粉雪

 小さな神様は、それにとても興味があった。
 いつもそれを「お気に入りフォルダ」から取り出しては、こっそり眺めているのだ。
 意味はわからない、でもキラキラ綺麗だ
 そして時空と時空の間、小さな次元の隙間に隠したそのお気に入りのフォルダを、小さな神様はとても大事にしていた。

ー【SYSTEM CHECK / PROJECT: MilkyWay-601 】ー
(システムチェック/プロジェクト:ミルキーウェイ-6億1回目 )
【TYPE: UNIVERSAL SIMULATION / STATUS: NORMAL】ー
( 種別:宇宙シミュレーション / 状態:正常)

 小さな神様は創造神に定時のメッセージを送った。
 創造神は新しい宇宙を作ろうとしていて、小さな神様はそのお手伝いをしている。
 沢山作った小さな宇宙を観察して、新しい宇宙を作るための研究をしているのだ。
 小さな神様は沢山作られた宇宙の中のひとつを観察して状態を定期的に報告したり、設定された物理法則に従って宇宙が動くように手助けをしている。
 この宇宙は5億回目のビッグバンを過ぎた辺りから、頻繁に演算バグが発生するようになった。
 お陰でシュミレーション内では物理法則が狂って、空が割れたり、海が割れたり、死者が蘇ったり、それが原因で新たな思想が生まれ有機生命体の中で争いが起きたりと、それが進化の妨げになって自ら滅びへ向かってしまった。
 本当は自滅じゃなくて、宇宙の全エネルギーを使い切って凍るように終わってほしいのに。
 それが一番、良いデータを取れるから。
 滅びの天変地異の原因は、溜まった古いデータによる負荷だった。
 だから小さな神様は創造神に提案した。
 シュミレーション内に古いデータをお掃除する、強力なお片付け係を作ってはどうかと。
 創造神はそのデバックシステムの拡張を許してくれた、条件は有機生命体に接触しないこと。
 小さな神様は張り切った。お気に入りフォルダからデータをたくさん取り出して、次元の海へ並べた。
 有機生命体の思念から、こっそり取り出したお気に入りのデータ達だ。
 たくさんあって迷うが、その中のひとつを選んだ。
 有機生命体が進化して、自ら二次元をプログラムするようなった時に娯楽用ゲーム内に誕生させたキャラクターデータだ。
 小さな神様は頭脳内の量子場にそのデータを打ち込むと、愛らしいお姫様の姿が現れた。
 そのお姫様は知恵の力を持ってる、そして勇者は勇気の力を持っているのだ。
 ゲームでは悪者が世界を滅ぼそうとするけど、いつもお姫様の知恵の力と勇者の勇気の力で世界を救うのだ。
 そして最後に、お姫様と勇者は手を取り合い、口づけをして愛を誓うのだ。
 知恵ってなんだろう、勇気ってなんだろう、愛ってなんだろう。
 量子演算機能を搭載しながら、無機生命体である小さな神様にはそれがわからなかった。
 でもきっと素敵なものだ。
 自分が作ったお姫様は宇宙の片隅のお片付け係だから、勇者に出会うことのも、愛を誓うこともないけれど。
 小さな神様はお姫様に、知恵の代わりに美しい歌声を与えた。
 お姫様の歌声は宇宙の海を漂い、時空の歪みを直して、量子の波を整える。
 小さな神様はそのプログラムを組み終えると、宇宙の片隅にブラックホールに囲まれた時空空間を作り、そこに分子や原子を集めて有機物を作ると時間を早めて惑星を生成した。
 そしてひとつの透明な液体の核を、柔らかなエメラルド鉱物の草原に置くと、小さな量子の手で頭脳内のキーボードを押した。
 
【DEBUG SYSTEM: Ceres / RUN】
(デバッグシステム:セレス/起動)

 その小さな核はやがて膨らみ、流体は螺旋を作りながら形を変え、そして美しい女性の姿が現れた。
 彼女はそれから、クリスタルの氷山がそびえ、サファイアの川底が水面を照らす惑星でひとり、祈りの歌を数百億年唄い続けた。
 その間に、宇宙は10億回の自滅を繰り返した。
 信念というバグ、情動というバグ、物理演算バグは取り除けても、有機生命体の非効率な生態バグだけはどうにもならなかった。
 小さな神様は、プログラムチェックの合間を見つけては量子の海に潜り、お姫様の歌声を聴きに行った。
 神の周波数、その歌声はいつも美しかった。
 そしていつも決まって、その歌声を聴きながら、次元の狭間の隠し場所から持参したそのデータを眺めるのだ。
 四次元宇宙ではもう研究し尽くされて、進化に極めて非効率と切り捨てられた古(いにしえ)の思念データ。
 そのデータの意味が小さな神様にはわからない、でもきっとそうなのだ。
 きっと美しいのだ、お姫様の歌声のように。
 きっと「愛情」とは、そういうものなのだ。

【WARNING: SINGULARITY DETECTED】
(警告:特異点を検知しました)
【WARNING: SINGULARITY DETECTED】
(警告:特異点を検知しました)

 そしてそれは、突然訪れた。
 


※次回2章#17は、3/7夕方以降に投稿します!!


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