第2の謎 出会い
「す、すごいです…!本も瓶も、見た事ないぐらいたくさん…」
にこにこしながら辺りを見回す少年は、出会った時よりずっと幼く見えた。
出会った時は、しっかりしている、というイメージが強かったが、近くで見ているとこんなにころころ表情が変わる。
俺だけがこの子の色々な表情を知っている気がして、なんだか得をした気分だった。
もっと知りたい。
表情。性格。元いた家族――。
このもどかしい感情の名前を知らない。
「そういえば、お前」
「はい?」
つぶらなエメラルドグリーンの瞳が俺を捉えた。
そういえば、この少年の。
「…名前。聞いてなかったな」
「あっ」
出会ってしばらく時間が経ったというのに、名前すら知らなかった。
「あ…あの…」
少年は俯いて口の中でもごもご何かを呟く。
どうしたのだろう。名前を言えない理由でもあるのだろうか。
何かそれらしい理由を探したが思い浮かばなかった。
「言いづらいのか?」
「あ、…えっと」
視線を逸らしながら、少年は言った。
「…無いんです、名前」
「…え?」
…"無い"?
意味が理解できなくて、思わず聞き返す。
「…あの」
ぽつぽつと、少年は続ける。
「…僕、親に、無いものとされてたっていうか…簡単に言うと、虐待されてて」
「…虐待」
「それで…名前、つけてもらえなくて。戸籍に…僕、載ってないです」
「…」
「でも、周りからの目があったから…育てては貰いました。…ちゃんと話をした記憶が、無いんです」
表情を変えずに話す少年。
酷く驚いた。
こんなに幼い少年が、こんなに残酷な事実を受け入れてずっと生きている。
こんなに大きくなるまで。
どこか目に光が無いように見えたのは、そのせいだったのかもしれない。
「…じゃあ、なんで」
「え?」
「なんで…お前は、謎を勉強しようと考えた?…憎い親なら殺されても、何も思わなかったんじゃないのか」
そうだ。ただ疑問に思った。
俺は父さんが殺されてから研究に没頭した。それは父さんを殺した謎が許せなかったからだし、だからこそ絶対に謎を解明したいと考えたからだ。
父さんが大好きだったから、原動力になった。
少年は、少し寂しそうに笑って、言った。
「それでも、親だったんです。僕をここまで育ててくれた」
「………」
「それに…僕じゃない、幸せな家庭が、この謎で崩れちゃいけない、って思って。…研究者さんたちみたいな、仲のいい家族の空間を、壊してはいけない、って思うんです。本当に」
ぽつり、ぽつり、と思いの丈を話してくれる。
ひとつひとつの言葉が、ずっしりと重く感じられた。
にこにこしながら辺りを見回す少年は、出会った時よりずっと幼く見えた。
出会った時は、しっかりしている、というイメージが強かったが、近くで見ているとこんなにころころ表情が変わる。
俺だけがこの子の色々な表情を知っている気がして、なんだか得をした気分だった。
もっと知りたい。
表情。性格。元いた家族――。
このもどかしい感情の名前を知らない。
「そういえば、お前」
「はい?」
つぶらなエメラルドグリーンの瞳が俺を捉えた。
そういえば、この少年の。
「…名前。聞いてなかったな」
「あっ」
出会ってしばらく時間が経ったというのに、名前すら知らなかった。
「あ…あの…」
少年は俯いて口の中でもごもご何かを呟く。
どうしたのだろう。名前を言えない理由でもあるのだろうか。
何かそれらしい理由を探したが思い浮かばなかった。
「言いづらいのか?」
「あ、…えっと」
視線を逸らしながら、少年は言った。
「…無いんです、名前」
「…え?」
…"無い"?
意味が理解できなくて、思わず聞き返す。
「…あの」
ぽつぽつと、少年は続ける。
「…僕、親に、無いものとされてたっていうか…簡単に言うと、虐待されてて」
「…虐待」
「それで…名前、つけてもらえなくて。戸籍に…僕、載ってないです」
「…」
「でも、周りからの目があったから…育てては貰いました。…ちゃんと話をした記憶が、無いんです」
表情を変えずに話す少年。
酷く驚いた。
こんなに幼い少年が、こんなに残酷な事実を受け入れてずっと生きている。
こんなに大きくなるまで。
どこか目に光が無いように見えたのは、そのせいだったのかもしれない。
「…じゃあ、なんで」
「え?」
「なんで…お前は、謎を勉強しようと考えた?…憎い親なら殺されても、何も思わなかったんじゃないのか」
そうだ。ただ疑問に思った。
俺は父さんが殺されてから研究に没頭した。それは父さんを殺した謎が許せなかったからだし、だからこそ絶対に謎を解明したいと考えたからだ。
父さんが大好きだったから、原動力になった。
少年は、少し寂しそうに笑って、言った。
「それでも、親だったんです。僕をここまで育ててくれた」
「………」
「それに…僕じゃない、幸せな家庭が、この謎で崩れちゃいけない、って思って。…研究者さんたちみたいな、仲のいい家族の空間を、壊してはいけない、って思うんです。本当に」
ぽつり、ぽつり、と思いの丈を話してくれる。
ひとつひとつの言葉が、ずっしりと重く感じられた。