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過去作品まとめ



  出迎え準備


拝啓


 厳しい暑さが続く日々ですが、そちらはいかがお過ごしでしょうか。
私は向こうに行ったことがないので、どのような暮らしをしているのか想像ができません。暑い日は冷房がしっかり効いていて、寒い日は暖炉の前でぬくぬく過ごしていると、勝手に想像しているのですが。

 去年よりもずっと、今年の夏は厳しいですから。きっと、あなたは帰ってきて真っ先に、暑すぎて涼みたいと思うに違いありません。

 二日前から、実家に戻りました。母は元気にしております。ただ、三年前から体に衰えを感じ始めたとしきりに話していて、元気な姿を見られるのは、あと数年になるのかもしれません。

 私と同世代の方と比べて、母はずっと歳が離れていますからね。どんなに力強い人でも、老いには負けてしまいます。悲しいですね。みんな、いつまで経っても親は長生きするって、信じているのですが。母親神話はいずれ崩れるものです。

 今日は、隅田川の花火大会へ行って参りました。姪がどうしても行きたいと。せっかく一年に一度だけだからと思い、私と姉で姪を連れて、電車に乗って出かけました。

 あの一件のせいで、電車に対して強い恐怖心がありましたが、車だと酷い渋滞になりますから、我慢して乗りました。

 姪は可愛らしい、華やかな浴衣を着て、姉の手を離さずに走り回っておりました。この浴衣は、母の手縫いのものです。昔、姉のために縫ったようですが、私の目から見てもとても洒落ていて、古さを感じません。

 私は、横で静かに荷物持ちです。ただでさえ、電車内でもすごい人ごみだというのに、隅田川ではその倍人がいたので、見失いそうで大変でした。

 けれど、姉は絶対に姪とはぐれぬよう常に見守っていました。きっと、姉は姪のことで精一杯で、花火を楽しめなかったと思います。いつか、姪が大きくなったときには、姉が好きに過ごせるようになってほしいです。

 過去に私たちも、花火大会へ出かけていましたね。覚えていますか。私は、この時期になると毎年思い出しています。

 あなたがどうしても、浴衣を着てこいと言うものだから、ちょっと奮発して初めて浴衣を買って、着付けの方法を必死に調べてわざわざ着て行ったのです。私はせっかく努力したのに、あなたは楽な甚平を着てきましたね。とても拍子抜けしたのを覚えています。

 あのとき、その後はとても楽しめましたし、花火を見るとき、人の少ない穴場を見つけてくれましたし、今ではいい思い出というやつですね。
このように、この時期になると、あなたとの思い出をたくさん振り返ってしまいます。

 夢をただひたすら追いかけて、その夢のために家族と縁を切っていたあなたにとって、訪れる場所はここだけでした。私たちは、昔から家族同然でした。

 愚かにも、一生続く関係だと思っていました。

 あなたがいなくなってから、もう三年が経ちました。あの踏切事故が、三年前に起きたということです。

 命を助けようとした行いは立派です。見て知らぬふりをするよりも、ずっと。でも、だからといって、飛び出して助ける以外に別のやり方もあったでしょう。助けた子どもの命は助かったとはいえ、それが最善の方法だとは思えません。

 あれ以来、私は踏切の音が世界で一番、嫌いな音になりました。過ぎたことをいつまで嘆いても、仕方がありませんが。

 お盆は、あなたの家族の姿もみえるそうです。

 家を追い出すきっかけを作ってしまった、とあなたの父は心の底から悔やんでいました。受け入れられなかった、相談に乗ってあげられなかった、とあなたの母は涙を流していました。

 今でも、あなたの家族が葬式のときにそう話していたことが、昨日の出来事のように思います。

 病院で、あなたは息を引き取る前に、私にこう言っていましたね。自分のことは、はやく忘れて前へ進んでくれと。

 できるわけがありません。こうして毎年、盆や命日が来ると、嫌でもあなたのことを思い出さなければなりませんから。残された者たちの気持ちを、一度考えてみてください。

 この手紙は、あなたに対する気持ちを整理しようと書いたものです。どうにかして、私は今元気にしている、だから大丈夫だと書こうと思っていました。でもだんだん、書いていて苦しくなって気持ちが溢れてしまい、後悔ばかり書き留めていました。こんなつもりではなかったのに。

 それくらい、あなたを失うことは私にとって大きいことでした。三年経っても、ときどき思い出しては悲しみに暮れています。

 明日は精霊馬を作って、あなたをはじめ、ご先祖様がここに来るまで迷わぬよう迎え火を炊きます。今年もあなたを失ったことに囚われ続けて、本当にごめんなさい。

 来年こそ私が前を向いて進んでいけるよう、どうか願っていてください。あなたの遺言を、どうしても果たしたいのです。

 それでは、気をつけてお越しください。お待ちしております。


敬具




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