1章 「目黒の桜」


「ブォォーン。」
 そこは剥き出しの並列蛍光灯数台で不自然なほど明るく照れされた、四方をコンクリートで囲まれた二十畳ほどの地下室だった。
 入って右の壁面には、その面積の半分に達するほどの巨大な真空管式衛星通信装置が設置されており、そこから発せされる膨大な排熱を冷却するためのパイプが装置周辺に張り巡らされている。
 そして、左の壁面には先日完成したばかりの敷地外部へつながる出入口ドアがあり、奥の壁面には、「飲酒運転撲滅キャンペーン」や「危険運転取締り強化月間」の登り、重ねられた赤色の三角コーンや腰の高さ程のゼブラ柄バリーケード、警視庁マスコット「御用くん」の着ぐるみや近藤が購入して使わず放り出したランニングマシーンなどが、雑多にまとめて積み上げられていた。
 空調は業務用でありながらも部屋の面積と設備の排熱量に容量が見合っておらず、常に天井からは全開出力を強いられた低く太い作動音がけたたましく鳴り響いていた。
 通信機の液晶画面には大江戸テレビの夕方情報番組、特集コーナー「祝!来日!歌姫コラボカフェ特集!」が映し出されており、近藤、沖田、終の3人はパイプイスをそちらに向け、コンビニスイーツを頬張りながら観ていた。
「あれ?そう言えば、俺、お前に一万渡したけどお釣り返してもらったか?」
「何言ってんだ近藤さん、かなわねぇな。そんな大事なもんは心の奥にそっと返したに決まってるじゃねぇか。ねぇ、終兄さん。」
「、、、、、、(コク)、、、、、。」
「何?どういうこと?」
 今や骨董品レベルとなったアメリカ払下げの真空管式通信機は、設置当初に幕府により衛星用に機能を拡張されブラウン管も液晶画面へと交換されたが、現在では地上の通信指令室や通信車両でそれ以上の機能を持った設備が配置されたことにより、現在ではもっぱら機密会議の合間のテレビ観賞に使われてる。
 さらにその周辺に張り巡らされは冷却パイプの上には薄い板が敷かれ、微妙に蒸し暑いこの地下室で快適に過ごすべく、持ち込まれた飲み物や食料が置かれ冷蔵庫の役割をしていた。
「ガシャンッ」
 その大きな音に3人が振り向くと、そこにはいつの間にか鉄製のドアを開けて入ってきた土方が立っており、部屋中央にある会議用のやや広めのテーブルの上には、たった今土方が放り投げたボウガンがあった。
「おい総悟、出しっぱなしだぞ。片付けろ。」
 沖田は右手に持っていたプラスチックのスプーンを左手に持った白玉クリームのカップ真ん中に突き刺すと、その右手を伸ばしボウガンを掴んだ。
「すいやせん、土方さ〜ん。いやなに、後頭部のど真ん中に肩こりに効くってツボがあるらしんでね。ニコチン切れで四六時中電撃イライラ棒みてぇーになってる土方さんに癒されてもらおうと思ったんですがね…チッ…避けっちまったようで。」
 沖田はニヤニヤしながら、掴んだボウガンをそのまま後方のガラクタの山へひょいと放り投げた。
 「遅いぞ、トシ。」
 近藤は空になったカップを1メートル程先にあるゴミ箱に投げ込むと、体ごとパイプ椅子をテーブルへ向け直し言った。
「あぁ、すまねぇ。ちょっとうんこが長引いてな。総悟、テレビ消せ。さぁ、始めるぞ。」
 土方は上着を脱いでマフラーを外すと、目の前のパイプ椅子の背もたれにそれらを掛けた。
 白のワイシャツに黒のベストと少しでも身軽になったところで、土方はいつも通り立ったまま話し始めた。
 その命(めい)が下ったのは、一ヶ月前のことだった。
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