6話 体育祭

 運動は苦手で、百メートル走以外は競技の出場予定もなかったので、煌と翔の面倒を見るように頼まれた。といっても、無理をしたり、どこかに行ってしまわないように見張るだけというものだったが。
「直子ちゃんの走りが見たくて、無理言ってリレーだけでも見られるように頼み込んだんだよ」
「樋口、練習頑張ってたからな。結果残せるといいな」
 煌はそう嬉しそうに語る。俺も樋口が毎日練習していたのを遠目から見ていたし、樋口には活躍してほしいと思っていたからそう口にする。
「なおのおかげで二人ともこんなに体育祭に前向きになるとはな……」
 翔が噛みしめるように言ったのに、本当にその通りだと返す。球技大会も樋口が練習に付き合ってくれたから、少しは体を動かすのも楽しかったし、樋口が活躍しているところを見るのも入り込んでいた。
 思えばその時からだっただろうか。俺が樋口を意識し始めたのは。
「直子ちゃんといると元気になれるんだよね」
 少し照れ笑いしながら煌は点滴の跡がある腕を挙げ、拳を作る。
「説得力ねぇーな!」
 そんな煌を見た翔は思わず突っ込む。俺もそう思ったが口には出さなかったのに。
「最近は直子ちゃんになかなか会えなかったから、元気がもらえなかっただけで……」
 煌はそう言い訳する。別にそういうわけではないだろうな。樋口に一緒に帰ろうと声をかけられたにもかかわらず断ったからと煌もそのことで落ち込んでいたように感じたし。
「と、とにかく直子ちゃんが走るの楽しみだよね」
 司も竜も走るのに、二人のことは全然触れずに樋口のことばかり口にする煌は、翔のことを語る浪川のような雰囲気だった。

――煌と樋口が両想いなら俺に入る余地なんてないだろうな……
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