☆2065 X'mas パラレルなよりみちのおはなし

年末の室長会は、前例のない福岡での開催になった。
それはポノトフ外相の一件から職場復帰してまだふた月と経たない俺を気遣っての、第九メンバーの優しい取り計らいだった。

その日の夕方、現場から戻った俺が第八管区の事務所に足を踏み入れると、MRIメインモニターの前に、懐かしい顔ぶれが集まっている。
この空気感はいつも俺に、憧れと初心を呼び覚ます―――

「皆さん、福岡にようこそいらっしゃいました!」

「おお、青木。久しぶりだな」
「怪我はもう大丈夫なのか?」

俺の声に、談笑の輪がほどけて、なごやかな笑顔が次々にこっちへ向けられる。

「ええ、ご心配かけてすみません。そうだ、待っててくださいね」

俺はロッカールームへと駆け込み、大きな紙袋を両手に提げてすぐに戻ってくる。

「皆さんにはこれを……」

「えっ、快気祝?そんな気を遣うなよ」

それは母が用意したものだった。
俺自身、年の割に古くさいとよく言われるし、慣習と言われればそれまでだが、込められた思いは大切にしたいと思う。

「却って申し訳ないな。そういえば青木、お返しと言ってはなんだが……これ持ってけよ」

「え、ありがとうございます」

小池さんが差し出した紙袋を、俺は何の気なしに受け取った。

「……何ですか、これ……」

小さな袋を覗いた俺は“中にあった物”と“岡部さん”の顔を、思わず見比べてしまう。
その瞬間、反応を見守っていた皆が一斉に噴き出したのだった。

「愛知県警と動物園のコラボマスコット“三代目イケメンゴリラ・ジャパーニ警部”だ。やっぱ“誰か”に似てるだろ?」

「ええ、まあ、ジャパーニさんを見た時、他人と思えなかったのは、やはりそういうことですかね?」

俺はゴリラの円らな瞳を見返しながら大真面目に答える。

「だと思う。で、メンバーの中で子持ちはお前だけだから、舞ちゃんにプレゼントってことでどうかな?」

「ええと、これはちょっと舞というより………俺にとってすごく親しみがわきますし、岡部さんさえ良ければ俺の部屋に飾らせてもらってもいいですかね?」

「おい、俺の許可は要らんだろ」

憮然とした岡部さんの返しに、また皆が笑った。

“ジャパーニ警部”は、よほど皆のツボだったらしい。
ほんとよく似てるよな、鈴木さんと青木並みに……なんて声がまだ聞こえる中、正面のドアが勢いよく開く。

「何だ“鈴木”がどうしたって?」

相変わらずの地獄耳も愛おしい………薪所長の登場だ。
“青木”は聞こえなかったんですか?という突っ込みはさておき、久しぶりのオフラインでの再会に胸をときめかせて俺は振り返る。

そこには、驚きに見開いた目でこっちを凝視して佇む薪さんの姿があった。

「一行……」

「………は、はいっ?」

名前呼び………された?俺が、薪さんに?

心臓が飛び出しそうに跳ねている俺の視線が捉えた薪さんの大きな瞳は………俺というより、その手に収まる“イケメンゴリラのぬいぐるみ”に釘付けになっているようにみえて。

だったらなぜ“靖文”ではなく“一行”なのか?という疑問をフツーに感じてしまった俺はやはり、無自覚に失礼な後輩に違いなかった。
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