とある日の夜、離宮で親子三人で談笑していたリンは、王にある頼みをした。

「父上、ひとつ頼みたいことがあるのです。」

「言ってごらん」

「妹に、...ヨナに、会わせていただきたいのです。」

突然のリンの申し出に、イル王は言葉をつまらせた。どうしたものか、と考え込んだ王に、ここぞとばかりに畳み掛ける。

「ヨナがこれ以上大きくなったあとに会っては、あの子の記憶に私が残ってしまいます。だから、あの子が大きくなる前に、一度で良いから会っておきたいのです。」

必死な彼女に、難しい顔をしていたイル王は微笑んだ。

「...わかったよ。そこまで言うのなら、明日会わせてあげよう。」

「ありがとうございます、父上！」

心底嬉しそうにするリンの頭を王妃が撫でる。




「...はじめまして、と言うんだよ、ヨナ。」

翌日、リンはイル王の後ろでこちらを伺っている少女に顔を綻ばせた。
なんて愛らしいのだろうか。この子が私の妹...。
しゃがんでヨナに目線を合わせたリンは、手を差し出す。 一瞬だけびくりとしたヨナは、恐る恐るといった感じでリンに手を重ねた。

「はじめまして、私の名前はリン。えっと...」

彼女が困ったようにイル王を見上げると、言って良いよ、というようにイル王がうなずいた。

「...貴女の、ヨナのお姉ちゃんよ。」

「お姉ちゃん...？」

不思議そうに繰り返すヨナに、リンは微笑んでうなずく。それを見たヨナは、花が咲いたように笑った。

「姉上っ！」

お姉ちゃんとは読んでくれないのか...と思ったものの、今日一日だけの関係なのだ、と思い直す。直に、私はここを出なければならない。

「ヨナ、リンと遊んでおいで」

それまでは、この平穏な日常を噛み締めていようと思いながら、リンはヨナの手を引いた。