☆2065 X'mas パラレルなよりみちのおはなし

乗ったタクシーの中で、行き先を告げてすぐに眠ってしまったようだ。

ただ、そのあと俺はどこで降りたのだろう?
いつのまにか、知らない街を歩いている。

サンタの衣装を身に付けた店員が、クリスマスケーキを叩き売りしているコンビニを通り過ぎ、その数十メートル先で足を止めた。

踏み込もうとしている邸宅街は、明らかに知らないエリアで、このまま歩いたとて自宅にたどり着ける訳がないと悟ったからだ。

位置情報を確かめようとスマホを取り出すと、こんなひと気のある場所で何故か圏外表示になっている。
いやまさか………と、グレイアウトしたアンテナマークを睨みながらあちこち移動してみるが、8Gはおろか7Gさえ拾わない………こんなことが今どきあるのか?
もしくは通信障害が発生してるとか?


携帯画面を凝視していた俺の視線がふと、別のものを追いかける。

手前の道から早足で現れた男の子の姿だ。
この子とは、さっきコンビニの辺りですれ違った記憶があったから。

こんな夜に、年端のいかない少年がホールケーキの箱を手に一人歩き。
おまけに整った綺麗な顔には緊張感を漂わせて。

本能的に俺の足も速まる。

さっき向こうで反対方面にすれ違った子どもが、俺の進行方向からまたこっちへ来る。ということは、帰途から外れている可能性が高く、早足になっている原因はおそらく―――

「ウッ……」
「おっと、すみません」

俺とぶつかった相手は少年に手を伸ばしたままよろめき、視線だけまだ“狙った獲物”を逃がすまいと貪欲にさまよわせている。

「警察の者です」

俺は背広の胸ポケットに手を入れながら、男に話しかけた。

「この辺りで子どもを狙う不審者の情報が入ってまして、何かご存じのことあれば、お伺いできますかね?」
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