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9話 クリスマス

 あたしは、小春となおの恋を応援するべくクリスマスパーティーを提案したことをものすごく後悔している。親にまで頼み込んで、リビングでクリスマスパーティーが出来るように手を回し、心底どうでもいい司と竜のプレゼントまで用意したのに。

 これは数日前のこと。
「今回の期末試験で、平均点を下回った者は24日から26日の補習に参加すること」
 あたしは関係ないと思って聞き流していた。けど、冷静に思い返せば平均点以下なんて横暴だ。なおが平均点以上取れるわけないのだ。まあそれは予想通りだったけど。
「明美ちゃんごめんなさい! 数学3点足りなかった……」
「あ゛け゛み゛ち゛ゃ゛ん゛~~全教科補習だよ~~」
 小春まで補習なのは予想外だった。
「まあまあ、補習は午前中だけでしょ? 準備は二人抜きでもやっとくし、任せといて!」
 そうは言うけど、小春となおのために提案したのに、二人が揃うまで間を持たせなきゃいけないと考えると憂鬱だ。あたしは男子があまり好きじゃない。小さい頃散々からかわれたし、ガキっぽいし。あいつらはそういうタイプじゃないけど、それはそれでなんかムカつく。特に竜の年不相応な大人びた態度にいちいちイラっとする。そんな自分が子どもっぽいのだろうか。
 男子と数時間一緒にいるのが嫌だからといって、飾りつけも料理も全部一人でやるのは無理だし、家族にはその日は家にいないように言ってあって、都合が悪くなったから頼るのもなんか嫌だった。
(その分こき使ってやるんだから)
 
 そして、仕組まれたかのように状況はさらに嫌なものになった。クリスマス会の三日前、当然大丈夫だと思っていた景くんと煌くんも、欠席していた体育祭の練習や中間試験の穴を埋めるために補習に参加すると言ってきたのだ。翔くんもなおと同じくらいの点数だったらしく、当日は午後から合流ということになった。

――そういうわけで、今あたしは、自分の家に司と竜と三人で気まずい空気のまま準備をしているのだ。
「あ~あ! 今頃小春と一緒にケーキのデコレーションしたり料理したりする予定だったのにな~」
 あたしはどうにもイライラして、二人に聞こえるようにそうぼやいた。
「料理まだなら手伝うよ?」
「そうそう、三人いりゃなんとかなるだろ」
「別に手伝ってほしくて言ったわけじゃないし。下手に仕事増やされたりしても嫌だし、男子は飾りつけでもしててよ」
 あたしの嫌味に対して、何の悪気もなく、むしろ善意あふれる反応を返す二人に余計に苛立って遠ざけようとしたのだが。
「痛っ」
 イライラしながら食材を切っていたが、集中力散漫なせいで、包丁が当たって指を切ってしまった。しかも、思わず声を上げてしまった。一番知られたくない二人の前で。あんなことを言った後なのもあって余計恥ずかしい。
「明美、大丈夫か?」
「大丈夫よ!! もうっ! あんたたちと三人ってだけで調子狂うんだけど!!」
 完全に逆ギレなことはわかっている。司は心から心配そうな顔をしてあたしに声を掛けてくれるし、竜は黙って絆創膏を差し出してくれた。
「橋田さん、料理変わるよ。結構深そうだし、血が止まるまでは動かさない方が良いと思う」
「つーわけでお前は椅子にでも座ってろ! 俺はこっちの飾り終わったら竜を手伝うから」
 あっという間に仕事を奪われた。どうせ男の料理なんて色どりとか栄養とか全く考えてないような大したことないものでしょ。用意してある食材であたしが何を作ろうとしていたのかわからないだろうし、全部使ったとしてもまともな料理が出来るわけがない。出来上がったものを見て文句の一つでも言ってやる。そんな底意地の悪いことを考えていた。
「橋田さん、何つくる予定だったのかな」
「そんなの自分で考えてよ」
 一応聞いてくれたけど、あたしは意地悪して答えなかった。

「あった材料でサラダの盛り合わせとスープとローストチキン風の照り焼きを作ったんだけど」
「俺も盛り付け手伝った!」
「えっ……」
 見た目は完璧。品数は少ないけれど、パーティー用のオードブルさながらの綺麗で華やかなものだった。
「見た目はまあ、いいけど、問題は味だし……」
 認めたら負けだと思い、そんなことを言った。もうあたしにだってわかる。これで味が最悪なわけない。
 あたしが苛立つ理由もなんとなくわかってきた。竜も司もあたしが一方的にライバル視してつっかかてるけど、あたしなんか眼中にないってくらい涼しい顔で何でも出来る。それに、あたしの悪い態度に文句も言わず、優しさで回り込んでくる。向こうが何も悪くないのは十分わかってる。そういうところが、あたしが全部負けてるみたいで気に食わないのだ。
 今はまだ司の幼馴染で、小春やなおの親友で、そのつながりで一緒にいられる。でも、その先は、あたしが素直になって、なにか行動しなければきっと掴めない。そうでなければ、竜があたしと一緒にいる理由なんて全くない。
「ねえ、——」

 言いかけたところでチャイムが鳴った。時計を見ると、もう十二時半だ。
「明美ちゃん! メリークリスマス!!」
 小春はとびっきりの笑顔であたしにそう言った。

 やっぱりあたしはまだ、恋をするよりも友達を大事にしたい。
 その顔を見るとそう思った。
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