建国神話...なんていったら、この高華国で知らない人は居ないだろう。

どんなに裕福な人でも、どんなに貧乏な人でも、一度は聞き、遠い昔のお伽噺に心を踊らせた。...はず。

でも、人々は知らないのだ。その有名なお伽噺が、一度作り直されたものだということを。本当は、「旧・建国神話」が存在したことを。

本当の建国神話には、一人の女性が登場する。

その女性は、緋龍王が生涯で唯一娶ったとされる人で、名を紫龍といった。
彼女は四龍のうちに数えられることはなく、四龍や緋龍王からの寵愛の対象となっており、また、自らも戦場に立つ女武人だった。
彼女は高華国一の美女としても知られ、艶やかな黒い髪、芯のある深い紫水晶の瞳に陶器のように白い肌は数々の男を魅了した。

紫龍とは名ばかりの容姿をしている彼女は、人並外れた動体視力を持っており、例え崖から身を投げられても遠くの的を弓で当てることができ、自分が望む声を聞く耳を持ち、その血で傷を癒すことができたという。一説によれば、紫龍として生まれたものは、花のような甘い香りを漂わせていたとか。


今もなお、人里離れたそれぞれの里で生まれは死に、また生まれることを繰り返している彼らは、もう何百年も生まれる気配を感じない、愛する緋龍王とその妻を待望していることだろう。