4話 試験前後
「私ね、合宿では煌くんと結構お話出来たんだよ~! 県体出れなかったけど怪我したのも悪くはなかったかな、なんて」
「私も! 球技大会でも合宿でもかけるくん、私を助けてくれて」
恋の進展だよねと嬉しそうに会話するなおと小春。あたしはそれを聞きながら楽しそうな2人を眺めていた。
「明美ちゃんは?」
突然こっちに質問が飛んできてびっくりする。あたしは、小春となおの恋は応援しているけれど、自分には好きな人なんていないし、そもそも恋愛にも興味はない。
「まあ、明美ちゃんはこれからだよね~」
なおがそう茶化すのを、どういう意味よと怒りっぽく返す。後にも先にも自分が恋をすることなんてないのに。
「ところで、今日は中間テストと実力テストの結果、一緒に張り出されるんですよね……ドキドキします」
「そう? 私は入る余地すらないから全然気にならないや」
小春の言葉になおは笑いながらそう返す。
「違うよ、明美ちゃんがどうかな~って。私は入らないけど、明美ちゃんすごいから!」
「ちょっと小春、ハードル上げないでよ」
小春は柄にもなく興奮してそう言う。恥ずかしいからやめてよと言いながら、そういえばそんな時期かと考える。正直順位がどうとか成績がどうとかあたしにはどうだっていい。でも、同じ高校に入って、今まで通りいれば、小春も司も喜んでくれるから。高校で新しい友達を作るなんて面倒臭いし、まして恋なんて考えたくもない。そう、これまでと何も変わらず、あたしはあたしのままでいるつもりだ。
小春となおが恋の話で盛り上がっているのを見て、うらやましくないわけでもないけど、相手に縛られるわずらわしさに比べれば、それくらい我慢だってできるし。恋に興味がないというか、元々男にすら興味が湧かないし、男に合わせるとかか弱い女子を演じるとかあたしには向いてない。
悶々とそんなことを考えながら、教室の後ろに貼り出された実力テストの結果を見た。
第2回 実力テスト 成績上位者
合計
1 赤城景 283
2
王子煌 271
3
天田竜 256
4
橋田明美 254
5
岡野司 253
「わっ! 明美ちゃん4位だよ、やっぱりすごいな! ……なおちゃんどうしたの? すごい顔してる」
「け、景くんも煌くんもめっちゃ頭良いじゃん……どうしよう球技大会とか合宿とか普通に話してたけど私多分すっごいバカ丸出しで喋ってたよ……」
「何を今更そんな……新入生代表だったのも景って人でしょ」
なおが青ざめた顔で言うのに呆れつつそう言った。なおに対して呆れているよりも今はなんとなくムカつく理由を探す。司より1点でも上だったのはちょっと嬉しいけど、赤城景も王子煌も天田竜もアイツの友達だから。あたしは全然絡みもないし知ったことじゃないけど。なおの反応も面白いし、結構点数差があるから一位と二位はいいとして。
(天田竜……)
いつも司は友達と一緒にいるけど、全くと言っていいほど覚えていない。全然喋らないし、いるのだって気が付かない。なのに、テストの順位だけこんなに存在感を出されても。
たぶんイライラの原因はこいつの存在だと思ったけど、別に気にしなければそれまでのことで、あたしはどうして心がかき乱されているのか理解できなかった。
「はいはい、見た見た帰るわよ~」
そう言ってあたしは教室に戻って帰る支度をする。天田竜のことが何故か引っかかって、窓の外なんて見る余裕もなくて。小春と直子は部活なのにそれも忘れてたくらいで。
「最悪……今日の予報晴れだったじゃん」
傘を家に忘れてきた。面倒臭いし置き傘も折り畳み傘も持っていない。濡れて帰るのも嫌だし、何より夏服は濡れると下着が透けるから絶対にダメ。雨が止むまで待つしかないか。靴箱で立ち往生していると、後ろに気配を感じ、振り返った。
「橋田さん、よかったらこれ使って」
そう言って傘を差し出してきたのは、今1番会いたくない男だった。あたしのプライドが当然受け取ることを拒んだ。
「は? あんたが使いなさいよ。濡れるでしょ」
「でも……」
あたしが冷たく振り払っても全然引こうとしない。押し付けてくるならまだしも、心配そうな顔をして柔らかくいってくるのが余計に癪に障る。
「じゃあ駅まで一緒に……」
「わかったわよ! 借りてあげるから感謝してよね」
あっさり引き下がるかと思えば、意外としつこい。なんであたしがあんたと相合傘なんてしないといけないわけ? 相合傘をするくらいなら司の方が何倍もまし。でもそれだってあたしは許せない。それなら悔しいけど傘を借りた方が何百万倍もましという結論に至ったのだ。
悪態をつきながら、早くその場から離れたくて小走りで家に帰った。なんであたしが走らなきゃいけないのとか考えるとまたイライラしてきた。
(でも、今頃あいつ濡れてるんだよね)
って何考えてるのよあたしは。別にアイツがどうなっても構わないじゃない。ていうかアイツがあんな態度だからこっちが無駄に罪悪感覚えたりするのよ。次会ったら文句でも言ってやろうと思った。
**
「橋田さんこれ……」
「いいでしょ早く受け取りなさいよ。昨日のことは一応感謝してるし。傘だけ返すのも悪いでしょ」
何故かカップケーキを焼いてしまった。別に市販のものでもよかったし、傘を返すだけで十分なはずなのに。それに、どんな文句を言おうかずっと考えていたというのに、すっかりそれを忘れていた。
「ありがとう。橋田さん」
「別に。あんたもこれで風邪とかひいたら承知しないわよ。あたしのせいみたいで気悪いでしょ」
「うん僕は大丈夫。橋田さんも濡れずに帰れたみたいでよかった」
にっこり。また腹が立つ。あたしはこんなにあんたに心をかき乱されてるのに、いつも通り優しく笑ってて許せない。
「じゃあ、あたし移動教室だから……」
ズルッと濡れた廊下に足を取られて階段を踏み外した。絶対に痛いやつだと思わず目を閉じる。でも、不思議と痛くない。
「あんた……意味分かんない」
天田竜を下敷きにしてあたしは無傷。どうやらケガはないみたいだけど、あたしのために体を張る理由が分からない。あたしの気を引きたいの? それとも何? あたしに貸しでも作って何か命令とかしてくるつもり?
「何が目的なの?」
「えっ?」
「何のためにあたしに優しくするの? あんたが損するだけじゃない」
「人を助けるのに理由なんて考えたことないかな」
あたしの質問にそうとしか答えない。そんなのいくらなんでもおかしいでしょ。
けど、昔あたしが友達とかできなくて敬遠されてたとき、なんであたしに構うのって司に聞いたら、司はこういった。
「おまえをたすけたいのにりゆうなんてないよ」
恥じらいながらもそんなことを言ったのを思い出す。だから、竜も司みたいにどうしようもないバカなんだって。そう気づいてしまった。
「私も! 球技大会でも合宿でもかけるくん、私を助けてくれて」
恋の進展だよねと嬉しそうに会話するなおと小春。あたしはそれを聞きながら楽しそうな2人を眺めていた。
「明美ちゃんは?」
突然こっちに質問が飛んできてびっくりする。あたしは、小春となおの恋は応援しているけれど、自分には好きな人なんていないし、そもそも恋愛にも興味はない。
「まあ、明美ちゃんはこれからだよね~」
なおがそう茶化すのを、どういう意味よと怒りっぽく返す。後にも先にも自分が恋をすることなんてないのに。
「ところで、今日は中間テストと実力テストの結果、一緒に張り出されるんですよね……ドキドキします」
「そう? 私は入る余地すらないから全然気にならないや」
小春の言葉になおは笑いながらそう返す。
「違うよ、明美ちゃんがどうかな~って。私は入らないけど、明美ちゃんすごいから!」
「ちょっと小春、ハードル上げないでよ」
小春は柄にもなく興奮してそう言う。恥ずかしいからやめてよと言いながら、そういえばそんな時期かと考える。正直順位がどうとか成績がどうとかあたしにはどうだっていい。でも、同じ高校に入って、今まで通りいれば、小春も司も喜んでくれるから。高校で新しい友達を作るなんて面倒臭いし、まして恋なんて考えたくもない。そう、これまでと何も変わらず、あたしはあたしのままでいるつもりだ。
小春となおが恋の話で盛り上がっているのを見て、うらやましくないわけでもないけど、相手に縛られるわずらわしさに比べれば、それくらい我慢だってできるし。恋に興味がないというか、元々男にすら興味が湧かないし、男に合わせるとかか弱い女子を演じるとかあたしには向いてない。
悶々とそんなことを考えながら、教室の後ろに貼り出された実力テストの結果を見た。
第2回 実力テスト 成績上位者
合計
1 赤城景 283
2
王子煌 271
3
天田竜 256
4
橋田明美 254
5
岡野司 253
「わっ! 明美ちゃん4位だよ、やっぱりすごいな! ……なおちゃんどうしたの? すごい顔してる」
「け、景くんも煌くんもめっちゃ頭良いじゃん……どうしよう球技大会とか合宿とか普通に話してたけど私多分すっごいバカ丸出しで喋ってたよ……」
「何を今更そんな……新入生代表だったのも景って人でしょ」
なおが青ざめた顔で言うのに呆れつつそう言った。なおに対して呆れているよりも今はなんとなくムカつく理由を探す。司より1点でも上だったのはちょっと嬉しいけど、赤城景も王子煌も天田竜もアイツの友達だから。あたしは全然絡みもないし知ったことじゃないけど。なおの反応も面白いし、結構点数差があるから一位と二位はいいとして。
(天田竜……)
いつも司は友達と一緒にいるけど、全くと言っていいほど覚えていない。全然喋らないし、いるのだって気が付かない。なのに、テストの順位だけこんなに存在感を出されても。
たぶんイライラの原因はこいつの存在だと思ったけど、別に気にしなければそれまでのことで、あたしはどうして心がかき乱されているのか理解できなかった。
「はいはい、見た見た帰るわよ~」
そう言ってあたしは教室に戻って帰る支度をする。天田竜のことが何故か引っかかって、窓の外なんて見る余裕もなくて。小春と直子は部活なのにそれも忘れてたくらいで。
「最悪……今日の予報晴れだったじゃん」
傘を家に忘れてきた。面倒臭いし置き傘も折り畳み傘も持っていない。濡れて帰るのも嫌だし、何より夏服は濡れると下着が透けるから絶対にダメ。雨が止むまで待つしかないか。靴箱で立ち往生していると、後ろに気配を感じ、振り返った。
「橋田さん、よかったらこれ使って」
そう言って傘を差し出してきたのは、今1番会いたくない男だった。あたしのプライドが当然受け取ることを拒んだ。
「は? あんたが使いなさいよ。濡れるでしょ」
「でも……」
あたしが冷たく振り払っても全然引こうとしない。押し付けてくるならまだしも、心配そうな顔をして柔らかくいってくるのが余計に癪に障る。
「じゃあ駅まで一緒に……」
「わかったわよ! 借りてあげるから感謝してよね」
あっさり引き下がるかと思えば、意外としつこい。なんであたしがあんたと相合傘なんてしないといけないわけ? 相合傘をするくらいなら司の方が何倍もまし。でもそれだってあたしは許せない。それなら悔しいけど傘を借りた方が何百万倍もましという結論に至ったのだ。
悪態をつきながら、早くその場から離れたくて小走りで家に帰った。なんであたしが走らなきゃいけないのとか考えるとまたイライラしてきた。
(でも、今頃あいつ濡れてるんだよね)
って何考えてるのよあたしは。別にアイツがどうなっても構わないじゃない。ていうかアイツがあんな態度だからこっちが無駄に罪悪感覚えたりするのよ。次会ったら文句でも言ってやろうと思った。
**
「橋田さんこれ……」
「いいでしょ早く受け取りなさいよ。昨日のことは一応感謝してるし。傘だけ返すのも悪いでしょ」
何故かカップケーキを焼いてしまった。別に市販のものでもよかったし、傘を返すだけで十分なはずなのに。それに、どんな文句を言おうかずっと考えていたというのに、すっかりそれを忘れていた。
「ありがとう。橋田さん」
「別に。あんたもこれで風邪とかひいたら承知しないわよ。あたしのせいみたいで気悪いでしょ」
「うん僕は大丈夫。橋田さんも濡れずに帰れたみたいでよかった」
にっこり。また腹が立つ。あたしはこんなにあんたに心をかき乱されてるのに、いつも通り優しく笑ってて許せない。
「じゃあ、あたし移動教室だから……」
ズルッと濡れた廊下に足を取られて階段を踏み外した。絶対に痛いやつだと思わず目を閉じる。でも、不思議と痛くない。
「あんた……意味分かんない」
天田竜を下敷きにしてあたしは無傷。どうやらケガはないみたいだけど、あたしのために体を張る理由が分からない。あたしの気を引きたいの? それとも何? あたしに貸しでも作って何か命令とかしてくるつもり?
「何が目的なの?」
「えっ?」
「何のためにあたしに優しくするの? あんたが損するだけじゃない」
「人を助けるのに理由なんて考えたことないかな」
あたしの質問にそうとしか答えない。そんなのいくらなんでもおかしいでしょ。
けど、昔あたしが友達とかできなくて敬遠されてたとき、なんであたしに構うのって司に聞いたら、司はこういった。
「おまえをたすけたいのにりゆうなんてないよ」
恥じらいながらもそんなことを言ったのを思い出す。だから、竜も司みたいにどうしようもないバカなんだって。そう気づいてしまった。
