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第2の謎 出会い

「…それなら」

少し重い沈黙を、俺が先に破った。
少年が俯いていた顔を上げる。

「つけてやる。名前」
「…え」
「お前は俺の助手なんだぞ?名前がなかったら呼びづらくて仕方ない」
「…!」

目を丸くして俺を見る少年。

「ふふっ、実はもう決まってるんだ。お気に入りの名前があって、それがお前にぴったりだから」
「え!なっ…何ですか!」
「なんだと思う?」
「えええ…わかんないです…」

目を丸くしたり、しゅんとしたり。ころころ表情が変わるこいつは本当に可愛い。

「お前、文字は読めるよな」
「はい」
「じゃあちょっと来い」

研究室の作業机まで移動する。
少年はわかりやすく焦っている。かわいい。

机に置いてあった適当な書類の裏に、俺は書いた。

――『Selene』。

「…これでセレンって読む。原子番号34番、Seleniumの語源。一般的な綴りは『Selen』だが、こいつの語源はギリシャ語の『Selene』…『月』っていう言葉からきてるんだ。だからこの綴り」

紙に書きながら説明する。

月。ひっそりとした明るさが、この子にぴったりだと感じたのだ。

俺は化学にしか詳しくないから、化学関連になってしまうのが申し訳ないけど。

…少年は、名前を見つめたまま黙っている。

やっぱり嫌だったか?赤の他人に無理矢理名前をつけられるなんて、って思ってるか?

顔色を伺っていると、突然。

少年の頬を大粒の涙がぽろぽろと伝う。

「えっ、お、おい、大丈夫か…?嫌だったか…?」
「…ちが、」

ぶんぶんと首を振る少年。

「…ぎゃく、です」
「?」
「………うれしい…っ」

喉がつっかえて、上手く言えていない。
それでも、伝わった。

「…せれん」
「…ああ。…セレン」
「…せれん……せれん、」

ぽろぽろ、ぽつぽつ。
流れる涙と、自分の名前を呟く声。

小さな粒が、たくさん溢れた。

思わず、俺は少年――セレンを、抱きしめた。
俺なら守ってやれる。俺なら絶対にお前を捨てていなくなったりしない。

温かい。

この小さな命を守りたい。

「セレン」

そっと首筋に指をやった。
とくとく、と脈打つのが、指に伝わる。

ああ、生きてる。

こんなにも、愛おしい。
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