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第零章

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触れようとすると手を思い切り弾かれ、小さくなり震え出す。ボロボロと泣きじゃくる様子はこいつに初めて会った頃のことを思い出した。あの時俺はこの子に手を伸ばした。あの時と同じようにこの子に手を伸ばした。ピクっりと体を強ばらせ、更に距離をとる。

今にも消えそうな声で両親を呼んだ。

 「父様、母様……っ…」

 震えるこの子に一気に距離をつめそっと抱きしめ背中摩る。するとこの子はあの時と同じように、どこか安心したように身体の力が抜けた。

眠るこの子の頭をそっと撫でると少し身を捩り手に擦り寄り穏やか寝顔を浮かべていた。

 「…爲魅、…辛いこと思い出させて悪かったな…」

 香炉の傍に置かれていた箱を開けるとまだ使われていない香粉。

近くにあった和紙に包み懐に忍ばせた。

 あの子の部屋を出たあと、組長の部屋を尋ねた。

 「これで、今回のことは見逃していただけるですよね?双弥組長」

 あの子の部屋から持ってきた香粉を差し出した。
それで今回のことには目を瞑るというものだった。

 「あぁ、勿論。コレを先生が作っていたと言うことは今は伏せておく。それにまだその時ではないからな」

 「…………それはどう言う意味で?…」

 「香満、無駄な詮索はするなよ?それに忘れるな俺の言葉で先生を処分することも簡単ということを」

 「…………」

 下がれと言う言葉に部屋を後にした。あの子の部屋に戻る途中誰かと話しながら裏口から出ていく組長の姿を見かけた。

「あれは組長…」
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