1話 入学式~
「ありえない……いきなりトイレ掃除なんて! しかも備品全然ないし」
「でも、私は教室は教室でやだよ」
備品をチェックして、怒りながら歩き出す明美と、それを追いかける直子。
「小春も来てよ。持ってくる量多いし、一人嫌でしょ?」
掃除場所に誰もいないなんて大丈夫かなと小春は考えながら駆け足で二人に合流して、トイレットペーパーと洗剤のある保健室へと足を速める。
入ったときは気づかなかったのに、備品を取り終わって出るときに保健室の中にふと目をやる。小春は驚いた表情で、箒を動かす翔を見ていた。小春が気になった直子も中を覗き、仕切りカーテンの方に注視して頬を赤らめていた。
「かける……くん」
そう呟くなりすぐに小春は保健室の前から姿を消していた。明美と直子は慌てて小春を追いかけて階段を駆け上がる。
「小春! どうしたのよ」
「……」
黙ったまま、顔を上げずに走り続ける小春。
掃除場所のトイレに着いて、ようやく落ち着いた小春は顔を覆って立ち尽くしていた。
「小春……」
口を開かない小春を心配そうに見つめる明美。
「すごく綺麗だったよね……思わず見惚れちゃった。あれが小春の言ってた……?」
小春と一緒に、中にいる男の子に目を奪われていた直子は、緩んだ顔でそう言った。
「ちょっとなお、何言ってるの!」
小春はずっと想ってたのよと明美は直子に声を上げる。
「じょ、冗談だよ! 私は小春の恋を応援するって!」
あまりにも本気で怒ってきた明美に圧倒されて、直子はそう誤魔化す。
「いきなりごめんね……かけるくんに会えたのは嬉しかったけど、心の準備が出来てなくて……」
小春は赤くなって俯く。女の子らしくて可愛い小春の仕草ひとつひとつを、直子は羨ましそうに見ていた。
(すごく素敵な人で、一目惚れしてしまったけど、ライバルが小春でちゃんと恋するに値する理由があるなら勝てないかな)
直子は友達を裏切ることなんてしたくなかったし、女の子らしさという面でコンプレックスを抱いていたからか消極的になる。何より、明美の小春への想いの方が怖かった。結託した二人になんて敵うわけない。
「て、小春はともかく、なんでなおまでダメージ受けたような顔して突っ立てるのよ。備品取りに行った分時間がないのに」
「……はぁ、ごめん」
ため息をついてトイレットペーパーを補充しに向かう直子。明美は直子の様子を見てまさかと思う。
「ねえ、なお。もしかして……かけるくんのこと好きになったりしてないよね?」
「へ?」
直子は図星というような顔をして気の抜けた声を出す。
「小春の恋、応援するんでしょ?」
明美は回り込んで、直子と目を合わせて念を押す。
「だ、だってすごい理想の人だったんだもん」
迫る明美に隠し切れないと判断した直子は正直にそう言った。小春は泣きそうな顔をしている。
「あ、明美ちゃんもそうでしょ。あんなに綺麗な人見たら一目惚れしちゃうでしょ。スラっと細くて、背は自分より十五センチくらい高くて、色素の薄い髪と色白の肌。それに長い睫毛、潤んだ綺麗な瞳。整った顔立ちなのに少しあどけなさの残る可愛い顔。まさに理想の王子様だったんだよ!」
明美も小春もさっきとは一変してきょとんとした顔をしている。
(まずい……ドン引きされてる)
直子はもう友達ではいられないなと覚悟した。恋を応援するなんて言っておきながら自分も好きになってしまった上に、気持ち悪いことを言ってしまった……。
「……?」
恐る恐る顔を上げると、なぜか小春は嬉しそうな顔をしていた。
「なおちゃんの理想の相手、かけるくんじゃなくてよかった」
「え?」
直子は小春が好きな相手もきっと自分と同じだと思っていた。
「ていうか今のでよくかけるくんじゃないって分かったわね」
「かけるくんとは髪の色とかも違うし、背は自分と変わらないくらいなのに、すごく頼もしい感じがするんです」
明美の質問に堂々と答える小春。直子は小春がかけるくんのことを好きなのは嘘じゃないなと思う。
「まあ、二人ともライバルにならなくて良かったわね。どっちも応援するから、今日あたり司に聞いてみる」
一組とは聞いていたけれど、まさかあの場に司もいるとは。いずれ司になにかしら情報を求めようとしていたけれど、それがかなり有力なものになりそうだと明美は心の中でニヤリと笑った。
「でも、私は教室は教室でやだよ」
備品をチェックして、怒りながら歩き出す明美と、それを追いかける直子。
「小春も来てよ。持ってくる量多いし、一人嫌でしょ?」
掃除場所に誰もいないなんて大丈夫かなと小春は考えながら駆け足で二人に合流して、トイレットペーパーと洗剤のある保健室へと足を速める。
入ったときは気づかなかったのに、備品を取り終わって出るときに保健室の中にふと目をやる。小春は驚いた表情で、箒を動かす翔を見ていた。小春が気になった直子も中を覗き、仕切りカーテンの方に注視して頬を赤らめていた。
「かける……くん」
そう呟くなりすぐに小春は保健室の前から姿を消していた。明美と直子は慌てて小春を追いかけて階段を駆け上がる。
「小春! どうしたのよ」
「……」
黙ったまま、顔を上げずに走り続ける小春。
掃除場所のトイレに着いて、ようやく落ち着いた小春は顔を覆って立ち尽くしていた。
「小春……」
口を開かない小春を心配そうに見つめる明美。
「すごく綺麗だったよね……思わず見惚れちゃった。あれが小春の言ってた……?」
小春と一緒に、中にいる男の子に目を奪われていた直子は、緩んだ顔でそう言った。
「ちょっとなお、何言ってるの!」
小春はずっと想ってたのよと明美は直子に声を上げる。
「じょ、冗談だよ! 私は小春の恋を応援するって!」
あまりにも本気で怒ってきた明美に圧倒されて、直子はそう誤魔化す。
「いきなりごめんね……かけるくんに会えたのは嬉しかったけど、心の準備が出来てなくて……」
小春は赤くなって俯く。女の子らしくて可愛い小春の仕草ひとつひとつを、直子は羨ましそうに見ていた。
(すごく素敵な人で、一目惚れしてしまったけど、ライバルが小春でちゃんと恋するに値する理由があるなら勝てないかな)
直子は友達を裏切ることなんてしたくなかったし、女の子らしさという面でコンプレックスを抱いていたからか消極的になる。何より、明美の小春への想いの方が怖かった。結託した二人になんて敵うわけない。
「て、小春はともかく、なんでなおまでダメージ受けたような顔して突っ立てるのよ。備品取りに行った分時間がないのに」
「……はぁ、ごめん」
ため息をついてトイレットペーパーを補充しに向かう直子。明美は直子の様子を見てまさかと思う。
「ねえ、なお。もしかして……かけるくんのこと好きになったりしてないよね?」
「へ?」
直子は図星というような顔をして気の抜けた声を出す。
「小春の恋、応援するんでしょ?」
明美は回り込んで、直子と目を合わせて念を押す。
「だ、だってすごい理想の人だったんだもん」
迫る明美に隠し切れないと判断した直子は正直にそう言った。小春は泣きそうな顔をしている。
「あ、明美ちゃんもそうでしょ。あんなに綺麗な人見たら一目惚れしちゃうでしょ。スラっと細くて、背は自分より十五センチくらい高くて、色素の薄い髪と色白の肌。それに長い睫毛、潤んだ綺麗な瞳。整った顔立ちなのに少しあどけなさの残る可愛い顔。まさに理想の王子様だったんだよ!」
明美も小春もさっきとは一変してきょとんとした顔をしている。
(まずい……ドン引きされてる)
直子はもう友達ではいられないなと覚悟した。恋を応援するなんて言っておきながら自分も好きになってしまった上に、気持ち悪いことを言ってしまった……。
「……?」
恐る恐る顔を上げると、なぜか小春は嬉しそうな顔をしていた。
「なおちゃんの理想の相手、かけるくんじゃなくてよかった」
「え?」
直子は小春が好きな相手もきっと自分と同じだと思っていた。
「ていうか今のでよくかけるくんじゃないって分かったわね」
「かけるくんとは髪の色とかも違うし、背は自分と変わらないくらいなのに、すごく頼もしい感じがするんです」
明美の質問に堂々と答える小春。直子は小春がかけるくんのことを好きなのは嘘じゃないなと思う。
「まあ、二人ともライバルにならなくて良かったわね。どっちも応援するから、今日あたり司に聞いてみる」
一組とは聞いていたけれど、まさかあの場に司もいるとは。いずれ司になにかしら情報を求めようとしていたけれど、それがかなり有力なものになりそうだと明美は心の中でニヤリと笑った。
