健太が遊郭内を探していると、菊は遊郭の中央に流れる川の河川敷で肌寒い秋の夕暮れ中、薄い浴衣一枚でシクシクと泣きながら丸まって座っていた。
健太は「戻ろう」と声をかけたが、菊は泣きながら激しく首を振った。
健太は関西の田舎の農民の生まれの12歳で、逝去した父に変わり家族を養うことと、父が残した借金返済のため、最近江戸に丁稚奉公に出てきた。
健太は6人兄弟の長男で、菊が田舎に残してきた弟達と同じように思えた健太は近くの店で駄菓子を買い、持っていたカエルのおもちゃと駄菓子をグズる兄弟をなだめるように菊に渡した。
菊は初めて食べる甘いお菓子を夢中で頬張り、初めて自分に与えられたおもちゃに驚いた。
木製のちょっとしたおもちゃで、お尻を押すと竹製のバネでピョンと跳ねる、当時の農民が我が子に自作する定番のおもちゃだった。
健太は作ったおもちゃを出稼ぎ出発前に弟達に渡すつもりが忘れていて、袂に入れっぱなしだった。
菊は健太が手のひらでカエルを跳ねさせると驚いて、それを受け取ると自分の手のひらで楽しそうに遊んだ。
しばらくその姿を眺めていた健太は、「戻ろう、一緒に謝ってあげるから。じゃないともっと酷いことをされる」と菊をなだめ、菊は小さく頷いた。
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