1章 「目黒の桜」
「ということで、当日は大幅に配置が変わるからな。」
土方は、細く引き締まった腰に手を当て言った。
隊士達の前でなら足を大きく開き、腕組みでもしていればカッコが付くが、眼下のこのいつもの面々に対してはそんな気も起こらない。
先程、終よりスッと目の前に置かれた白玉クリームあんみつのデザートカップを手に取った土方は、カップフタ上部にテープで張り付けられていたプラスチックのデザートスプーンを、もう一方の手でつまんで引き剥がした。
「それと、変更は前日の全隊会議で発表するから、それまでは伏せとけよ。一番隊は神山が指揮を執る。総悟、神山でいいな?」
そう言って土方はデザートスプーンの先端を袋ごと咥えると、柄の下の部分をつまんで上へスライドさせた。
突き破りあらわになったプラスチックの柄をつまむと、袋を咥えたままスプーンだけを口からは離した。
「安心してくだせぇ、土方さん。一番隊はチャンバラ以外だいたいあいつが大将してますんで。」
沖田は親指を立てながら、ニヤッと笑った。
「お前はちゃんと仕事しろ。」
土方がまだくわえていたスプーンの袋を前方の沖田へ「フッ」と強く吹き飛ばして言うと、沖田は笑いながらそれを瞬時に指で弾き返した。
近藤からは、「やっと十八になったばかりだ、まだまだ子供なんだろう。」と言われているが。
「それから、総悟と終は姫さんの身辺警護だ。まぁ、あちらさんもゾロゾロ連れてくるらしいからな、近くに張り付いてりゃいいだろ。あとふたりともスマホの衛星通信オンにしとけよ。当日はインカムメインだが、念のためだ。」
土方はそう言いながら、スプーンを持った手でカップのフタを取ると、それをテーブルの上に無造作に置いた。
「しかしトシよ。近くで張り付くとはいえ、姫君の警護がドS王子と無口なシャイボーイの変態コンビで大丈夫か?」
傍らで腕組みをして座っている近藤が、土方を見上げて言った。
「あぁ、それなら心配いらねぇ。身辺警護には山崎も付ける。バカで中和してちょうどよくなる。」
土方は手元に目線を落としたままそう言うと、餡の海から白玉を掘り出し、それにクリームをたっぷり乗せた。
「ここからなんだがな、、、。」
そして、それを頬張り言った。
「公演が終わり次第、身柄を確保。」
土方は再度白玉を掘り出すと、そこに餡やクリームをしこたま絡ませ頬張り、スプーンをその中へ突き刺した。
そして、カップを持つ手をテーブルぎりぎりまで下げ皆の方に向き直った。
「機材搬入口を出て右に回れ、そこにうちのポットを配備して置く。姫さん乗せて大気圏外まで行け。」
土方はそう言うと、スプーンを持ちながらカップの位置を首元の高さに戻し、また白玉を掘り始めた。
「大気圏外とは穏やかじゃねぇな。土方さん、そのお姫さん何者なんでぇ。」
そろそろ退屈し始めたのか、沖田はパイプ椅子の背もたれに沈んでだらしなく寄りかかっていた。
「聞いてやるな、総悟よ。うんこ的なものだ。異星の御婦人だからな、気圧の関係で出るものも出なくなるのだろう。」
なぜそんなデタラメをさも有り得るように言えるのか、近藤は腕組みをしながら小さくウンウンと満足そうに頷いた。
「そんじゃ〜しょうがねぇや。」
完全に興味を失った沖田の顔は、すでに天井を向いていた。
「納得すんなよ、そんなわけねぇーだろ。ほら総悟、ちゃんとしろ。」
土方は空になったカップにスプーンを入れると、テーブルの上から先程置いたフタを拾い、その上に被せた。
「松平のとっつぁんには何も聞くなと言われたんでね、俺も知らねー。」
そう言いながらゴミ箱に歩み寄りカップを捨てた土方は、その脇の壁にある不自然な溶接痕に目を止め、「フンッ」と鼻で笑った。
(それでも隠したつもりかよ。)
有ると分かっていながら、いつも無意識に目視してしまう。
「まぁ、そういうことだ。」
テーブルの前に戻った土方は、はっきりとそう言った。
俺達が幕府を身内だと思うことも、幕府が俺達を身内だと思うことも、未来永劫ないだろう。
「ところでトシよ。」
俺達はいいところ、せいぜいトカゲの尻尾切りだ。
「目黒の桜はいつ咲くのだろうな。」
沖田と終の目が、一瞬で据わった。それは人斬りの目だった。
土方はスボンのポケットから煙草とライターをを取り出すと、咥えて火を付けた。
そして深く吸い込むと、天井にある不自然な丸い窪みを見つめながら白い煙を吐いた。
「まぁ、そろそろだろうな」
どんなに意図が不明でも、結末だけは決まっていたのだ。
1章完・2章へ続く
土方は、細く引き締まった腰に手を当て言った。
隊士達の前でなら足を大きく開き、腕組みでもしていればカッコが付くが、眼下のこのいつもの面々に対してはそんな気も起こらない。
先程、終よりスッと目の前に置かれた白玉クリームあんみつのデザートカップを手に取った土方は、カップフタ上部にテープで張り付けられていたプラスチックのデザートスプーンを、もう一方の手でつまんで引き剥がした。
「それと、変更は前日の全隊会議で発表するから、それまでは伏せとけよ。一番隊は神山が指揮を執る。総悟、神山でいいな?」
そう言って土方はデザートスプーンの先端を袋ごと咥えると、柄の下の部分をつまんで上へスライドさせた。
突き破りあらわになったプラスチックの柄をつまむと、袋を咥えたままスプーンだけを口からは離した。
「安心してくだせぇ、土方さん。一番隊はチャンバラ以外だいたいあいつが大将してますんで。」
沖田は親指を立てながら、ニヤッと笑った。
「お前はちゃんと仕事しろ。」
土方がまだくわえていたスプーンの袋を前方の沖田へ「フッ」と強く吹き飛ばして言うと、沖田は笑いながらそれを瞬時に指で弾き返した。
近藤からは、「やっと十八になったばかりだ、まだまだ子供なんだろう。」と言われているが。
「それから、総悟と終は姫さんの身辺警護だ。まぁ、あちらさんもゾロゾロ連れてくるらしいからな、近くに張り付いてりゃいいだろ。あとふたりともスマホの衛星通信オンにしとけよ。当日はインカムメインだが、念のためだ。」
土方はそう言いながら、スプーンを持った手でカップのフタを取ると、それをテーブルの上に無造作に置いた。
「しかしトシよ。近くで張り付くとはいえ、姫君の警護がドS王子と無口なシャイボーイの変態コンビで大丈夫か?」
傍らで腕組みをして座っている近藤が、土方を見上げて言った。
「あぁ、それなら心配いらねぇ。身辺警護には山崎も付ける。バカで中和してちょうどよくなる。」
土方は手元に目線を落としたままそう言うと、餡の海から白玉を掘り出し、それにクリームをたっぷり乗せた。
「ここからなんだがな、、、。」
そして、それを頬張り言った。
「公演が終わり次第、身柄を確保。」
土方は再度白玉を掘り出すと、そこに餡やクリームをしこたま絡ませ頬張り、スプーンをその中へ突き刺した。
そして、カップを持つ手をテーブルぎりぎりまで下げ皆の方に向き直った。
「機材搬入口を出て右に回れ、そこにうちのポットを配備して置く。姫さん乗せて大気圏外まで行け。」
土方はそう言うと、スプーンを持ちながらカップの位置を首元の高さに戻し、また白玉を掘り始めた。
「大気圏外とは穏やかじゃねぇな。土方さん、そのお姫さん何者なんでぇ。」
そろそろ退屈し始めたのか、沖田はパイプ椅子の背もたれに沈んでだらしなく寄りかかっていた。
「聞いてやるな、総悟よ。うんこ的なものだ。異星の御婦人だからな、気圧の関係で出るものも出なくなるのだろう。」
なぜそんなデタラメをさも有り得るように言えるのか、近藤は腕組みをしながら小さくウンウンと満足そうに頷いた。
「そんじゃ〜しょうがねぇや。」
完全に興味を失った沖田の顔は、すでに天井を向いていた。
「納得すんなよ、そんなわけねぇーだろ。ほら総悟、ちゃんとしろ。」
土方は空になったカップにスプーンを入れると、テーブルの上から先程置いたフタを拾い、その上に被せた。
「松平のとっつぁんには何も聞くなと言われたんでね、俺も知らねー。」
そう言いながらゴミ箱に歩み寄りカップを捨てた土方は、その脇の壁にある不自然な溶接痕に目を止め、「フンッ」と鼻で笑った。
(それでも隠したつもりかよ。)
有ると分かっていながら、いつも無意識に目視してしまう。
「まぁ、そういうことだ。」
テーブルの前に戻った土方は、はっきりとそう言った。
俺達が幕府を身内だと思うことも、幕府が俺達を身内だと思うことも、未来永劫ないだろう。
「ところでトシよ。」
俺達はいいところ、せいぜいトカゲの尻尾切りだ。
「目黒の桜はいつ咲くのだろうな。」
沖田と終の目が、一瞬で据わった。それは人斬りの目だった。
土方はスボンのポケットから煙草とライターをを取り出すと、咥えて火を付けた。
そして深く吸い込むと、天井にある不自然な丸い窪みを見つめながら白い煙を吐いた。
「まぁ、そろそろだろうな」
どんなに意図が不明でも、結末だけは決まっていたのだ。
1章完・2章へ続く
