少年は、この場所に来てから与えられた小さな部屋で、ここに来てからこれまでの事を思い返していた。

片割れとの誓いが破られたのは、この地獄に来てすぐの出来事であった。

楽園と呼ばれる島へ向かったのは二人一緒のはずだったが、島に着くまでに意識を失い、目が覚めたときには片割れの姿はどこにも無かった。
兄の足を治すという、自分達にとっては小さな可能性で大きな希望を掴み取る為、どんな事でもやってやると意気込んでやってきた二人は、
島にやってくるなり引き離され、孤独な訓練を強いられたのであった。

彼女が今何をしているのか、どんな目に遭っているのか、別れてから月日はそう経っていないものの、自分が受けた仕打ちと、それを平気で行ってくる相手を考えれば恐ろしく、震えが止まらなかった。

「お前が力を持てば、兄のように未来を奪う事なく、ヤツを守る事にもなるんだぞ」

そう告げられた言葉を信じていいのかは分からなかったが、大切な者を奪われた深く暗いこの島で、縋れるものはそんな言葉でしかなかった。

自分のせいで動かなくなってしまった兄の足、
代われるものならと何度願ったか分からない、
その足は、この島では強力な武器となっていた。

少年、剣城京介はこの島に来てから元々のサッカーセンスをさらに開花させ、ひたすらに苦しい訓練にも耐え、『究極』のプロジェクトへの参加を命じられるまでになったのであった。

今も病室のあの白い部屋で過ごしているであろう兄と、この島のどこかにいるであろう自分の片割れの事を思い、回想のきっかけへと目をやる。

彼の手には、うっすらと光を放つ、美しく、そして今にも消えてしまいそうな羽が握られていた。

「剣城、教官が呼んでいる」

部屋に鳴り響いたノックが知らせるのは希望の知らせか、絶望の知らせか、彼は未だ知る由も無く、重い腰を上げ、部屋を出たのであった。