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2話 球技大会

 球技大会も本番を迎えたが、小春は未だにかけるくんに声をかけられないでいた。直子のおかげで、何度か合同練習の時に同じコートに立ったものの、なかなか話すきっかけがつかめないまま。
 けれど、そうやって遠くから見ているだけでもかけるくんのことがどんどん好きになっていく。優しいかけるくん、運動神経のいいかけるくん、友達に気を遣うかけるくん、知らないかけるくんがどんどんわかる。小春はそう思い、同じ空間にいられるだけで幸せだと思った。
(かけるくんに、なんて声をかけようかな)
「危ない!」
 小春がその言葉に反応した時には、ボールが目の前まで迫っていた。どういう状況なのかすぐに理解ができない。反射的に目を閉じたが、到底避けることなんてできない。
――けれど、ボールは小春には当たらなかった。
「……かける、くん」
 目の前でしっかりとキャッチされたボールは、コートの方へ投げられた。
「間に合って良かった」
 そう言って翔は、小春に笑いかける。ずるい、こんなの落ちないわけがない。元から彼の虜だった小春は、どうしても気持ちを抑えきれない。
「かけるくん、また助けてくれて、ありがとう」
 翔はピンと来ていない。“また助けてくれた”という意味が分からない。翔にとって小春は話したこともない相手だと思っていたから。合同練習のときに何かしたっけと頭を捻る。
「そういえば、なんでオレのこと知ってたんだ?」
 保健室で掃除をしていると、自分を一目見るなり“かけるくん”と呼んだ彼女のことがずっと気になっていた。
「受験票、一緒に探してくれて、……あ、私浪川小春と言います」
 翔は何かひらめいたかのように、表情を変えた。今まで謎だったことがすべて解決したのだ。
「あのときの……」
 今の小春よりも髪は長くて、二つにまとめていた。服は今と違ってセーラー服姿で、ただでさえ人の顔を覚えるのが苦手な翔は今の小春が受験のとき助けた相手だとは気が付かなかったし、あのときはただ無我夢中で、受験票を探していたから意識はしていなかった。
「ごめん、覚えてなくて」
 けど、今思い出したから良かったと翔は言った。そんな翔に小春はますます好きになってしまう。
「じゃあ、次試合だから」
 もう行くなと手を振る翔に対して小春は固まって何も言えなかった。

 かけるくんと話せただけでこんなにも幸せで、かけるくんの笑顔が、かけるくんの言葉がひとつひとつ嬉しくて死んでしまいそうなのに、自分が望んだかけるくんとの未来がもしもかなってしまったら正気でいられるのだろうか……。小春はそう考えて翔への想いをそっと胸にしまった。
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