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2話 再会

 真純くんが復学する日、わたしは柄にもなくわくわくしていた。それもそのはずだ。六年生のあのとき、明日は真純くんに会えるかなとすがる思いで毎日毎日飽きもせずに待ち焦がれていたから。
 こんなにも待ちに待った瞬間を迎えようとしているのに、臆病なわたしは真純くんの前に顔を出すことさえ許されない気がして足を踏み出せなかった。会わないと決めた以上、いつもの居場所で落ち着きなく立ったり座ったりしながら一日をやり過ごすことしかできなかった。

「愛莉!」

 まるで全力で走ってきたかのように息を切らしながら、ずっと聞きたかった声がわたしの名前を呼んだ。こんなにろくでもない見た目のわたしにも変わらずに、あの頃と同じように。きっとあのお節介な男が彼をここに寄こしたのだ。

「そんなに息を切らして、また発作でも起きたらどうするのよ。せっかく退院したのに、まだ病院に居たかったの?」
 わたしは憎まれ口しか叩けない。いつからか、誰かに気を遣うような言葉は口に出来なくなっていた。これは、わたしの口から出せる精一杯の心配で、激励なのに。本当は抱きついて会いたかったよ、退院おめでとうって、よく頑張ったねって素直にそう言いたい。きっとあの頃のわたしなら自然とそんな言葉が口に出来ていた。けれど今のわたしにはそんな簡単なことだってできない。
「ありがとう。ずっと会いたかった、愛莉を一人にしてごめん」
 言いたいことはたくさんあるけれど、今は胸がいっぱいでうまく言葉がまとまらないと言いながらわたしを抱き締めてくれた。
 忘れてしまいそうだった人の温もりを、わたしは久しぶりに感じることができた。
「そう。じゃあわたしは行くわ。もう二度とわたしに近づかないで」
 その幸せに浸っていたい。そんな気持ちを振り払うかのように、真純くんの細い腕を引き離して逃げた。この幸せが、幸せで終わるためにはきっとそうするしかなかった。

 状況を整理できていないぽかんとした真純くんの表情に深く胸が痛んだ。けれど、わたしが真純くんの優しさに甘えて、一緒に居たのなら真純くんをもっと傷つけてしまうことはわかっていた。
 わたしは知っている。人の残酷さを。いじめられている真純くんを助けて、一緒にいたわたしを、クラスの人は自分たちの敵で、蔑む相手だと認識した。そのせいでわたしがどれだけ傷ついたかなんて計りもしない。ただ楽しいから、自分が優位に立ちたいから、自分がいじめられる側の人間になりたくないから。理由はたくさんあっただろうけれど、真純くんを、もう一度そんな醜い人間の標的にしたくない。
 誰よりも前向きで努力家で、どんなことにも屈しない彼が、本当はどれだけ純粋で繊細で怖がりで後ろ向きかをわたしはよく知っている。教師にも医者にも、親や双子の兄にさえ、苦しい気持ちを言わないで一人で闘い続ける彼が、わたしにだけ少しの弱音を吐いてくれる。その弱音を全部受け止めたわたしだから、真純くんには笑っていてほしい。たとえ、わたしの苦しみの火種が、真純くんを助けたことだったとしても。

「わたしも会いたかったよ。わたしのこと、覚えていてくれてありがとう。わたしも、ずっとずっと……」
 真純くんとも十分距離をとったと確信して、周囲に誰もいないことを確認してそう呟いた。自分で決めたことなのに、悲しくて悲しくて涙が止まらない。許されるならば、また真純くんと笑いあえる日が来てほしかった。悪いのは強い心を律して、前のままのわたしで待っていることができなかった自分だ。
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