月
「……たっ……けん…っ…た…」
どこからか聞こえる、ささやくように小さな自分を呼ぶ声。
置屋開店前の夕時、まだ閑散としている置屋の番頭台で事務仕事をしていた健太はあたりを見回した。
「菊さん、なんでこんなところに!」
小さな声の主は、遊女部屋へ続く廊下から土間の番頭部屋をのぞいている菊だった。
健太はキョロキョロと周りを見回しながら、素早く菊のところへ向かった。
「菊さん、こんなとこ来たらあきません。こんなとこ旦那さんに見つかったら…俺が…」
健太が菊の前に立つと、菊は健太を必死で見つめパクパク口を開けて、何かを言おうとした。
「……だ…っ…れ……あっ……の…っ……」
その時だった。
「菊ー!!どこだー!!」
置屋の主人が向こうの方で怒鳴る声がした。
「菊さん早く、戻ってください!」
健太は番頭部屋に僅かに入っていた菊の体を両手で廊下に押し出すと、部屋の障子をパシャリと閉めた。
健太は気づいてしまったのだ。
どんなに菊が美しくても子供を産めるわけじゃない。
それに女装は遊郭では通用するが、田舎の村ではなんと言われるか。
好きという気持ちだけでは、連れて帰れない。
それに、そもそも菊は商品なのだ。
丁稚奉公の自分とは身分が違う。それにあと1年で借金を完済して奉公がとける。
菊を身請けしてくれる人がいるのなら、その人と幸せになるべきだと、健太は考えるようになっていた。
どこからか聞こえる、ささやくように小さな自分を呼ぶ声。
置屋開店前の夕時、まだ閑散としている置屋の番頭台で事務仕事をしていた健太はあたりを見回した。
「菊さん、なんでこんなところに!」
小さな声の主は、遊女部屋へ続く廊下から土間の番頭部屋をのぞいている菊だった。
健太はキョロキョロと周りを見回しながら、素早く菊のところへ向かった。
「菊さん、こんなとこ来たらあきません。こんなとこ旦那さんに見つかったら…俺が…」
健太が菊の前に立つと、菊は健太を必死で見つめパクパク口を開けて、何かを言おうとした。
「……だ…っ…れ……あっ……の…っ……」
その時だった。
「菊ー!!どこだー!!」
置屋の主人が向こうの方で怒鳴る声がした。
「菊さん早く、戻ってください!」
健太は番頭部屋に僅かに入っていた菊の体を両手で廊下に押し出すと、部屋の障子をパシャリと閉めた。
健太は気づいてしまったのだ。
どんなに菊が美しくても子供を産めるわけじゃない。
それに女装は遊郭では通用するが、田舎の村ではなんと言われるか。
好きという気持ちだけでは、連れて帰れない。
それに、そもそも菊は商品なのだ。
丁稚奉公の自分とは身分が違う。それにあと1年で借金を完済して奉公がとける。
菊を身請けしてくれる人がいるのなら、その人と幸せになるべきだと、健太は考えるようになっていた。
