短編・中編
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中学の時、一目惚れをした。
部活帰りに不良に絡まれている所を助けてくれた女の子に。
「とりあえず金、出せよ」
向こうからぶつかってきたのに金を要求する不良達。
まわりは見て見ぬふり。
そりゃそうだ、こんな見るからに不良の奴に関わりたくなんかないだろう。
俺に対してチラッと同情的な視線だけ寄越してそそくさと去っていく。
…財布、いくら入ってたっけ。
さすがに5人相手に反抗する事も逃げる事も無理だと悟った俺は鞄に手をかける。
試合前に問題を起こす訳にはいかない。
「何してんの」
諦めて鞄から財布を出そうとしている俺の耳に聞こえてきた声に俺は思わず顔を上げる。
そこにはひとりの女の子が立っていた。
「あっ?何だてめぇ」
割って入ってきた女の子に苛立ちを隠せない不良達。
「見りゃ分かんだろ!?
こいつがぶつかってきたから慰謝料貰ってんだよ!」
「それとも何?
てめぇが代わりに払ってくれるのかよ?」
ニヤニヤと笑いながら女の子に近づいていく不良達。
さすがにこれには問題を起こす訳にはいかないとか言ってられない。
俺を助けようとしてくれた女の子を巻き込む訳にはいかない。
「やめ…」
ガッ!!
「……え?」
俺の制止を遮るように振り上げられた女の子の足。
そしてその場に倒れる不良。
「少し遠くから見えたけどさ、
明らかにあんた達がこの子にぶつかってたじゃん。
この子、すれ違う前にちゃんと避けてたし」
見えたって、
それでわざわざ助けにきてくれたのか…?
女の子ひとりで?
「それにひとりに対して5人とかどんだけ卑怯な訳?
クソダサ過ぎて笑えない」
「てめぇ!!」
図星だったのか、不良達は顔を赤くして女の子に向かっていく。
危ない、そんな事を思う間もなく次々に不良が倒れていく。
「大丈夫?」
呆気にとられてただ立ち尽くしている俺に女の子がそう聞いてきた。
さっきまでの冷たく怒りを滲ませた表情とは違って本当に心配そうに俺を見ている。
「あ、はい。
俺は大丈夫ですけど、君は…?」
「ん?私は大丈夫。
君は?
怪我とかしてない?」
「はい、あなたが助けてくれたので。
…ありがとうございます、お陰で助かりました」
そう言って精一杯の感謝を込めて頭を下げる。
正直、見ず知らずの女の子に助けてもらうなんて男としての情けなさもある。
だけど、本当に凄く感謝しているし、
それに
嬉しかった。
みんな見て見ぬふりでそそくさと去っていく中、危険も省みず助けてくれた事が。
「そっか!
大丈夫なら良かった!」
そう言って笑った彼女を見た瞬間に
心臓が大きな音を立てたのが分かった。
「あの…」
「那奈!
お前こんなとこいたのかよっ!」
改めてお礼もしたいし連絡先だけでも聞こうと思い口を開いた途端辺りに響く男の声とバイクのエンジン音。
「圭介!?どしたの?」
驚いた様子で俺の横をするりと通り抜けその男の元へと駆け寄る彼女。
「どしたの、じゃねーよ!
今日の集会は顔出すって言ったのはお前だろ!
なのに家にいねーし電話出ねーし!
お前連れてかねーとマイキー拗ねるし!
探したんだからな!」
「あはっ!ごめんねー!
ちょっと買い物いっててさー」
「ったく、マイキー並みに自由人だなお前」
「マイキーと一緒にしないで!」
何だかよく分からないけど、
ふたりが仲がいいのは分かる。
話ながら彼女にヘルメットを渡し、彼女も慣れた感じでバイクの後ろに乗る。
「つーか、誰?あいつ」
そう言って俺を見る男に一瞬身体が強張る。
特攻服という物を着てバイクに乗るこの男は不良と呼ばれる人だろう。
だけどさっきの不良達とは全く違う。
圧倒される様なモノがある。
「かつあげ目的で5人の不良に絡まれてたから助けたの」
「あっ!?
なんだそれ!?
ひとりに対して5人だぁ!?
クソだせぇ奴らだな!
俺がぶっ潰してやるよ」
「もう逃げたよ」
「んだよっ!
つーか、お前は怪我ねーのか?」
「ある訳ないでしょ!」
「ははっ!だよな!
でも無茶すんなよ、何かあったらすぐ言えよ」
「…うん!」
「よしっ!
んじゃいくか!
おい、お前」
「は、はい!」
急に声を掛けられて思わずどもってしまった俺に男は言葉を続ける。
「この辺は中途半端な不良多いからな、気をつけろよ?
まぁ何かあったら俺に言えよ、
東卍の壱番隊隊長、場地圭介になっ!」
そう言って颯爽とバイクを走らせて去っていった。
…凄い、まるでヒーローみたいだ、
そう思った。
そして那奈と呼ばれていた、
俺を助けてくれた彼女、
純粋に凄いと思った。
ひとりで5人の不良達に立ち向かう勇気、
そして圧倒的な強さ、
…かっこよかった、
そして、惹かれた、
彼女の真っ直ぐな強さに、
そして彼女の笑顔に。
そんな彼女に再会したのは高校の入学式だった。
一目で分かった、彼女だと。
だけど、あの頃と少し違う様に見えた。
髪色のせいだろうか?
あの頃は明るい髪色だったけど今は落ち着いた黒だからかな?
…まぁ、あれから1年近く経つしそりゃ多少は変わるのも不思議はない。
「市ノ瀬さん」
入学式の後、偶然にも同じクラスだった彼女に声をかける。
「…はい?」
不思議そうな表情の彼女にやっぱり俺の事は覚えていないのかと少し落ち込む。
「あの、市ノ瀬さんは覚えていないかも知れないけど俺、1年位前に市ノ瀬さんに助けてもらった事があって…」
「え…?」
「不良にかつあげされてるのを助けてもらったんだ」
俺の話に何か考える様な難しい表情を浮かべる。
「……ああ!5人の不良にかつあげされてた!」
「うん、思い出したかな?
ちょっと恥ずかしいけど…」
「うん、思い出した。
ごめんね、忘れてて」
そう言って柔らかく笑う彼女に俺の心臓はまた大きな音を立てた。
「ずっとお礼を言いたかったんだけど連絡先も聞けなかったから。
あの時は本当にありがとう」
「いいよー、それにあの時もお礼言ってもらったよ?
でも凄い偶然だね、まさか同じ高校とか!」
「うん、本当に。
入学式で見かけて驚いたよ。
あの時助けてくれた女の子だって」
「あはは、恥ずかしいな。
男みたいでしょ?」
「そんな事ないよ、
凄く強くてかっこよかった」
「うわ~、止めて恥ずかしい!」
本当に恥ずかしそうに顔を赤くして笑う彼女にホッとする。
入学式で見かけた時、何だか少し元気ないように見えたから。
でも入学式なんてみんな緊張してて当たり前だし、きっと彼女も緊張からそんな風に見えたんだろう。
「あ、そうだ
場地君は?元気?」
「…え?」
場地君の名前を出した瞬間、
彼女の表情に影が落ちた気がした。
だけど俺は構わずに話を続けてしまった。
彼女に再会出来た嬉しさでそこまで考える余裕がなかったのかも知れない。
「実はあの後1回だけ場地君に会ったんだ」
「圭介に…?」
「うん、去年の10月末位だったかな?
偶然見かけて思わず声かけたんだ。
そしたら場地君、最初は怖い顔してたけど俺の事思い出したら笑顔で話してくれて」
そう、彼女には今日再会したけれど
あの時後から現れた場地君には一度だけ会った事があった。
「…10月末位って、
ハロウィン…?」
「ああ、そうだね
言われてみればそうだ」
「…あのさ、その時圭介…」
「ホームルーム始めるぞー」
いつの間にか教室に入ってきていた担任が彼女の言葉を遮るようにそう叫んだ。
「あ、じゃあまた後で」
「うん…」
そう言って自分の席へと戻る。
チラッと彼女を見ると
彼女の顔からは笑顔が消えて悲しそうな表情をしていた。
部活帰りに不良に絡まれている所を助けてくれた女の子に。
「とりあえず金、出せよ」
向こうからぶつかってきたのに金を要求する不良達。
まわりは見て見ぬふり。
そりゃそうだ、こんな見るからに不良の奴に関わりたくなんかないだろう。
俺に対してチラッと同情的な視線だけ寄越してそそくさと去っていく。
…財布、いくら入ってたっけ。
さすがに5人相手に反抗する事も逃げる事も無理だと悟った俺は鞄に手をかける。
試合前に問題を起こす訳にはいかない。
「何してんの」
諦めて鞄から財布を出そうとしている俺の耳に聞こえてきた声に俺は思わず顔を上げる。
そこにはひとりの女の子が立っていた。
「あっ?何だてめぇ」
割って入ってきた女の子に苛立ちを隠せない不良達。
「見りゃ分かんだろ!?
こいつがぶつかってきたから慰謝料貰ってんだよ!」
「それとも何?
てめぇが代わりに払ってくれるのかよ?」
ニヤニヤと笑いながら女の子に近づいていく不良達。
さすがにこれには問題を起こす訳にはいかないとか言ってられない。
俺を助けようとしてくれた女の子を巻き込む訳にはいかない。
「やめ…」
ガッ!!
「……え?」
俺の制止を遮るように振り上げられた女の子の足。
そしてその場に倒れる不良。
「少し遠くから見えたけどさ、
明らかにあんた達がこの子にぶつかってたじゃん。
この子、すれ違う前にちゃんと避けてたし」
見えたって、
それでわざわざ助けにきてくれたのか…?
女の子ひとりで?
「それにひとりに対して5人とかどんだけ卑怯な訳?
クソダサ過ぎて笑えない」
「てめぇ!!」
図星だったのか、不良達は顔を赤くして女の子に向かっていく。
危ない、そんな事を思う間もなく次々に不良が倒れていく。
「大丈夫?」
呆気にとられてただ立ち尽くしている俺に女の子がそう聞いてきた。
さっきまでの冷たく怒りを滲ませた表情とは違って本当に心配そうに俺を見ている。
「あ、はい。
俺は大丈夫ですけど、君は…?」
「ん?私は大丈夫。
君は?
怪我とかしてない?」
「はい、あなたが助けてくれたので。
…ありがとうございます、お陰で助かりました」
そう言って精一杯の感謝を込めて頭を下げる。
正直、見ず知らずの女の子に助けてもらうなんて男としての情けなさもある。
だけど、本当に凄く感謝しているし、
それに
嬉しかった。
みんな見て見ぬふりでそそくさと去っていく中、危険も省みず助けてくれた事が。
「そっか!
大丈夫なら良かった!」
そう言って笑った彼女を見た瞬間に
心臓が大きな音を立てたのが分かった。
「あの…」
「那奈!
お前こんなとこいたのかよっ!」
改めてお礼もしたいし連絡先だけでも聞こうと思い口を開いた途端辺りに響く男の声とバイクのエンジン音。
「圭介!?どしたの?」
驚いた様子で俺の横をするりと通り抜けその男の元へと駆け寄る彼女。
「どしたの、じゃねーよ!
今日の集会は顔出すって言ったのはお前だろ!
なのに家にいねーし電話出ねーし!
お前連れてかねーとマイキー拗ねるし!
探したんだからな!」
「あはっ!ごめんねー!
ちょっと買い物いっててさー」
「ったく、マイキー並みに自由人だなお前」
「マイキーと一緒にしないで!」
何だかよく分からないけど、
ふたりが仲がいいのは分かる。
話ながら彼女にヘルメットを渡し、彼女も慣れた感じでバイクの後ろに乗る。
「つーか、誰?あいつ」
そう言って俺を見る男に一瞬身体が強張る。
特攻服という物を着てバイクに乗るこの男は不良と呼ばれる人だろう。
だけどさっきの不良達とは全く違う。
圧倒される様なモノがある。
「かつあげ目的で5人の不良に絡まれてたから助けたの」
「あっ!?
なんだそれ!?
ひとりに対して5人だぁ!?
クソだせぇ奴らだな!
俺がぶっ潰してやるよ」
「もう逃げたよ」
「んだよっ!
つーか、お前は怪我ねーのか?」
「ある訳ないでしょ!」
「ははっ!だよな!
でも無茶すんなよ、何かあったらすぐ言えよ」
「…うん!」
「よしっ!
んじゃいくか!
おい、お前」
「は、はい!」
急に声を掛けられて思わずどもってしまった俺に男は言葉を続ける。
「この辺は中途半端な不良多いからな、気をつけろよ?
まぁ何かあったら俺に言えよ、
東卍の壱番隊隊長、場地圭介になっ!」
そう言って颯爽とバイクを走らせて去っていった。
…凄い、まるでヒーローみたいだ、
そう思った。
そして那奈と呼ばれていた、
俺を助けてくれた彼女、
純粋に凄いと思った。
ひとりで5人の不良達に立ち向かう勇気、
そして圧倒的な強さ、
…かっこよかった、
そして、惹かれた、
彼女の真っ直ぐな強さに、
そして彼女の笑顔に。
そんな彼女に再会したのは高校の入学式だった。
一目で分かった、彼女だと。
だけど、あの頃と少し違う様に見えた。
髪色のせいだろうか?
あの頃は明るい髪色だったけど今は落ち着いた黒だからかな?
…まぁ、あれから1年近く経つしそりゃ多少は変わるのも不思議はない。
「市ノ瀬さん」
入学式の後、偶然にも同じクラスだった彼女に声をかける。
「…はい?」
不思議そうな表情の彼女にやっぱり俺の事は覚えていないのかと少し落ち込む。
「あの、市ノ瀬さんは覚えていないかも知れないけど俺、1年位前に市ノ瀬さんに助けてもらった事があって…」
「え…?」
「不良にかつあげされてるのを助けてもらったんだ」
俺の話に何か考える様な難しい表情を浮かべる。
「……ああ!5人の不良にかつあげされてた!」
「うん、思い出したかな?
ちょっと恥ずかしいけど…」
「うん、思い出した。
ごめんね、忘れてて」
そう言って柔らかく笑う彼女に俺の心臓はまた大きな音を立てた。
「ずっとお礼を言いたかったんだけど連絡先も聞けなかったから。
あの時は本当にありがとう」
「いいよー、それにあの時もお礼言ってもらったよ?
でも凄い偶然だね、まさか同じ高校とか!」
「うん、本当に。
入学式で見かけて驚いたよ。
あの時助けてくれた女の子だって」
「あはは、恥ずかしいな。
男みたいでしょ?」
「そんな事ないよ、
凄く強くてかっこよかった」
「うわ~、止めて恥ずかしい!」
本当に恥ずかしそうに顔を赤くして笑う彼女にホッとする。
入学式で見かけた時、何だか少し元気ないように見えたから。
でも入学式なんてみんな緊張してて当たり前だし、きっと彼女も緊張からそんな風に見えたんだろう。
「あ、そうだ
場地君は?元気?」
「…え?」
場地君の名前を出した瞬間、
彼女の表情に影が落ちた気がした。
だけど俺は構わずに話を続けてしまった。
彼女に再会出来た嬉しさでそこまで考える余裕がなかったのかも知れない。
「実はあの後1回だけ場地君に会ったんだ」
「圭介に…?」
「うん、去年の10月末位だったかな?
偶然見かけて思わず声かけたんだ。
そしたら場地君、最初は怖い顔してたけど俺の事思い出したら笑顔で話してくれて」
そう、彼女には今日再会したけれど
あの時後から現れた場地君には一度だけ会った事があった。
「…10月末位って、
ハロウィン…?」
「ああ、そうだね
言われてみればそうだ」
「…あのさ、その時圭介…」
「ホームルーム始めるぞー」
いつの間にか教室に入ってきていた担任が彼女の言葉を遮るようにそう叫んだ。
「あ、じゃあまた後で」
「うん…」
そう言って自分の席へと戻る。
チラッと彼女を見ると
彼女の顔からは笑顔が消えて悲しそうな表情をしていた。
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