このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第2の謎 出会い

「す、すごいです…!本も瓶も、見た事ないぐらいたくさん…」

にこにこしながら辺りを見回す少年は、出会った時よりずっと幼く見えた。

出会った時は、しっかりしている、というイメージが強かったが、近くで見ているとこんなにころころ表情が変わる。
俺だけがこの子の色々な表情を知っている気がして、なんだか得をした気分だった。

もっと知りたい。
表情。性格。元いた家族――。

このもどかしい感情の名前を知らない。

「そういえば、お前」
「はい?」

つぶらなエメラルドグリーンの瞳が俺を捉えた。
そういえば、この少年の。

「…名前。聞いてなかったな」
「あっ」

出会ってしばらく時間が経ったというのに、名前すら知らなかった。

「あ…あの…」

少年は俯いて口の中でもごもご何かを呟く。
どうしたのだろう。名前を言えない理由でもあるのだろうか。
何かそれらしい理由を探したが思い浮かばなかった。

「言いづらいのか?」
「あ、…えっと」

視線を逸らしながら、少年は言った。

「…無いんです、名前」
「…え?」

…"無い"?
意味が理解できなくて、思わず聞き返す。

「…あの」

ぽつぽつと、少年は続ける。

「…僕、親に、無いものとされてたっていうか…簡単に言うと、虐待されてて」
「…虐待」
「それで…名前、つけてもらえなくて。戸籍に…僕、載ってないです」
「…」
「でも、周りからの目があったから…育てては貰いました。…ちゃんと話をした記憶が、無いんです」

表情を変えずに話す少年。

酷く驚いた。
こんなに幼い少年が、こんなに残酷な事実を受け入れてずっと生きている。

こんなに大きくなるまで。

どこか目に光が無いように見えたのは、そのせいだったのかもしれない。

「…じゃあ、なんで」
「え?」
「なんで…お前は、謎を勉強しようと考えた?…憎い親なら殺されても、何も思わなかったんじゃないのか」

そうだ。ただ疑問に思った。

俺は父さんが殺されてから研究に没頭した。それは父さんを殺した謎が許せなかったからだし、だからこそ絶対に謎を解明したいと考えたからだ。
父さんが大好きだったから、原動力になった。

少年は、少し寂しそうに笑って、言った。

「それでも、親だったんです。僕をここまで育ててくれた」
「………」
「それに…僕じゃない、幸せな家庭が、この謎で崩れちゃいけない、って思って。…研究者さんたちみたいな、仲のいい家族の空間を、壊してはいけない、って思うんです。本当に」

ぽつり、ぽつり、と思いの丈を話してくれる。

ひとつひとつの言葉が、ずっしりと重く感じられた。
9/11ページ
スキ