「るぎ...剣城...おい、聞いているのか!?」

自分を呼びかける声にようやく気付き、意識を向ける。
声の主は先ほど部屋に自分を呼びに来た少年、白竜だ。

「おい、お前さっきからボーっとしすぎだろ、今日の訓練そんなにキツかったのか?お前ほどの奴がそんなわけないだろう。」
「いや...そういう訳ではない...」
「何なんだお前...そんな無様な状態ではこの俺の好敵手の座は任せておけないぞ!!」
「うるさい...」

白髪を束ねたこの白竜という少年は、京介がこの地にやってきてから唯一会話をやり取りするような...言わばライバル、であった。

最初は京介の実力を見た白竜からの一方的な宣言であったが、水月という支えが居なくなっていた京介には、その関係は多少なりとも、いや、それ以上に頼りになるものであった。
お互いにひたすらに訓練に打ち込み、高め合い、ついには化身を目覚めさせるまでに至ったのだ。

「なぁ、剣城」
「...なんだ」
「お前は何故究極を目指す？なぜ強さを求めるんだ？」
（俺は別に究極を求めているわけではないが・・・）

そう問われて頭に思い浮かんだのは、兄、そしてもう一人の大切な存在の事であった。

（そうだ...俺は兄さんの足をなんとしても治す...そしてあいつを守る...この足が動くのはきっとその為だ...）

「おい！！聞いているのか」
「...お前には関係ない」
「何だと！！」

薄暗い廊下に白竜の声が響き渡る

「お前には関係ないと言ったんだ」

白竜は剣城の目を見てハッとした。
その目に、何か強い意志を感じたからであった。

「あぁそうかよ･･･!」

何か自分とは違う遠くを見ている気がして、
ライバルだと思っているのは自分だけだったのだろうかと、
そう思わされるほどの覚悟が滲んでいた。
それを見て自分が凄く小さな存在に思えて、そう一瞬でも思ってしまった自分に苛立ち、ともに歩いていた廊下を折り返す。

京介はただその背中を黙って見送っていた。