「ワッハッハッハッハッ!」

若旦那は大きく笑いながら、盃の酒をグイッと飲んだ。

「若旦那様、笑い事ではありません!若奥様の綺麗なお肌に何かあったら!」

女中は恨めしそうな顔をしながら、菊の顔に瓜を擦りつぶりたものを練りまくり、手ぬぐいを顎にかけ頬を覆うと、頭の上で結んだ。
菊は、同様に腕とふくらはぎにもすり潰した瓜を塗りたくられ手ぬぐいでぐるぐる巻きにされている。

「若奥様、お休みになられるまで手ぬぐいを取ってはなりませんよ。」

梅雨が明けたこの時期、豪商の蔵では下働き総出で中の荷物を天日干しにする作業をしていた。
7月初旬の強い日差しの日中、その作業に参加していた菊の透き通る白い肌は、日焼けをしない代わりに真っ赤に腫れ上がってしまったのだ。
「くれぐれも、若奥様にお酌などさせませんように」と女中は若旦那に釘をさし部屋を出ていった。

「菊、白い肌のお前がチョロチョロと動き回っていたのが、櫓の上からでもわかったよ。ご苦労だったな。」

菊は微笑みながら膝の上で指をからめ、所在なさげに下を向いた。
若旦那は穏やかな表情で徳利を掴み、自ら盃に注いでグイッと飲み干した。
菊がこの家に越して、そろそろ4ヶ月が経とうとしていた。

その日の深夜、若旦那は横でモゾモゾと動く気配に目を覚ました。
菊が布団から出ていく気配だった。
薄暗い部屋の中、菊は布団から出ると障子を開け、縁側へと出ていった。
月明かりの一筋が畳を照らす。
菊は毎晩、若旦那が寝静まると縁側に出て夜空を眺めるのだ。
若旦那はその光景を薄目で見ると、ガバっと反対側に寝返りを打ち目を閉じた。
14/20ページ
スキ