プロローグ
皆が参考書やまとめのノートを見ながら最後の追い込みをしている最中、小春一人だけが何も手付かず、焦燥と絶望の感情で支配されて立ち尽くしていた。泣いている小春に対して、周囲は気づいていながらも、自分のことに手一杯で関わろうとはしなかった。
「おい、どうしたんだ?」
誰も小春のことを気にも留めないその場所で、唯一声を掛けた男がいた。
「何でもないです……」
聞こえるかわからないくらい小さな声で小春はごまかした。自分なんて放っておいてすぐにでも勉強に戻った方がきっとその人のためになると思ったからだ。
「何でもないって……泣くほどなのにか? オレで良かったら話ぐらい聞くけど」
小春は驚いた。そして、こんなことで泣くなんてきっと笑われてしまうと思った。その人が現れてから、少し冷静さを取り戻した小春は、なんでそんな簡単なことにも気が付かなかったのかと思い知らされた。
「ごめんなさい。一人で探します」
俯いて、その人の顔も見ずに、この会話から逃げようとした。
「何探せばいいの? わかんないけど、一人より二人の方がいいだろ?」
しかし、小春が断ったところで、その人には引く気はなかった。
「受験票……です」
きっと呆れて、バカにされるだろうと思ったが、その人の表情は小春の思っていたものと少し違っていた。確かに笑っていた、けれど苦笑や嘲笑ではなく、ただ嬉しそうに。
「話してくれてありがとう! じゃあ、オレはあっちの方探してくるわ!」
私の名前も聞かずにその人は走っていった。
「どうして……」
こんなことは初めてで、小春はびっくりした。自分の受験票を探すことなんて、その人にとって何のメリットもないこと。それでも、その真っ直ぐなその目が、優しい笑顔が、何の裏も感じないただ心から小春のためにしてくれようとしていることを語っていた。
「浪川小春?」
ふと呼ばれた名前に、小春は振り返って返事をした。
「ごめん、名前聞いてなくて合ってるかわかんなかったんだけど、良かった」
荒い息遣いと、汗ばんだ顔と、自分のことのように嬉しそうな笑顔。走ってまで来てくれたのかと小春はただただ驚くばかりだった。
「見つかって良かったな! じゃあ、お互い頑張ろうぜ!」
そう言ってその人は自分の荷物のある所に戻っていった。
太陽のような眩しさと、そよ風のような優しさと、嵐のような豪快さ、それが去った後の静けさが目まぐるしく翔け抜け、小春の心を確かにつかんでいた。
入学試験が終わってから、廊下でその人の目を追っていった小春は大きな情報を得た。傍から見れば、小さいことかもしれない、けれどそのときの小春は全てを手に入れたくらい嬉しく思った。
『かけるくん』
確かにその人によく似合う名前だと小春は微笑んだ。
受験票をなくして困って泣いていたことなんて、その出会いのための布石に過ぎなかったのだと思えるほどに、『かけるくん』のことを好きになっていたのだ。
「おい、どうしたんだ?」
誰も小春のことを気にも留めないその場所で、唯一声を掛けた男がいた。
「何でもないです……」
聞こえるかわからないくらい小さな声で小春はごまかした。自分なんて放っておいてすぐにでも勉強に戻った方がきっとその人のためになると思ったからだ。
「何でもないって……泣くほどなのにか? オレで良かったら話ぐらい聞くけど」
小春は驚いた。そして、こんなことで泣くなんてきっと笑われてしまうと思った。その人が現れてから、少し冷静さを取り戻した小春は、なんでそんな簡単なことにも気が付かなかったのかと思い知らされた。
「ごめんなさい。一人で探します」
俯いて、その人の顔も見ずに、この会話から逃げようとした。
「何探せばいいの? わかんないけど、一人より二人の方がいいだろ?」
しかし、小春が断ったところで、その人には引く気はなかった。
「受験票……です」
きっと呆れて、バカにされるだろうと思ったが、その人の表情は小春の思っていたものと少し違っていた。確かに笑っていた、けれど苦笑や嘲笑ではなく、ただ嬉しそうに。
「話してくれてありがとう! じゃあ、オレはあっちの方探してくるわ!」
私の名前も聞かずにその人は走っていった。
「どうして……」
こんなことは初めてで、小春はびっくりした。自分の受験票を探すことなんて、その人にとって何のメリットもないこと。それでも、その真っ直ぐなその目が、優しい笑顔が、何の裏も感じないただ心から小春のためにしてくれようとしていることを語っていた。
「浪川小春?」
ふと呼ばれた名前に、小春は振り返って返事をした。
「ごめん、名前聞いてなくて合ってるかわかんなかったんだけど、良かった」
荒い息遣いと、汗ばんだ顔と、自分のことのように嬉しそうな笑顔。走ってまで来てくれたのかと小春はただただ驚くばかりだった。
「見つかって良かったな! じゃあ、お互い頑張ろうぜ!」
そう言ってその人は自分の荷物のある所に戻っていった。
太陽のような眩しさと、そよ風のような優しさと、嵐のような豪快さ、それが去った後の静けさが目まぐるしく翔け抜け、小春の心を確かにつかんでいた。
入学試験が終わってから、廊下でその人の目を追っていった小春は大きな情報を得た。傍から見れば、小さいことかもしれない、けれどそのときの小春は全てを手に入れたくらい嬉しく思った。
『かけるくん』
確かにその人によく似合う名前だと小春は微笑んだ。
受験票をなくして困って泣いていたことなんて、その出会いのための布石に過ぎなかったのだと思えるほどに、『かけるくん』のことを好きになっていたのだ。
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