月
それから3年、菊は客を取り、健太は丁稚奉公の下積みとして働いていた。
健太は日中は掃除洗濯、遊女(男性だけど)の体を拭いたり、長い髪を櫛でといて結ったり、着付けの手伝いと身の回りの世話、夜は通りで店への呼び込みをしたりと、忙しく働いていた。
菊は成長するにつれ容姿の美しさが増し、置屋も遊郭の端に追いやられている女装遊女はゲテモノと認識されていたがらも、徐々に人気が出始めてきた。
寒い真冬の深夜、菊はこっそり健太の部屋へ訪れる。部屋といっても階段下の小さな物置。健太は木箱を机にして安物の油ランプを灯し、薄い布団で体をくるんで本を読んでいた。
菊は持ってきた本を健太に差し出した。
「遊郭作法指南」、当時の遊郭ガイドブックだった。
たまに客が本を置いていく、文字が読めない菊はどんな本かわからないが、きっと健太に役に立つと時々届けにくるのだ。
いつも、「ありがとうございます」と健太は受け取る。もちろん役には立たないが、腕を広げて懐を開ける健太。
そこに後ろ向きにすっぽりと収まるように座る菊と、後ろから抱きすくめて自分と菊を布団ですっぽりと覆う健太。
菊の結い上げた髪から香る椿油、もちろん健太が着付けで付けたものだ。
いつも、健太は菊に自分の生まれ故郷の話をした。
山に囲まれた、のどかで美しい里山であること。綺麗な川が流れ、美味しい魚が捕れること。土壌が良く、美味しい野菜や米が育つこと。借金を返し終わったら故郷へ帰り、農家に戻ること。
「その時はあなたも一緒に連れて行く、そこで静かに暮らそう」
故郷で菊と一緒に暮らそう、健太は本気でそう思っていた。
だから菊は一生懸命仕事をした。
いつかここを抜けだす。そして健太の故郷へ行ってふたりで暮らす。
それだけを胸に、どんなことがあっても耐えられた。
健太は日中は掃除洗濯、遊女(男性だけど)の体を拭いたり、長い髪を櫛でといて結ったり、着付けの手伝いと身の回りの世話、夜は通りで店への呼び込みをしたりと、忙しく働いていた。
菊は成長するにつれ容姿の美しさが増し、置屋も遊郭の端に追いやられている女装遊女はゲテモノと認識されていたがらも、徐々に人気が出始めてきた。
寒い真冬の深夜、菊はこっそり健太の部屋へ訪れる。部屋といっても階段下の小さな物置。健太は木箱を机にして安物の油ランプを灯し、薄い布団で体をくるんで本を読んでいた。
菊は持ってきた本を健太に差し出した。
「遊郭作法指南」、当時の遊郭ガイドブックだった。
たまに客が本を置いていく、文字が読めない菊はどんな本かわからないが、きっと健太に役に立つと時々届けにくるのだ。
いつも、「ありがとうございます」と健太は受け取る。もちろん役には立たないが、腕を広げて懐を開ける健太。
そこに後ろ向きにすっぽりと収まるように座る菊と、後ろから抱きすくめて自分と菊を布団ですっぽりと覆う健太。
菊の結い上げた髪から香る椿油、もちろん健太が着付けで付けたものだ。
いつも、健太は菊に自分の生まれ故郷の話をした。
山に囲まれた、のどかで美しい里山であること。綺麗な川が流れ、美味しい魚が捕れること。土壌が良く、美味しい野菜や米が育つこと。借金を返し終わったら故郷へ帰り、農家に戻ること。
「その時はあなたも一緒に連れて行く、そこで静かに暮らそう」
故郷で菊と一緒に暮らそう、健太は本気でそう思っていた。
だから菊は一生懸命仕事をした。
いつかここを抜けだす。そして健太の故郷へ行ってふたりで暮らす。
それだけを胸に、どんなことがあっても耐えられた。
