11話 バレンタイン
「お、明美じゃん。珍しいな?」
家を出て1番に目に飛び込んできたのは、隣に住む大好きな幼馴染の顔。
「別にたまにはあたしから来たっていいでしょ」
普段とは違う光景に驚いたが、明美の膨れっ面を見るといつも通りだと安心した。
「これ。昨日小春たちと作ったんだけど余ったから先に渡しとくわ。学校で渡して勘違いでもされたら嫌だから」
そう言うと明美は大きな紙袋から小箱を取り出した。余り物の割に、他のビニールの包装とは明らかに区別してあるその贈り物を見て思わず口角が上がりそうになるのを堪えた。一瞬、今日って何かあったっけと思ったが、明美の様子や言葉から明日がバレンタインだということに気づいた。
「お、マジか! やったぜ! じゃあこれは部屋に置いてくるな!!」
階段を駆け上がり、部屋まで一直線に向かう。
大声でやったー!!と叫びたくなるのを我慢して、満面の笑みと共にガッツポーズをした。
なんだかんだで毎年明美はチョコをくれるが、今年はラッピングが他のものと違っていたから余計に嬉しくなる。
今すぐ中身を見たい。けれど今見ると明美にも周囲にも一喜一憂していることが伝わってしまうかもしれない。学校から帰ってこっそり見よう。
「明美ーおまたせ!」
急いで玄関へ戻りドアを開けると、先程までいたはずの明美の姿が見えない。キョロキョロ辺りを見回すが、すでにいなくなっていた。
慌てて靴を履き、通学路を走る。するとすぐに明美の後ろ姿が見えた。
明美も相当照れ屋だなと思うと、これは話しかけたら不機嫌になるやつだと理解して、追いつかないように数メートル後ろをゆっくり歩いた。
「司くん! 着く前に会えてラッキー!! これバレンタインのチョコだよ」
「サンキュー!」
笑顔で受け取り、少し照れながら走っていくチョコの主を確認すると、他の男子に疎まれるのが嫌でそれをリュックの中に入れた。
「司く〜ん! あ、もしかしてうちが一番乗り? はいこれあげる〜」
「どうだろうな〜? でもありがたく貰っとくな〜」
少し歩くとまた声をかけられた。バレンタインの日はあまり好きではない。と言ったら世の男を全て敵に回してしまいそうだが。
明美のチョコさえもらえたら他の女子からもらう必要なんてない。そう思っても、ついついヘラヘラ笑って受け取ってしまう。明美以外の女子には別に好かれなくてもいいのだが、嫌われてしまうのも嫌だ。
「はぁ……」
自分に呆れ、ため息を吐きながら靴箱を開くとスルーして上履きを取ることができないほどに箱で埋め尽くされていた。
「マジかよ」
思わず閉め、周囲に人がいないことを確認すると、慌てて鞄にそれをつっこんだ。去年は入試があったらみんな余裕がなかったのかこんなことはなく、すっかり忘れていた。
廊下を歩けばバレンタインの当日でもないのに、チョコを渡す女子で賑わっている。
「はい、司くんもどーぞ!」
「おぉ、サンキュー」
流れるようにチョコが差し出され、それを受け取りながら教室へ入る。正直一組で助かったと思った。
普段は置き勉しているから荷物は少ないのだが、すでに容量いっぱいのリュックからペンケースや宿題のノートなどを取り出し、机の中に入れようとした。
「ん? 奥まで入らねぇな」
机の中を覗くと、ラッピングされた小綺麗な箱が三つほど入っており、それが奥でつっかえていたのだ。
(俺、そんなにチョコ貰うようなことしてたっけな)
不思議に思いながら、周りに見えないようにコソコソとリュックの中を整理した。すでに十箱を優に超える、それも本命さながらの立派なチョコでいっぱいのリュックが、帰りには閉まらなくなることは想像に難くない。
中にはいつもより凝った髪型をしている女子、普段は開けていないボタンまで開けて誘惑する女子もいた。さらに友チョコやクラスメイト全員に配るような女子からも当たり前のように受け取り、配り終えた女子から見かねて紙袋を渡されるほどの大収穫を得た。
しかし、中身が気になるのはやはり今日最初に貰った、唯一ここにはないただその一つだった。
放課後、明美の姿を見つけると急いで追いかけた。朝のお礼もちゃんと言ってないし、人の顔を覚えるのが得意な自分でさえ認識していないような他クラスの女子にまで囲まれて正直疲れていたので、明美の顔を見て安息を得たいという気持ちもあった。
「何よ。こんなにチョコ貰ったっていう自慢のつもり? 勘違いされたら嫌だから今日は話しかけないでって言ったでしょ」
「え、そんなこと言ってた?」
「本当バッカじゃない! ヘラヘラしてムカつくのよ」
明美はいつになく機嫌が悪いようで、一切振り向くことなくそう言い放った。
まあ明美がこうなるのは今日に始まったことではないから、虫の居所が悪い今日は避けて明日にでもちゃんとお礼を言えばいいか。
「明日ちゃんと朝のお礼言わせてくれよな。だからそれまでに機嫌直しとけよ」
「はぁ? あんたのせいでしょ! 何でそんな偉そうなのよ!!」
明美はそうは言っても、なんだかんだでずっと変わらずにいてくれる。いつものように怒って足早に離れる明美の後ろ姿もまた愛しくて、やっぱりこのままの関係でいられたらいいなと思うのだった。
家を出て1番に目に飛び込んできたのは、隣に住む大好きな幼馴染の顔。
「別にたまにはあたしから来たっていいでしょ」
普段とは違う光景に驚いたが、明美の膨れっ面を見るといつも通りだと安心した。
「これ。昨日小春たちと作ったんだけど余ったから先に渡しとくわ。学校で渡して勘違いでもされたら嫌だから」
そう言うと明美は大きな紙袋から小箱を取り出した。余り物の割に、他のビニールの包装とは明らかに区別してあるその贈り物を見て思わず口角が上がりそうになるのを堪えた。一瞬、今日って何かあったっけと思ったが、明美の様子や言葉から明日がバレンタインだということに気づいた。
「お、マジか! やったぜ! じゃあこれは部屋に置いてくるな!!」
階段を駆け上がり、部屋まで一直線に向かう。
大声でやったー!!と叫びたくなるのを我慢して、満面の笑みと共にガッツポーズをした。
なんだかんだで毎年明美はチョコをくれるが、今年はラッピングが他のものと違っていたから余計に嬉しくなる。
今すぐ中身を見たい。けれど今見ると明美にも周囲にも一喜一憂していることが伝わってしまうかもしれない。学校から帰ってこっそり見よう。
「明美ーおまたせ!」
急いで玄関へ戻りドアを開けると、先程までいたはずの明美の姿が見えない。キョロキョロ辺りを見回すが、すでにいなくなっていた。
慌てて靴を履き、通学路を走る。するとすぐに明美の後ろ姿が見えた。
明美も相当照れ屋だなと思うと、これは話しかけたら不機嫌になるやつだと理解して、追いつかないように数メートル後ろをゆっくり歩いた。
「司くん! 着く前に会えてラッキー!! これバレンタインのチョコだよ」
「サンキュー!」
笑顔で受け取り、少し照れながら走っていくチョコの主を確認すると、他の男子に疎まれるのが嫌でそれをリュックの中に入れた。
「司く〜ん! あ、もしかしてうちが一番乗り? はいこれあげる〜」
「どうだろうな〜? でもありがたく貰っとくな〜」
少し歩くとまた声をかけられた。バレンタインの日はあまり好きではない。と言ったら世の男を全て敵に回してしまいそうだが。
明美のチョコさえもらえたら他の女子からもらう必要なんてない。そう思っても、ついついヘラヘラ笑って受け取ってしまう。明美以外の女子には別に好かれなくてもいいのだが、嫌われてしまうのも嫌だ。
「はぁ……」
自分に呆れ、ため息を吐きながら靴箱を開くとスルーして上履きを取ることができないほどに箱で埋め尽くされていた。
「マジかよ」
思わず閉め、周囲に人がいないことを確認すると、慌てて鞄にそれをつっこんだ。去年は入試があったらみんな余裕がなかったのかこんなことはなく、すっかり忘れていた。
廊下を歩けばバレンタインの当日でもないのに、チョコを渡す女子で賑わっている。
「はい、司くんもどーぞ!」
「おぉ、サンキュー」
流れるようにチョコが差し出され、それを受け取りながら教室へ入る。正直一組で助かったと思った。
普段は置き勉しているから荷物は少ないのだが、すでに容量いっぱいのリュックからペンケースや宿題のノートなどを取り出し、机の中に入れようとした。
「ん? 奥まで入らねぇな」
机の中を覗くと、ラッピングされた小綺麗な箱が三つほど入っており、それが奥でつっかえていたのだ。
(俺、そんなにチョコ貰うようなことしてたっけな)
不思議に思いながら、周りに見えないようにコソコソとリュックの中を整理した。すでに十箱を優に超える、それも本命さながらの立派なチョコでいっぱいのリュックが、帰りには閉まらなくなることは想像に難くない。
中にはいつもより凝った髪型をしている女子、普段は開けていないボタンまで開けて誘惑する女子もいた。さらに友チョコやクラスメイト全員に配るような女子からも当たり前のように受け取り、配り終えた女子から見かねて紙袋を渡されるほどの大収穫を得た。
しかし、中身が気になるのはやはり今日最初に貰った、唯一ここにはないただその一つだった。
放課後、明美の姿を見つけると急いで追いかけた。朝のお礼もちゃんと言ってないし、人の顔を覚えるのが得意な自分でさえ認識していないような他クラスの女子にまで囲まれて正直疲れていたので、明美の顔を見て安息を得たいという気持ちもあった。
「何よ。こんなにチョコ貰ったっていう自慢のつもり? 勘違いされたら嫌だから今日は話しかけないでって言ったでしょ」
「え、そんなこと言ってた?」
「本当バッカじゃない! ヘラヘラしてムカつくのよ」
明美はいつになく機嫌が悪いようで、一切振り向くことなくそう言い放った。
まあ明美がこうなるのは今日に始まったことではないから、虫の居所が悪い今日は避けて明日にでもちゃんとお礼を言えばいいか。
「明日ちゃんと朝のお礼言わせてくれよな。だからそれまでに機嫌直しとけよ」
「はぁ? あんたのせいでしょ! 何でそんな偉そうなのよ!!」
明美はそうは言っても、なんだかんだでずっと変わらずにいてくれる。いつものように怒って足早に離れる明美の後ろ姿もまた愛しくて、やっぱりこのままの関係でいられたらいいなと思うのだった。
