6話 体育祭
体育祭で勝敗に大きく影響する、プログラムの一番最後の色別リレーに三年生を差し置いてアンカーに選ばれた。中学の時は地方大会だけど優勝して、陸上部のエースなんて呼ばれていた私だから、これぐらいじゃないとダメだよねと思いつつ彼の顔が浮かぶ。
私たちの前でしか見せない、彼の笑顔は、男の人ながらも可愛いなって思う癒しの存在。私の力を何倍にも引き出してくれる原動力ともいえるものだ。
(煌くんには絶対いいところを見せるんだ!)
そう思うと勝つために本気の三年生が用意した、当日までのキツイ練習スケジュールも余裕でこなせそうな気になる。朝は七時までに登校して、放課後は学校が閉まるくらいまでずっとやる。当然、昼休みも食事の時間以外はすべて練習。勝つためにそれくらい必死な三年生が、私をアンカーに選んだのだから、一番頑張らなくてはいけない。
授業時間にも練習はある。全体で整列や開閉会式の行進練習をしたり、リレー以外にも出場する学年ごとの種目なんかの練習をしたり。運動部でも結構ハードだなと感じるほどなのに、私と一緒にリレーに出ることになった竜くんはちっともへばる様子はなくて、すごいなと感心する。同じリレーの選手に選ばれた翔くんでも結構疲れているから、中学も今もずっと帰宅部で特に習い事をしたりしているわけじゃないのに体力がかなりあるんだなって思う。
竜くんはいつも一緒にいる五人組の中で一番背が高くて、よく見ると体つきもがっちりしてて、男らしさを感じる。失礼だけど、翔くんも景くんも、私の好きな煌くんだって、ひょろっとしててなんだか男の人って感じがしないから。司くんは体つきとかよりも、話しやすい雰囲気が男の人っていうよりも最初から友だちみたいな感覚で。
意識してなかったけど、竜くんとはやっぱりちょっと緊張して話すときも怯んじゃうかも。竜くん自体も、自分からガンガンしゃべるタイプじゃなくて、どちらかというと一歩引いてて口数が少ないからやっぱり話しかけづらいところはあるかな。
「樋口さん、暗いし送って帰ろうと思うんだけど」
夏場とはいえ、七時を過ぎると段々と日は落ちて辺りは暗くなっている。竜くんは確か弟妹のために部活もしないでまっすぐ家に帰ってるんだっけ。だから、今まで一緒に帰ったことはない。竜くんの家がどこにあるかなんて分からないし、竜くんが大事にしている弟妹とだって一度も会ったことがない。
「竜くんの家ってどの辺? もし電車反対とかだったら悪いし」
竜くんが答えた駅は私の降りる駅から三駅くらいのところかな。方向は一緒だけど、送ってもらうのには竜くんがだいぶ遠回りになってしまう。それに、竜くんは休みの日にはアルバイトもしているみたいだし、余計な電車賃がかかってしまうのは申し訳ない。
「途中まででいいよ! 竜くんと話したいし一緒には帰りたいけど最後まで送ってもらうと遠くなっちゃうから」
そう言って少し遠慮してみる。竜くんはそんなこと気にしなくてもいいのにと笑ったけど、それ以上しつこくは言わない。相変わらず私のことを考えて下手に出てるな。
(優しいんだな……)
そういえば、前に明美ちゃんが傘貸してくれたとか、階段から落ちそうになったところを助けてもらったとか言ってたっけ。そういうこと普通にできるなんてやっぱりすごい。勉強もできるし、運動神経もいいし、調理実習で周りを圧倒させたなんて噂も聞いた。それに性格も良くて、どう見ても完璧。なのにやっぱりなんか人と距離がある感じするし、それがなかったらだいぶモテモテだろうに。
「竜くんって、人と話すのは苦手?」
本当に何の気なしに聞いてしまった。私が喋らないと妙な沈黙ができてしまうから。
「苦手ってわけじゃないんだけど、言葉を選んでたら会話に入れないっていう感じかな?」
言葉を選ぶなんて竜くんらしいなと思う。人をけなすようなことは絶対言わないし、いつだって当たり障りなく答えてるって感じ。竜くんの口から出た言葉は全部選ばれたもの。そんなこと気にせずに普通に思ってことを言ってくれるような関係になりたいなと思った。
「じゃあ、私で練習しよ? このリレーの間だけでいいから、いっぱい話して慣れてみるってのはどうかな?」
「そうだね。このままじゃあまり良くないかなって思うし、樋口さんと話していると楽しいから」
そうやって笑う竜くんはずるい。けど、竜くんはあまり人前で笑ったりとか泣いたりとか全然してくれないから私の前だけで見せてくれた顔なのかなと思ったら嬉しい。竜くんの思いのままを伝えられる、変に意識しないで自然に笑える、私がそんな存在だったら竜くんももっと人生楽しくなるよね。
それから、ちょっと話してから分かれて帰った。
「竜くん、練習行こう」
昼休みも放課後も校庭まで一緒に行く。この少しの間だけでも話ができるのが楽しい。周りからも最近仲が良いって言われるようになった。竜くんもあんな風に話すんだってなんとなく他の人の目も変わってきているような気がして、役に立てているんだってこのときは思った。
他愛のない世間話も、私の趣味の話も楽しそうに聞いてくれる。次は竜くんにこれを話そうって考えると楽しくて、リレーの練習だって前より格段に面白くなった。竜くんが一緒にリレーを走るメンバーで良かったと心の底から思っていた。
私たちの前でしか見せない、彼の笑顔は、男の人ながらも可愛いなって思う癒しの存在。私の力を何倍にも引き出してくれる原動力ともいえるものだ。
(煌くんには絶対いいところを見せるんだ!)
そう思うと勝つために本気の三年生が用意した、当日までのキツイ練習スケジュールも余裕でこなせそうな気になる。朝は七時までに登校して、放課後は学校が閉まるくらいまでずっとやる。当然、昼休みも食事の時間以外はすべて練習。勝つためにそれくらい必死な三年生が、私をアンカーに選んだのだから、一番頑張らなくてはいけない。
授業時間にも練習はある。全体で整列や開閉会式の行進練習をしたり、リレー以外にも出場する学年ごとの種目なんかの練習をしたり。運動部でも結構ハードだなと感じるほどなのに、私と一緒にリレーに出ることになった竜くんはちっともへばる様子はなくて、すごいなと感心する。同じリレーの選手に選ばれた翔くんでも結構疲れているから、中学も今もずっと帰宅部で特に習い事をしたりしているわけじゃないのに体力がかなりあるんだなって思う。
竜くんはいつも一緒にいる五人組の中で一番背が高くて、よく見ると体つきもがっちりしてて、男らしさを感じる。失礼だけど、翔くんも景くんも、私の好きな煌くんだって、ひょろっとしててなんだか男の人って感じがしないから。司くんは体つきとかよりも、話しやすい雰囲気が男の人っていうよりも最初から友だちみたいな感覚で。
意識してなかったけど、竜くんとはやっぱりちょっと緊張して話すときも怯んじゃうかも。竜くん自体も、自分からガンガンしゃべるタイプじゃなくて、どちらかというと一歩引いてて口数が少ないからやっぱり話しかけづらいところはあるかな。
「樋口さん、暗いし送って帰ろうと思うんだけど」
夏場とはいえ、七時を過ぎると段々と日は落ちて辺りは暗くなっている。竜くんは確か弟妹のために部活もしないでまっすぐ家に帰ってるんだっけ。だから、今まで一緒に帰ったことはない。竜くんの家がどこにあるかなんて分からないし、竜くんが大事にしている弟妹とだって一度も会ったことがない。
「竜くんの家ってどの辺? もし電車反対とかだったら悪いし」
竜くんが答えた駅は私の降りる駅から三駅くらいのところかな。方向は一緒だけど、送ってもらうのには竜くんがだいぶ遠回りになってしまう。それに、竜くんは休みの日にはアルバイトもしているみたいだし、余計な電車賃がかかってしまうのは申し訳ない。
「途中まででいいよ! 竜くんと話したいし一緒には帰りたいけど最後まで送ってもらうと遠くなっちゃうから」
そう言って少し遠慮してみる。竜くんはそんなこと気にしなくてもいいのにと笑ったけど、それ以上しつこくは言わない。相変わらず私のことを考えて下手に出てるな。
(優しいんだな……)
そういえば、前に明美ちゃんが傘貸してくれたとか、階段から落ちそうになったところを助けてもらったとか言ってたっけ。そういうこと普通にできるなんてやっぱりすごい。勉強もできるし、運動神経もいいし、調理実習で周りを圧倒させたなんて噂も聞いた。それに性格も良くて、どう見ても完璧。なのにやっぱりなんか人と距離がある感じするし、それがなかったらだいぶモテモテだろうに。
「竜くんって、人と話すのは苦手?」
本当に何の気なしに聞いてしまった。私が喋らないと妙な沈黙ができてしまうから。
「苦手ってわけじゃないんだけど、言葉を選んでたら会話に入れないっていう感じかな?」
言葉を選ぶなんて竜くんらしいなと思う。人をけなすようなことは絶対言わないし、いつだって当たり障りなく答えてるって感じ。竜くんの口から出た言葉は全部選ばれたもの。そんなこと気にせずに普通に思ってことを言ってくれるような関係になりたいなと思った。
「じゃあ、私で練習しよ? このリレーの間だけでいいから、いっぱい話して慣れてみるってのはどうかな?」
「そうだね。このままじゃあまり良くないかなって思うし、樋口さんと話していると楽しいから」
そうやって笑う竜くんはずるい。けど、竜くんはあまり人前で笑ったりとか泣いたりとか全然してくれないから私の前だけで見せてくれた顔なのかなと思ったら嬉しい。竜くんの思いのままを伝えられる、変に意識しないで自然に笑える、私がそんな存在だったら竜くんももっと人生楽しくなるよね。
それから、ちょっと話してから分かれて帰った。
「竜くん、練習行こう」
昼休みも放課後も校庭まで一緒に行く。この少しの間だけでも話ができるのが楽しい。周りからも最近仲が良いって言われるようになった。竜くんもあんな風に話すんだってなんとなく他の人の目も変わってきているような気がして、役に立てているんだってこのときは思った。
他愛のない世間話も、私の趣味の話も楽しそうに聞いてくれる。次は竜くんにこれを話そうって考えると楽しくて、リレーの練習だって前より格段に面白くなった。竜くんが一緒にリレーを走るメンバーで良かったと心の底から思っていた。