第三話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今日は珍しく、父上が離宮に来ない日だ。私の記憶の限り、父上が離宮に来なかった日はない。よっぽど忙しいらしい。
母上が私の頭を撫でながら、懐かしむように目を細めて言った。
「リンも、もう少しで十五になるのですね。...閉じ込めてしまっていて申し訳ないわ。」
「いいのです、母上。私は母上や父上、カナ、ズシと一緒に居られればそれで幸せなのですから。」
私は続ける。
「それにね、母上。私、近いうちに此処を出ようと思っています。このまま離宮に住んでいては、いつ私の存在が知られるかわかりません。ですから、今はただ、こうやって一緒に居たいのです。」
「そう...もう、出ていってしまうのですね」
「高華国の為です。」
そう、私は、そろそろ此処を出なければならない。母上はそれを聞くと、悲しそうに私を抱き締めた。微かに鼻を啜る音が聞こえる。泣いているのだ。あの、強く美しい母上が。
大切にされていることを改めて感じ、私も泣きそうになった。すると、目元を薔薇色に染めた母上が私に向き直って言う。
「明日から、私とイルは地の部族の土地まで行って参ります。その間は会えなくなってしまいますが、待っていてくださいね。」
「はい。」
「ああ、それと」
一度言葉を切った母上が続ける。
「これを、リンに渡そうと思っていたのです。私のお古になってしまいますが、リンに使ってもらいたくて...本当は、貴女が十五になる日に渡そうとしたのですが、近日中に此処を出るのなら、今、渡した方が良いですね。」
そう言って、母上は私に二胡(中国の弦楽器。ジェハも弾いていました。)と母上がいつもつけていた涙型の紫水晶の首飾りを渡した。
私は既に二胡を持っていたが、新調してくださったのだろう。
「二胡の様なものではこの先貴女にかさ張るかもしれませんが、私は貴女の二胡の音が大好きなのです。」
「ありがとうございます、母上!」
私の首に紫水晶をかけると、母上は目を細めて笑った。
...その日の夜が、私が母上と言葉を交わした最後の時間だった。
両陛下の一行は道中で盗賊に襲われ、三人の兵士と母上が命を落とした。
城に帰ってきた父上は塞ぎ混んで、離宮に来ても余り言葉を発することはなかった。
「...父上。」
「...なんだい、リン。」
「何故、母上は亡くならなければなかったのですか...王族、だからですか。」
憔悴した父上には、酷な質問だったのかも知れない。でも、父上は私の目を悲しそうに見つめながらゆっくりと頷き、言った。
「...王族とは、そういったものがつきものなんだよ、リン...。」
「ヨナは、これから一生それに付きまとわれながら生きて行くのですか。私はこんなにも安全に隠されているのに?」
「しょうがないんだよ。」
母上の死で身に染みて感じた。この華美なように見えて過酷で血生臭い、辛い道を、かわいいヨナに歩ませてしまうのか、と。
「父上、私、城を出ようと思うのです。もし、私がこのまま城に住み続けてその存在が国に知れわたったとしたら?神官様のお導きを、国民が知ったら?きっと、国民は混乱し、父上を責めるでしょう。それでは父上やヨナが危険です。だから、私は城を出ます。」
母上が私の頭を撫でながら、懐かしむように目を細めて言った。
「リンも、もう少しで十五になるのですね。...閉じ込めてしまっていて申し訳ないわ。」
「いいのです、母上。私は母上や父上、カナ、ズシと一緒に居られればそれで幸せなのですから。」
私は続ける。
「それにね、母上。私、近いうちに此処を出ようと思っています。このまま離宮に住んでいては、いつ私の存在が知られるかわかりません。ですから、今はただ、こうやって一緒に居たいのです。」
「そう...もう、出ていってしまうのですね」
「高華国の為です。」
そう、私は、そろそろ此処を出なければならない。母上はそれを聞くと、悲しそうに私を抱き締めた。微かに鼻を啜る音が聞こえる。泣いているのだ。あの、強く美しい母上が。
大切にされていることを改めて感じ、私も泣きそうになった。すると、目元を薔薇色に染めた母上が私に向き直って言う。
「明日から、私とイルは地の部族の土地まで行って参ります。その間は会えなくなってしまいますが、待っていてくださいね。」
「はい。」
「ああ、それと」
一度言葉を切った母上が続ける。
「これを、リンに渡そうと思っていたのです。私のお古になってしまいますが、リンに使ってもらいたくて...本当は、貴女が十五になる日に渡そうとしたのですが、近日中に此処を出るのなら、今、渡した方が良いですね。」
そう言って、母上は私に二胡(中国の弦楽器。ジェハも弾いていました。)と母上がいつもつけていた涙型の紫水晶の首飾りを渡した。
私は既に二胡を持っていたが、新調してくださったのだろう。
「二胡の様なものではこの先貴女にかさ張るかもしれませんが、私は貴女の二胡の音が大好きなのです。」
「ありがとうございます、母上!」
私の首に紫水晶をかけると、母上は目を細めて笑った。
...その日の夜が、私が母上と言葉を交わした最後の時間だった。
両陛下の一行は道中で盗賊に襲われ、三人の兵士と母上が命を落とした。
城に帰ってきた父上は塞ぎ混んで、離宮に来ても余り言葉を発することはなかった。
「...父上。」
「...なんだい、リン。」
「何故、母上は亡くならなければなかったのですか...王族、だからですか。」
憔悴した父上には、酷な質問だったのかも知れない。でも、父上は私の目を悲しそうに見つめながらゆっくりと頷き、言った。
「...王族とは、そういったものがつきものなんだよ、リン...。」
「ヨナは、これから一生それに付きまとわれながら生きて行くのですか。私はこんなにも安全に隠されているのに?」
「しょうがないんだよ。」
母上の死で身に染みて感じた。この華美なように見えて過酷で血生臭い、辛い道を、かわいいヨナに歩ませてしまうのか、と。
「父上、私、城を出ようと思うのです。もし、私がこのまま城に住み続けてその存在が国に知れわたったとしたら?神官様のお導きを、国民が知ったら?きっと、国民は混乱し、父上を責めるでしょう。それでは父上やヨナが危険です。だから、私は城を出ます。」