雷門に吹く新しい風
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雷門中第二グラウンドは、入学式当日だというのに異様な雰囲気に包まれていた。
周りには朝早くからやってきた生徒がちらほらいるのみであったけれど、目の前で起こっている事があまりにも現実味がなくて、只々唖然とするばかりで。
その中で一人、その場を黙ってじっと見ている生徒がいた。
正確にいうのであれば入学式前の生徒なのだから、生徒とは言えないのかもしれない。
雷門中の制服すら着ていないその少女はグラウンドの中央にいる人物をじっと見つめている。
「とどめだ...!」
少年が力を込めて蹴ったサッカーボールは黒いオーラを纏いながらゴールへ向かっていく。
相対する少年達が満身創痍の体でなんとかそのボールを止めようとするも、ボールの勢いは留まることを知らず、彼らを弾き飛ばしながらゴールへと突き刺さった。
「...雷門サッカー部は俺が破壊した。」
「酷い...!」
少女、水月がグラウンドを見つめている傍へ、女教師とおそらく自分と同じ新入生らしき男子生徒がやってきて声をかけてくる。
「あなた、ここで何があったの?」
「さぁ、よく分かんないです、見てなかったので」
全くの嘘である。
少女はここに来てから一度も瞬きをしなかったのではないかというぐらい、その場で起きている事を逃さないよう、まるで自分の身に起きたように見つめていた。
「ねぇ君!おれと同じ新入生だよね!?サッカー部の朝練見てたの?!何があったの!?」
「見てなかったって言ってるでしょ!」
少女は内心かなりピリピリしていて、つい語気が強まってしまう。
はっとして様子を伺うと、男子生徒はキョトンとした様子だった。
「ごめん、おれサッカー部に入りたくて、朝練やってるって音無先生に聞いたから見に来たんだけど、なんか大変な事になってるから...」
周りからしたらそう見えるのは当たり前なのだが、水月からすれば、その原因となった少年の覚悟を知っているが為に、起きたことに対して批判などする気も起きないし、何も知らないだけの周囲の人間に半ば己たちの置かれた立場からの八つ当たりとも言える態度を取ってしまう。
グラウンドの外で気不味い沈黙が流れる間に、勝利宣言をした少年の元へと一人の教師がやって来る。
「サッカー部をつぶすだと?新入生のようだがグラウンドはケンカをする場ではない。」
「ケンカ?俺ケンカなんかしたか、水月?」
少年、剣城京介からグラウンド外の水月に声が掛かる。
当然少女の傍に居た二人は、さっきまで見ていないだの言っていた少女がどうやら事の関係者であろう事に驚いて、少女をまじまじと見つめている。
「いや?京介はサッカーしてただけだよね~、暴力とか、そういうの無かったし、どっちかって言うとそっちのサッカー部の人たちが弱くて潰れちゃったって感じじゃないかな?」
少女は少年への返答を周りに聞こえるように、大々的に、わざとらしく言いながら階段を降り、グラウンドへと向かっていく。
「だよなぁ?サッカー部は俺が潰す、今日限りでサッカー部は廃部だ。」
「え!?廃部!?ちょっと待ってよ!!」
先ほど声をかけてきた少年がなにやら喚いているが、グラウンドの京介の傍へとやってきた水月は気にも留めず、足元に転がっていたボールを器用に宙にあげると、リフティングを始める。
「お前もそいつの仲間なのか!?サッカー部に恨みでもあるのか!?」
息も絶え絶えにサッカー部の少年が問いかけてくるが、水月に問いかけられた筈の質問の返答は...。
「恨み?さぁな、ただ一つ言えることは...。」
質問を遮った京介がそのまま、水月の蹴っているボールを奪う。流れるような動作でそのまま蹴り上げて...職人技とでも言うべきコントロールでグラウンド脇のゴミ箱へとボールを蹴りこんだ。
「サッカーなんてくだらねぇモンは必要ねぇんだよ!」
「...待てよ。」
例の新入生らしき少年がグラウンドの水月達の元へと駆け込んでくる。
「サッカーは...!サッカーはくだらなくなんかない。くだらなくなんかないし...必要だ。」
「あぁ?誰だお前...」
「お、おれは松風天馬!今日からサッカー部に入るんだ。だから、サッカー部が無くなるなんて困るよ!!」
「ふ~ん、困っちゃうんだってさ、京介」
水月は先ほどから気に喰わなかった少年を値踏みするようにまじまじと見る。
明るい茶髪に天然パーマらしい癖の強い髪、そしてまっすぐな目。
自分達を見るその目が何故か自分の心まで見透かすようで、ドキリとして見るのをやめた。
「残念だったなぁ、たった今サッカー部は無くなった。他の部にでも入るんだな。」
「おれ、サッカーをやるために...憧れの雷門でサッカーやるためにここに来たんだ!サッカー部が無くなるなんて困るよ!!」
「そこまで言うってことは、相当サッカーに自信があるんだねぇ?」
「なら見せてくれよ、お前のサッカーを」
京介が蹴ったボールが松風を直撃する。
先ほど見せていた黒いオーラを纏ったものでは無いものの、強烈な一撃だった事に変わりはなく、松風はその勢いのまま倒れてしまう。
「天馬くん!...なんてことするの!!」
先ほど松風と一緒だった女教師、音無春奈が彼を助け起こす。
「ムカつくんだよね、君みたいなろくにサッカー知らない人が、サッカーの事分かったフリしてるのがさ。」
水月はもう苛立ちを隠そうとすらしていない、不快感を滲みだした言葉を松風に投げる。
何も知らない奴が、私達がどれだけサッカーを好きかも知らない奴が、京介のやっている事を、私達のサッカーへの価値観を否定するのが、傍から見れば間違っているのは自分達だと分かっていても耐えられなかった。
「知ってるさ、おれだってサッカーを知ってる。」
「ほぉ、じゃあその実力、見せてもらおうか。」
「ひとまず、私達と勝負するってのはどう?」
「おい、水月...」
「勝負...?」
「どうしたの?さっきの発言はなかった事にする?」
「しない...やるさ!」
「...まぁいい。来いよ、相手になってやる。」
「女だからって舐めてたら、痛い目見るよ。」
入学式の時間も近づいているからか、グラウンドの物々しい雰囲気に引き寄せられるようにギャラリーが増えてきていた。
「俺達からボールを取れたらお前の勝ちという事でいいだろう。」
「私達は二人だし、ハンデとしてその場から動かないでいてあげる。」
「久遠監督!!やらせていいんですか?!」
声をかけられた男性教師は、ただ黙ってその場の成り行きを見守るだけだ。
「ボールを取れたら俺の勝ち...」
「あぁ、お前が勝てばサッカー部の存続を認めよう。」
「その代わり、君が勝てなければサッカー部はおしまいって事。」
「金山理事長...やめさせてください!」
事の重大さが広まったのかどうかは分からないが、学園理事長までがグラウンドへやってきた。
「いいえ、この勝負認めます。」
「え...!?」
本来であればこんな横暴を許すどころか無理やりにでもやめさせねばならぬであろう立場の人間が、そういうとは思ってなかったと言わぬばかりに驚く音無。
「近いうちにサッカー部も改革が必要だと考えていました、新入生に負けてしまうようなサッカー部に存在価値はありません。そこの君、名前はなんと言ったかな。」
「松風天馬...です。」
「松風君、君に任せた。サッカー部の運命は君にかかっている、よろしく頼むよ。」
「待ってください理事長!本気で言ってるんですか!?冬海校長からも何とか言ってください...!」
(理事長...本当にいいんですか?)
(彼らはフィフスセクターから送り込まれた刺客です...。)
(では、今回の事は聖帝の御意思だということですか...?)
(聖帝には何かお考えあってのことでしょう...今は従っておくしかありません。)
「これは、理事長としての判断です。」
「理事長...」
「じゃあ決まりだね。」
「...大丈夫なの?天馬くん。」
「ドリブルの一人練習とかなら毎日やってますし、い、いけますよ。」
「ドリブルの一人練習って...それだけ?」
音無の不安そうな目が天馬を見つめている。
「大丈夫、何とかなります。」
雰囲気に飲まれているのか、それなりに集まったギャラリーや、ボロボロの雷門セカンドチーム達も、静まり返ってグラウンドを見つめている。
入学式を祝うように咲いた桜がざわざわと風に揺らされ、その花びらを散らす。
二人の少年少女がこの日起こした煽風 と、それに立ち向かう松風天馬がこれから起こす事になる革命という名の風が混ざり合って、まるで彼らが出会ったことが宿命であるかのように、グラウンドを、雷門中を駆け巡っていた。
「さぁ、サッカーやろうぜ?天馬クン」
「さぁ、サッカーやろうよ?天馬君」
周りには朝早くからやってきた生徒がちらほらいるのみであったけれど、目の前で起こっている事があまりにも現実味がなくて、只々唖然とするばかりで。
その中で一人、その場を黙ってじっと見ている生徒がいた。
正確にいうのであれば入学式前の生徒なのだから、生徒とは言えないのかもしれない。
雷門中の制服すら着ていないその少女はグラウンドの中央にいる人物をじっと見つめている。
「とどめだ...!」
少年が力を込めて蹴ったサッカーボールは黒いオーラを纏いながらゴールへ向かっていく。
相対する少年達が満身創痍の体でなんとかそのボールを止めようとするも、ボールの勢いは留まることを知らず、彼らを弾き飛ばしながらゴールへと突き刺さった。
「...雷門サッカー部は俺が破壊した。」
「酷い...!」
少女、水月がグラウンドを見つめている傍へ、女教師とおそらく自分と同じ新入生らしき男子生徒がやってきて声をかけてくる。
「あなた、ここで何があったの?」
「さぁ、よく分かんないです、見てなかったので」
全くの嘘である。
少女はここに来てから一度も瞬きをしなかったのではないかというぐらい、その場で起きている事を逃さないよう、まるで自分の身に起きたように見つめていた。
「ねぇ君!おれと同じ新入生だよね!?サッカー部の朝練見てたの?!何があったの!?」
「見てなかったって言ってるでしょ!」
少女は内心かなりピリピリしていて、つい語気が強まってしまう。
はっとして様子を伺うと、男子生徒はキョトンとした様子だった。
「ごめん、おれサッカー部に入りたくて、朝練やってるって音無先生に聞いたから見に来たんだけど、なんか大変な事になってるから...」
周りからしたらそう見えるのは当たり前なのだが、水月からすれば、その原因となった少年の覚悟を知っているが為に、起きたことに対して批判などする気も起きないし、何も知らないだけの周囲の人間に半ば己たちの置かれた立場からの八つ当たりとも言える態度を取ってしまう。
グラウンドの外で気不味い沈黙が流れる間に、勝利宣言をした少年の元へと一人の教師がやって来る。
「サッカー部をつぶすだと?新入生のようだがグラウンドはケンカをする場ではない。」
「ケンカ?俺ケンカなんかしたか、水月?」
少年、剣城京介からグラウンド外の水月に声が掛かる。
当然少女の傍に居た二人は、さっきまで見ていないだの言っていた少女がどうやら事の関係者であろう事に驚いて、少女をまじまじと見つめている。
「いや?京介はサッカーしてただけだよね~、暴力とか、そういうの無かったし、どっちかって言うとそっちのサッカー部の人たちが弱くて潰れちゃったって感じじゃないかな?」
少女は少年への返答を周りに聞こえるように、大々的に、わざとらしく言いながら階段を降り、グラウンドへと向かっていく。
「だよなぁ?サッカー部は俺が潰す、今日限りでサッカー部は廃部だ。」
「え!?廃部!?ちょっと待ってよ!!」
先ほど声をかけてきた少年がなにやら喚いているが、グラウンドの京介の傍へとやってきた水月は気にも留めず、足元に転がっていたボールを器用に宙にあげると、リフティングを始める。
「お前もそいつの仲間なのか!?サッカー部に恨みでもあるのか!?」
息も絶え絶えにサッカー部の少年が問いかけてくるが、水月に問いかけられた筈の質問の返答は...。
「恨み?さぁな、ただ一つ言えることは...。」
質問を遮った京介がそのまま、水月の蹴っているボールを奪う。流れるような動作でそのまま蹴り上げて...職人技とでも言うべきコントロールでグラウンド脇のゴミ箱へとボールを蹴りこんだ。
「サッカーなんてくだらねぇモンは必要ねぇんだよ!」
「...待てよ。」
例の新入生らしき少年がグラウンドの水月達の元へと駆け込んでくる。
「サッカーは...!サッカーはくだらなくなんかない。くだらなくなんかないし...必要だ。」
「あぁ?誰だお前...」
「お、おれは松風天馬!今日からサッカー部に入るんだ。だから、サッカー部が無くなるなんて困るよ!!」
「ふ~ん、困っちゃうんだってさ、京介」
水月は先ほどから気に喰わなかった少年を値踏みするようにまじまじと見る。
明るい茶髪に天然パーマらしい癖の強い髪、そしてまっすぐな目。
自分達を見るその目が何故か自分の心まで見透かすようで、ドキリとして見るのをやめた。
「残念だったなぁ、たった今サッカー部は無くなった。他の部にでも入るんだな。」
「おれ、サッカーをやるために...憧れの雷門でサッカーやるためにここに来たんだ!サッカー部が無くなるなんて困るよ!!」
「そこまで言うってことは、相当サッカーに自信があるんだねぇ?」
「なら見せてくれよ、お前のサッカーを」
京介が蹴ったボールが松風を直撃する。
先ほど見せていた黒いオーラを纏ったものでは無いものの、強烈な一撃だった事に変わりはなく、松風はその勢いのまま倒れてしまう。
「天馬くん!...なんてことするの!!」
先ほど松風と一緒だった女教師、音無春奈が彼を助け起こす。
「ムカつくんだよね、君みたいなろくにサッカー知らない人が、サッカーの事分かったフリしてるのがさ。」
水月はもう苛立ちを隠そうとすらしていない、不快感を滲みだした言葉を松風に投げる。
何も知らない奴が、私達がどれだけサッカーを好きかも知らない奴が、京介のやっている事を、私達のサッカーへの価値観を否定するのが、傍から見れば間違っているのは自分達だと分かっていても耐えられなかった。
「知ってるさ、おれだってサッカーを知ってる。」
「ほぉ、じゃあその実力、見せてもらおうか。」
「ひとまず、私達と勝負するってのはどう?」
「おい、水月...」
「勝負...?」
「どうしたの?さっきの発言はなかった事にする?」
「しない...やるさ!」
「...まぁいい。来いよ、相手になってやる。」
「女だからって舐めてたら、痛い目見るよ。」
入学式の時間も近づいているからか、グラウンドの物々しい雰囲気に引き寄せられるようにギャラリーが増えてきていた。
「俺達からボールを取れたらお前の勝ちという事でいいだろう。」
「私達は二人だし、ハンデとしてその場から動かないでいてあげる。」
「久遠監督!!やらせていいんですか?!」
声をかけられた男性教師は、ただ黙ってその場の成り行きを見守るだけだ。
「ボールを取れたら俺の勝ち...」
「あぁ、お前が勝てばサッカー部の存続を認めよう。」
「その代わり、君が勝てなければサッカー部はおしまいって事。」
「金山理事長...やめさせてください!」
事の重大さが広まったのかどうかは分からないが、学園理事長までがグラウンドへやってきた。
「いいえ、この勝負認めます。」
「え...!?」
本来であればこんな横暴を許すどころか無理やりにでもやめさせねばならぬであろう立場の人間が、そういうとは思ってなかったと言わぬばかりに驚く音無。
「近いうちにサッカー部も改革が必要だと考えていました、新入生に負けてしまうようなサッカー部に存在価値はありません。そこの君、名前はなんと言ったかな。」
「松風天馬...です。」
「松風君、君に任せた。サッカー部の運命は君にかかっている、よろしく頼むよ。」
「待ってください理事長!本気で言ってるんですか!?冬海校長からも何とか言ってください...!」
(理事長...本当にいいんですか?)
(彼らはフィフスセクターから送り込まれた刺客です...。)
(では、今回の事は聖帝の御意思だということですか...?)
(聖帝には何かお考えあってのことでしょう...今は従っておくしかありません。)
「これは、理事長としての判断です。」
「理事長...」
「じゃあ決まりだね。」
「...大丈夫なの?天馬くん。」
「ドリブルの一人練習とかなら毎日やってますし、い、いけますよ。」
「ドリブルの一人練習って...それだけ?」
音無の不安そうな目が天馬を見つめている。
「大丈夫、何とかなります。」
雰囲気に飲まれているのか、それなりに集まったギャラリーや、ボロボロの雷門セカンドチーム達も、静まり返ってグラウンドを見つめている。
入学式を祝うように咲いた桜がざわざわと風に揺らされ、その花びらを散らす。
二人の少年少女がこの日起こした
「さぁ、サッカーやろうぜ?天馬クン」
「さぁ、サッカーやろうよ?天馬君」