「若利君、中学は白鳥沢にいくんですってね」

兄が白鳥沢学園への進学が決まった頃から私は近所の人達や学校の先生達に会う度にそう言われていた。

白鳥沢学園といえば偏差値が高いのは勿論、有名スポーツ選手を多く輩出している名門中の名門だ。
そんな学園に入学が決まったのだ、私の兄に対する尊敬や憧れはますます強くなっていった。

「お兄ちゃんは凄いね」
そう言われる度に私はまるで自分が誉められてるみたいに誇らしかった。
そうだよ、私のお兄ちゃんは世界一凄いんだよ！
そう、本気で思っていた。

だけど……、



「若利君は凄いのに柚奈ちゃんは普通よね」

ある時ふと言われた言葉。
最初は訳が分からなかった。
だって私は普通だ。
そんなの当たり前だ。
お兄ちゃんは特別だもん。
そんな特別で凄いお兄ちゃんと比べたらそりゃあ私なんて普通だよ。
そう思っていたけれど、

「同じ兄妹でここまで差が出るなんて、可哀想ね」

そう、言われた瞬間
頭を固い鈍器で殴られた様な感覚に襲われた。

可哀想？
私が？
どうして？

「お父さんはいないし、お兄ちゃんばかり才能に恵まれて本当に…

可哀想」

同情するように、だけど哀れみや少しの意地の悪さや楽しさも含むその顔に、
私は背筋が冷たくなって怖くなってすぐにその場を逃げ出した。


可哀想ね

たったひと言のその言葉は
ナイフの様に私の心を突き刺した。


それから私は、
大好きな兄に対して少しずつ少しずつ
小さな妬みや僻みを持つ様になっていった。