月
「もう!籠屋も煙たがる山奥なんて!だから田舎は好かんわ!」
土間に崩れるように座った凛は、冷たい沢の水が入ったタライに素足を浸して声を上げた。
健太は置屋の丁稚奉公の習慣か、投げ出された凛の荷物をきれいに揃えたり、綺麗な手ぬぐいと冷たい水が入った湯呑みを運んだりと甲斐甲斐しく凛の周りを動き回っていた。
虫の鳴き声だけが辺りに響く夕暮れ、夕飯を終えた凛は湯呑みを手に持ち囲炉裏の炭火を眺め、健太は長旅で穴が開いた凛の足袋を縫っていた。
「しっかし、こんな山奥でひとりで暮らして、あんたも寂しい人やね。」
健太が帰郷してすぐ、母親は病に倒れ、兄弟達は豊かさを求めて奉公や嫁ぎ先にと村を後にした。
「へい。凛さんこそこんなところまで遥々お越しいたでいて…お元気そうでなによりです。」
健太は縫い物に目を落としながら、穏やかな口調でいった。
「それで…菊さんはお元気ですか。」
今夜は、菊が最後に見た満月から2回目の満月の夜だった。
「…殺されたんよ、あの子。」
健太はガバっと顔を上げ、凛を見た。
「なんで…」
凛は結髪からかんざしを引き抜くと、健太に差し出した。
「遊女の身請けを手放しで喜ぶ名家があるわけないことぐらい、あんたもわかるやろ。ほら、これはあんたが持っておき。一生離したらあかんで。」
健太は震える両手でそれを受け取ると胸に抱き、大きな背中を丸めて大粒の涙を流した。
土間に崩れるように座った凛は、冷たい沢の水が入ったタライに素足を浸して声を上げた。
健太は置屋の丁稚奉公の習慣か、投げ出された凛の荷物をきれいに揃えたり、綺麗な手ぬぐいと冷たい水が入った湯呑みを運んだりと甲斐甲斐しく凛の周りを動き回っていた。
虫の鳴き声だけが辺りに響く夕暮れ、夕飯を終えた凛は湯呑みを手に持ち囲炉裏の炭火を眺め、健太は長旅で穴が開いた凛の足袋を縫っていた。
「しっかし、こんな山奥でひとりで暮らして、あんたも寂しい人やね。」
健太が帰郷してすぐ、母親は病に倒れ、兄弟達は豊かさを求めて奉公や嫁ぎ先にと村を後にした。
「へい。凛さんこそこんなところまで遥々お越しいたでいて…お元気そうでなによりです。」
健太は縫い物に目を落としながら、穏やかな口調でいった。
「それで…菊さんはお元気ですか。」
今夜は、菊が最後に見た満月から2回目の満月の夜だった。
「…殺されたんよ、あの子。」
健太はガバっと顔を上げ、凛を見た。
「なんで…」
凛は結髪からかんざしを引き抜くと、健太に差し出した。
「遊女の身請けを手放しで喜ぶ名家があるわけないことぐらい、あんたもわかるやろ。ほら、これはあんたが持っておき。一生離したらあかんで。」
健太は震える両手でそれを受け取ると胸に抱き、大きな背中を丸めて大粒の涙を流した。
