月
「今夜で決めろ、明日には身請けの印を押す。しくじったら…わかってるな。」
菊の部屋へ続く廊下で、小柄な置屋の主人が健太を見上げ凄んでいた。
「へい…」
酒瓶とお猪口を持った健太は大きな体を縮こませ、俯いて返事をした。
主人は、昔から健太と菊の仲を察していた。
しかし、所詮は子供の戯れ。菊が色気づいてちょうど良いくらいに思っていたのだ。
健太が部屋へ入ると、鮮やかな牡丹柄の西陣織の浴衣を着た菊が、髪をきれいに結い直し、鏡に向かい紅を引いているところだった。
振り返った菊の顔はパっと明るくなり、腰を降ろした健太の隣にぴったりと寄り添うように座ると、健太が持っているお猪口に甲斐甲斐しくお酌を始めた。
お酌される酒を、健太は何度もグイッと飲み干した。
そして、やがて健太の手が止まった。
菊はこれから始まることに備え、襟元を直したり、帯を整えてそれを待った。
「菊さん、俺の頼みを聞いてください。」
予想外の健太の言動に、菊は驚いて隣に座る健太の顔を見上げた。
「若旦那の身請けを受けてください」
健太は空のお猪口を持ったまま、床に目線を落として言った。
「あなたはここを出て、若旦那の元で何不自由なく暮らすべきだ。」
菊が両手で健太の腕を掴み、激しく首を横に振った。
その拍子に健太の手からお猪口が落ちて、畳の上に転がった。
菊は健太の腕を掴み大きな瞳を見開いて、必死で健太を見つめながら何度も首を横に振った。
「…俺はあなたを、連れて帰ることは…できません」
菊はすがるようにさらに健太の腕を強く掴み、うっすらと涙が滲み始めた瞳を見開いて健太を見つめながら、激しく首を横に振った。
「……い…やっ…!………つ…れっ……て…っ…て…!…」
健太の瞳が、ようやく菊を見つめた。
健太は、自身の腕を強く握る菊の腕を優しく握り返して言った。
「…あなたが身請けをしなければ…俺の今までの返済が…おじゃんになります…」
健太を見つめる菊の大きな瞳に、みるみると涙がたまっていった。
「わかってください…お願いします…」
健太は菊の瞳を見つめながら、つぶやくように言った。
健太を見つめて動かない菊の大きな瞳から、ボロボロと大粒の涙があふれた。
健太の腕を掴んだまま、やがて菊は俯くと大粒の涙を流しながら小さく頷いた。
菊の部屋へ続く廊下で、小柄な置屋の主人が健太を見上げ凄んでいた。
「へい…」
酒瓶とお猪口を持った健太は大きな体を縮こませ、俯いて返事をした。
主人は、昔から健太と菊の仲を察していた。
しかし、所詮は子供の戯れ。菊が色気づいてちょうど良いくらいに思っていたのだ。
健太が部屋へ入ると、鮮やかな牡丹柄の西陣織の浴衣を着た菊が、髪をきれいに結い直し、鏡に向かい紅を引いているところだった。
振り返った菊の顔はパっと明るくなり、腰を降ろした健太の隣にぴったりと寄り添うように座ると、健太が持っているお猪口に甲斐甲斐しくお酌を始めた。
お酌される酒を、健太は何度もグイッと飲み干した。
そして、やがて健太の手が止まった。
菊はこれから始まることに備え、襟元を直したり、帯を整えてそれを待った。
「菊さん、俺の頼みを聞いてください。」
予想外の健太の言動に、菊は驚いて隣に座る健太の顔を見上げた。
「若旦那の身請けを受けてください」
健太は空のお猪口を持ったまま、床に目線を落として言った。
「あなたはここを出て、若旦那の元で何不自由なく暮らすべきだ。」
菊が両手で健太の腕を掴み、激しく首を横に振った。
その拍子に健太の手からお猪口が落ちて、畳の上に転がった。
菊は健太の腕を掴み大きな瞳を見開いて、必死で健太を見つめながら何度も首を横に振った。
「…俺はあなたを、連れて帰ることは…できません」
菊はすがるようにさらに健太の腕を強く掴み、うっすらと涙が滲み始めた瞳を見開いて健太を見つめながら、激しく首を横に振った。
「……い…やっ…!………つ…れっ……て…っ…て…!…」
健太の瞳が、ようやく菊を見つめた。
健太は、自身の腕を強く握る菊の腕を優しく握り返して言った。
「…あなたが身請けをしなければ…俺の今までの返済が…おじゃんになります…」
健太を見つめる菊の大きな瞳に、みるみると涙がたまっていった。
「わかってください…お願いします…」
健太は菊の瞳を見つめながら、つぶやくように言った。
健太を見つめて動かない菊の大きな瞳から、ボロボロと大粒の涙があふれた。
健太の腕を掴んだまま、やがて菊は俯くと大粒の涙を流しながら小さく頷いた。
