9話 クリスマス
話は少し前に遡る。
普段あまりイベントごとをやろうって言わない明美ちゃんがクリスマスパーティーをしたいと提案してくれた。これはもちろん私やなおちゃんのために明美ちゃんが気を利かせてくれたのだ。かけるくんたちはすんなりOKしてくれて、その日が待ち遠しくて仕方なかったし、このチャンスは絶対無駄にしてはいけないと思った。
目の前まで期末試験が迫っているというのに、私の頭の中はある話題で持ちきりだった。ーーかけるくんのへのプレゼントをどうするか。クリスマス会が決まってから、私の中ではその問題がテスト範囲よりも大きなウエイトを占めていたように思う。かけるくんの欲しいものをさりげなく探ってみたけれど、何を欲しいかなんてわからないまま時間だけが過ぎていった。
ある日、たまたまお母さんが編み物をしているのを見かけて声をかけると、お父さんへのクリスマスプレゼントを編んでいたらしかった。私はこれだと思った。編み物はお母さんに習って何度かしたことがあり、それなりに自信はあったし、自分にしか贈れないものだと思った。
そうして私はテスト勉強そっちのけで夢中になってかけるくんへのマフラーを編んでいたのだ。編み終わった頃にはテストまであと2日しかなかった。
それが私が期末試験で平均点を取れず補習になってしまった理由だ。
「今回の期末試験で、平均点を下回った者は24日から26日の補習に参加すること」
先生からそう告げられたとき私は喪失感で頭がいっぱいになった。クリスマス会に出られないかもしれないと分かった瞬間に全てを失ったような気がしたのだ。
なおちゃんも私と同じだったみたいで、お互いにどうしようと嘆き合っていた。せっかくの明美ちゃんの提案を断りたくはないし、なによりかけるくんと迎えるクリスマスがなくなってしまうのはどうしても嫌で落ち込んでいた。
しかし、幸いにも補習は午前中だけで、かけるくんも一緒だということがわかり、むしろ良かったのではないかとさえ思うようになった。
**
「メリークリスマス!」
補習の日、偶然校門で会ったかけるくんに、1番にそう声をかけられて驚きつつもとても幸せな気持ちに包まれた。
「メリークリスマス、おはようございます!」
「今日楽しみだな!」
私の嬉しそうな表情から察したのか、かけるくんも今日が楽しみだと言ってくれた。いつも私たちの誘いに乗ってくれて、楽しんでくれるのについつい期待してしまう。
「私も今日が楽しみすぎて補習になっちゃったくらいです」
なんて言おうかな、この喜びをどう表現しようかなと思っているうちにそんなことを言っていた。
「オレもプレゼントとか考えてたらテストの日になってたもん」
かけるくんは照れ臭そうに笑いながらそう言った。私と同じ。それが私にとってはたまらなく嬉しかった。
「あの、さ、……こ、これ! 今のうちに……」
カバンの中をごそごそと探し、かけるくんが私に差し出したのは可愛い包装紙でラッピングされたプレゼントだった。かけるくんは今にも茹で上がりそうなくらい真っ赤な顔でそわそわしていた。
こんなの期待しない方がムリだ。
今なら勢いで告白だってしてしまえそうだと思った。
「あの、かけるくん! 私、実は……」
「おっはよー!!! 小春! あと翔くんも!」
あと一言というところでチャンスを逃してしまった。
「あれ? 何か話の途中だった?」
「ううん、かけるくんにプレゼント渡そうと思ってただけだから!」
私はそう言ってごまかした。なおちゃんは悪くないし、冷静に考えたらこんな人通りの多いところで告白しようとしていたと思うと恥ずかしい。
「かけるくん、これ良かったら受け取ってください」
手作りのマフラーが入った紙袋をかけるくんに押しつけて私はなおちゃんの手を掴んでつい教室まで走ってしまった。
**
補習が終わったらみんなで明美ちゃんの家に行こうと、待ち合わせしていた。
終了のチャイムと同時に私となおちゃんは急いで待ち合わせていた正門の前に向かう。
「私たちの方が早かったみたいだね」
「楽しみすぎてつい走っちゃったね」
なおちゃんと2人で笑っていると、かけるくんたちが来るのが見えた。
「えっ……うそ……」
こっちへ向かってくるかけるくんは、なんと私が朝プレゼントしたマフラーを巻いてきてくれた。
なんて幸せなクリスマスだろう。私は嬉し涙を堪えながら明美ちゃんの家への道中でかけるくんの隣を歩いていた。
もしかすると私の恋はもう実っているのかもしれない。そう思うと嬉しい反面、勘違いだったらどうしようという気持ちが生まれた。
今日のクリスマス会はみんなで、そしてこの想いは2月の一大イベントまでもう少し寝かせておこうと思った
普段あまりイベントごとをやろうって言わない明美ちゃんがクリスマスパーティーをしたいと提案してくれた。これはもちろん私やなおちゃんのために明美ちゃんが気を利かせてくれたのだ。かけるくんたちはすんなりOKしてくれて、その日が待ち遠しくて仕方なかったし、このチャンスは絶対無駄にしてはいけないと思った。
目の前まで期末試験が迫っているというのに、私の頭の中はある話題で持ちきりだった。ーーかけるくんのへのプレゼントをどうするか。クリスマス会が決まってから、私の中ではその問題がテスト範囲よりも大きなウエイトを占めていたように思う。かけるくんの欲しいものをさりげなく探ってみたけれど、何を欲しいかなんてわからないまま時間だけが過ぎていった。
ある日、たまたまお母さんが編み物をしているのを見かけて声をかけると、お父さんへのクリスマスプレゼントを編んでいたらしかった。私はこれだと思った。編み物はお母さんに習って何度かしたことがあり、それなりに自信はあったし、自分にしか贈れないものだと思った。
そうして私はテスト勉強そっちのけで夢中になってかけるくんへのマフラーを編んでいたのだ。編み終わった頃にはテストまであと2日しかなかった。
それが私が期末試験で平均点を取れず補習になってしまった理由だ。
「今回の期末試験で、平均点を下回った者は24日から26日の補習に参加すること」
先生からそう告げられたとき私は喪失感で頭がいっぱいになった。クリスマス会に出られないかもしれないと分かった瞬間に全てを失ったような気がしたのだ。
なおちゃんも私と同じだったみたいで、お互いにどうしようと嘆き合っていた。せっかくの明美ちゃんの提案を断りたくはないし、なによりかけるくんと迎えるクリスマスがなくなってしまうのはどうしても嫌で落ち込んでいた。
しかし、幸いにも補習は午前中だけで、かけるくんも一緒だということがわかり、むしろ良かったのではないかとさえ思うようになった。
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「メリークリスマス!」
補習の日、偶然校門で会ったかけるくんに、1番にそう声をかけられて驚きつつもとても幸せな気持ちに包まれた。
「メリークリスマス、おはようございます!」
「今日楽しみだな!」
私の嬉しそうな表情から察したのか、かけるくんも今日が楽しみだと言ってくれた。いつも私たちの誘いに乗ってくれて、楽しんでくれるのについつい期待してしまう。
「私も今日が楽しみすぎて補習になっちゃったくらいです」
なんて言おうかな、この喜びをどう表現しようかなと思っているうちにそんなことを言っていた。
「オレもプレゼントとか考えてたらテストの日になってたもん」
かけるくんは照れ臭そうに笑いながらそう言った。私と同じ。それが私にとってはたまらなく嬉しかった。
「あの、さ、……こ、これ! 今のうちに……」
カバンの中をごそごそと探し、かけるくんが私に差し出したのは可愛い包装紙でラッピングされたプレゼントだった。かけるくんは今にも茹で上がりそうなくらい真っ赤な顔でそわそわしていた。
こんなの期待しない方がムリだ。
今なら勢いで告白だってしてしまえそうだと思った。
「あの、かけるくん! 私、実は……」
「おっはよー!!! 小春! あと翔くんも!」
あと一言というところでチャンスを逃してしまった。
「あれ? 何か話の途中だった?」
「ううん、かけるくんにプレゼント渡そうと思ってただけだから!」
私はそう言ってごまかした。なおちゃんは悪くないし、冷静に考えたらこんな人通りの多いところで告白しようとしていたと思うと恥ずかしい。
「かけるくん、これ良かったら受け取ってください」
手作りのマフラーが入った紙袋をかけるくんに押しつけて私はなおちゃんの手を掴んでつい教室まで走ってしまった。
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補習が終わったらみんなで明美ちゃんの家に行こうと、待ち合わせしていた。
終了のチャイムと同時に私となおちゃんは急いで待ち合わせていた正門の前に向かう。
「私たちの方が早かったみたいだね」
「楽しみすぎてつい走っちゃったね」
なおちゃんと2人で笑っていると、かけるくんたちが来るのが見えた。
「えっ……うそ……」
こっちへ向かってくるかけるくんは、なんと私が朝プレゼントしたマフラーを巻いてきてくれた。
なんて幸せなクリスマスだろう。私は嬉し涙を堪えながら明美ちゃんの家への道中でかけるくんの隣を歩いていた。
もしかすると私の恋はもう実っているのかもしれない。そう思うと嬉しい反面、勘違いだったらどうしようという気持ちが生まれた。
今日のクリスマス会はみんなで、そしてこの想いは2月の一大イベントまでもう少し寝かせておこうと思った
