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第零章

突然消えた音に彼に視線を移し、動く口元に周りを見渡すと二十人程度の人に囲まれていた。

 「先生、巻き込んでごめんね…ほんとは今すぐにでもここから離れて欲しいところだけど」

 「まぁ、安心して、先生のことは守るからここから動いたらダメだよ」

 そういい笑いかけ肩を叩く。そして次々に周りにいた人を蹴散らして行く。

 『先生、壱和さん!!』

 「戻ってきた。君は先生を守れ」

 『あぁ、もう。それは勿論っすけどあんたを守らないと後でドヤされるんッスよ。先生。ここを動いちゃダメッスよ』

 そういい、護衛の彼は俺や壱和さんを守りつつ攻撃をしていく。

俺はただその様子を見守ることしか出来なかった。

周りにいた相手を二人で追い払い、こちらに戻ろうとした壱和さんの体が大きく揺れ急ぎ駆け寄った。

 「おっと。むちゃし過ぎですよ壱和さん」

 「えへへ、ごめんね。先生は怪我してない?」

 「はい。大丈夫です」

 「そうなら良かった」

 さぁ。帰ろという彼に背中を押され、歩き出した時バンッと銃声が響き、軽い力で押された。

 「…え…っ…い、壱和さん…」

 「………ゲホッ…」

「壱和さん!!」

 どうして。さっきまで護衛をしていた彼が…

さっきまで自分を守っていた彼が銃をこちらに向けていた。

”先生、ごめんなさい”そう口元が動き、彼はもう一度銃口を向け引き金を引いた。二度にまわって響いた銃声。

目の前に赤い飛沫が見えた。

 「よ、爲魅、大丈夫?」

いつもの様に優しく頭を撫でられ、”大丈夫”だと笑いかけたと思うと、彼の体が揺れこちらに重く伸し掛る。
 「…壱和さん、壱和さん!!!」

 『爲魅!伏せろ!!』

 後ろから聞こえてきた声に咄嗟に身を伏せる。銃声と共に見えていた彼の体が傾く。

 「…………っ…」

 「爲魅、待て。帰るぞ」

 やってきた彼は眠る壱和さんを軽々と抱えた。後日、ニュースで組同士ての抗争により組員らしき男性の遺体が見つかったと報道が流れ、内密に壱和さんの葬儀が行われた。
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