2066 X'mas ティータイムのあとは

ホテルを出ると、5時半を過ぎたばかりなのにもうまっ暗だ。

辺りはカップルだらけで、アプローチのイルミをバックに楽しげに語らいながら寄り添い合い、スマホをかざしたりする甘い光景で埋めつくされている。

その空気に気後れするどころか気にも止めない薪は、腕組みしながら合間を縫って歩いていく。


「薪さん」

まるで一人でどこかへ消えていってしまいそうな背中を、青木が自分の首に巻きかけたマフラーを外しながら追う。

「もういい。お前は帰るだろ?」

「ええ、でもそんなに急がなくても」

退けようとする腕を優しく制して、大きなマフラーが鼻先まで薪の首元をくるりと包む。

「おい、止せって」

眉をひそめて振り返る薪の身体を抱えるように、青木はツリーのイルミネーションの影に押し込んだ。

「これ、見てください。せっかくティールームで貰ったので、記念写真撮りましょう。はいチーズっ♪」

青木から渡されたのは、クリスマス特典の木製オーナメント兼コースター。イルミの中でそれを手にして青木とスマホのカメラをぼんやり見あげながら、薪はふと自分のミッションを思い出す。
そうだ、渡したいものなら、自分もコートの中に潜ませている。

いや、その前に、キスを……とか考えてるうちに、唇が熱いぬくもりに奪われる。
同じ紅茶の渋みと微かに混じるピスタチオとバニラカスタードの甘い余韻が、口内で初々しく溶け合う。まだ二人の夜は始まったばかりだと云わんばかりに。


「そうだ、青木。これ」

腕時計で空港行き電車の時間を調べている青木の背中に、薪がおもむろに紙の手提げ袋をつきつける。

「えっ、俺にですか?」

「違う、舞のだ」

向き直った青木にプレゼントを突きつけたまま、薪はニコリともせず答えた。

「僕はお前のサンタじゃない。お前が僕のサンタなんだろ?」

「ええ、そうです」

青木は眉尻を下げ、思い切り愛しげに微笑む。

「そしてあなたも……舞のサンタになってくれるってことですよね?」

青木はプレゼントをもった薪の手を両手で包んで、優しく胸元に押し返した。

「なら、ご自分で渡してください、その方が舞も喜びますし」

「え?」

一旦ほどかれた手に頼りなく小さな紙袋を提げたまま、訳がわからない様子で佇む薪に、青木が屈託なく笑いかける。

「薪さん、明日は土曜日ですよ」

「そう……だけど、お前は福岡に……」

「ええ、帰りますよ、あなたと一緒に」

「なっ……!?」

「俺がいつ一人で帰るといいました?あなたの席、普通に俺の隣にありますんで」

僕が?福岡で?クリスマス??
予想もしなかった展開に固まる薪の空いた方の手を、大きな手が包んだままコートのポケットの中にすっぽりと収める。

「さあ行きましょう、遅れたら一大事ですよ」

キリッとした仕事人サンタの顔で青木が云い、くるりと駅の方を向いて勇んで足を踏み出した。

真冬の街を歩き出す薪は巻かれたマフラーと青木のポケットの中のぬくもりで結ばれた掌のせいか、妙に温かだ。

そうして特別な夜は、まだまだ続いていくらしい。

想いあう相手がいる限り、きりがない。
何度季節が巡ったって。
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