせると恐ろしいのだ。…下手をすれば、城が傾きかねない。勿論物理的な意味で、だが。
「っ…!だって我!我!五十鈴に会えずに寂しかった故…!」
「だってじゃねぇわアホか!仕方ないでしょう!?どこぞのクソアニキのせいで政務が溜まってたんだもの!それとも何!?元就は私の愛だけじゃ足りないの!?」
「そっ、それは…!五十鈴、話を聞いてくれぬか!」
「…はぁ?いい加減にしろって…言ってんだけど」
おろおろと元就は五十鈴を宥めようと必死に弁明していれば、何かが頬を掠めて。恐る恐るそれへと視線を移せば、見事なまでに深く壁に突き刺さる五十鈴の武器が目に入って。
「おい、元就」
「ひゃっひゃいいっ!!」
「帰んぞ」
にっこり、と黒い笑顔を浮かべる五十鈴に、元就はかいた冷や汗が止まらなくなるのを感じながら頷いた。
(ザビザビ☆パニック!)
もう二度と五十鈴は怒らせるまい。元就はそう心に誓ったのだった。
(皆さん、お邪魔致しました。元就は連れて帰りますね)
(そんなぁ!ああっ、サンデー待ってください!!)
(…おい、大友とか言ったか)
(っ、はっはいいいっ!?)
(今後元就に金輪際関わるんじゃねぇぞ。…今度はこの城、潰すぞ?)
(ひっ、ひいいいいいっ!!)
(五十鈴超怖い……)
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