Classic love cruise
リビングの明かりを落とし、重なるふたつの影が静かに奥の寝室へと消える。
押入れと廊下によって生活音が遮断された静寂のなか。衣擦れと湿った息遣い……艶めかしいリップ音が室内に降り積もっていく。
高窓から差し込む青白い月光が、間接照明のように、薪の肌をぼんやりと浮かび上がらせるのが、狂おしいほど美しくて。
「薪さん……今日はどこまで行っていいですか?」
温泉効果でいつにもまして滑らかな薪の肌。唇と指先で貪りながら前のめりに尋ねる青木の吐息と眼差しの熱が、もうすでに薪のナカを疼かせて、戻れなくさせている。
「……は………ぁっ」
感覚が極限まで研ぎ澄まされ、青木の愛撫だけが自分の心と身体を支配していく熱気の中で、ふと、薪の唇がひと筋の言葉を紡いだ。
ワタシノヨウニ、ナラナクテヨカッタ……と。
「……え?」
青木が動きを止める。薪は弾む息で熱を逃がしながら、青木の肩越しに暗闇の天井を見つめている。
「母上が……そう言ったんだ。雪子さんのことを」
青木は何も言わず、静かに薪の膝を押し開いて、自身の猛った熱の塊をゆっくりと潜り込ませてくる。
「っ……おい、っま……て、っ、あっ……」
唐突で容赦のない侵入に戸惑いながらも、すっかり蕩けた薪の身体は素直にそれを受け入れて絡みつき、込み上げる甘い嬌声を必死で噛み殺す。
「母の症状が良くない時に……」
繋げた身体を動かしながら、青木は薪の顔の横に手をつき、低く掠れた声を落とした。
「俺、母から『昂介さん』と……呼ばれました」
「……えっ」
「後で知りました。それは、母さんの……高校時代の恋人で……事故で死に別れた人の名前だと」
薪は言葉を失った。
不意に明かされた衝撃の事実と、奥深く穿たれる肉体的快楽。その両方に感覚を揺さぶられ、脳裏が痺れ思考が霞む。
「俺に……人の秘密に干渉する権利はありません。たとえ家族であろうと」
青木の強い眼差しが、暗がりの中で切なく揺れていた。
「ただ……俺自身にはそんなものないから、あなたは悲しい顔をしないでほしい」
切実なその言葉が意味するものを、薪は瞬時に理解する。
そうだ。自分にもまた、かつてこの男を別の名で呼び間違えた過去がある。
この手で殺めてしまった大切な人のこと。
死んだように息だけして、途絶える時を今か今かと待っていた日々の中でいつしか、この男を“欲しい”と思ってしまった。
それも随分早くから。欲しくて、仕方なくて。
募る思いに耐えかねて、面影を追いかけながら愚かな行為に身を沈めたことさえある――
「っ、薪さん……?」
急に灯った柔らかい橙色の明かりに、青木が驚いて目を細める。
薪が手探りで行灯風のフロアライトを点けたのだ。
「……顔を、見せてくれ」
今、自分を内側から熱くするのは、間違いなく青木そのものだ。
情熱と快楽と独占欲を滲ませた「雄の顔」を視界に焼き付けながら、薪は自身を貫く圧倒的な歓喜を心身のすべてで噛み締めた。
「僕にも……お前を悲しませるような秘密は、もう無い」
あるとすれば、雪子さんとの幸せを望みながらも本心はずっと……お前と、こうなりたいと思っていたこと。だがそれも、この脳を抉り出して誰に見られようとわからない“目隠し”の闇に葬られている。
「あっ……、もっと……っ」
言わない。絶対に口には出さない。
けれど、薪は自分の背中に回った青木の大きな腕に熱い身体を委ねながら、その真っすぐな眼差しを正面から見つめ返した。
乗りこなすには手がかかるけれど、大切な形見のクラシックカー。
そのハンドルを握らせるのは、この男しかいない。
そして、その隣に座るのは……自分しかいない、と信じている。
「覚えておけ。……僕をこんなふうにさせるのは……お前だけだ」
「はい。それなら、もう離れることなんて、考えないでくださいね」
頷いて、ほどかれて、結ばれる甘い夜。
体内に刻まれる青木の情欲を全身で受け止めながら、薪は二度と解けない絆の中へと、深く身を沈めていくのだった。
押入れと廊下によって生活音が遮断された静寂のなか。衣擦れと湿った息遣い……艶めかしいリップ音が室内に降り積もっていく。
高窓から差し込む青白い月光が、間接照明のように、薪の肌をぼんやりと浮かび上がらせるのが、狂おしいほど美しくて。
「薪さん……今日はどこまで行っていいですか?」
温泉効果でいつにもまして滑らかな薪の肌。唇と指先で貪りながら前のめりに尋ねる青木の吐息と眼差しの熱が、もうすでに薪のナカを疼かせて、戻れなくさせている。
「……は………ぁっ」
感覚が極限まで研ぎ澄まされ、青木の愛撫だけが自分の心と身体を支配していく熱気の中で、ふと、薪の唇がひと筋の言葉を紡いだ。
ワタシノヨウニ、ナラナクテヨカッタ……と。
「……え?」
青木が動きを止める。薪は弾む息で熱を逃がしながら、青木の肩越しに暗闇の天井を見つめている。
「母上が……そう言ったんだ。雪子さんのことを」
青木は何も言わず、静かに薪の膝を押し開いて、自身の猛った熱の塊をゆっくりと潜り込ませてくる。
「っ……おい、っま……て、っ、あっ……」
唐突で容赦のない侵入に戸惑いながらも、すっかり蕩けた薪の身体は素直にそれを受け入れて絡みつき、込み上げる甘い嬌声を必死で噛み殺す。
「母の症状が良くない時に……」
繋げた身体を動かしながら、青木は薪の顔の横に手をつき、低く掠れた声を落とした。
「俺、母から『昂介さん』と……呼ばれました」
「……えっ」
「後で知りました。それは、母さんの……高校時代の恋人で……事故で死に別れた人の名前だと」
薪は言葉を失った。
不意に明かされた衝撃の事実と、奥深く穿たれる肉体的快楽。その両方に感覚を揺さぶられ、脳裏が痺れ思考が霞む。
「俺に……人の秘密に干渉する権利はありません。たとえ家族であろうと」
青木の強い眼差しが、暗がりの中で切なく揺れていた。
「ただ……俺自身にはそんなものないから、あなたは悲しい顔をしないでほしい」
切実なその言葉が意味するものを、薪は瞬時に理解する。
そうだ。自分にもまた、かつてこの男を別の名で呼び間違えた過去がある。
この手で殺めてしまった大切な人のこと。
死んだように息だけして、途絶える時を今か今かと待っていた日々の中でいつしか、この男を“欲しい”と思ってしまった。
それも随分早くから。欲しくて、仕方なくて。
募る思いに耐えかねて、面影を追いかけながら愚かな行為に身を沈めたことさえある――
「っ、薪さん……?」
急に灯った柔らかい橙色の明かりに、青木が驚いて目を細める。
薪が手探りで行灯風のフロアライトを点けたのだ。
「……顔を、見せてくれ」
今、自分を内側から熱くするのは、間違いなく青木そのものだ。
情熱と快楽と独占欲を滲ませた「雄の顔」を視界に焼き付けながら、薪は自身を貫く圧倒的な歓喜を心身のすべてで噛み締めた。
「僕にも……お前を悲しませるような秘密は、もう無い」
あるとすれば、雪子さんとの幸せを望みながらも本心はずっと……お前と、こうなりたいと思っていたこと。だがそれも、この脳を抉り出して誰に見られようとわからない“目隠し”の闇に葬られている。
「あっ……、もっと……っ」
言わない。絶対に口には出さない。
けれど、薪は自分の背中に回った青木の大きな腕に熱い身体を委ねながら、その真っすぐな眼差しを正面から見つめ返した。
乗りこなすには手がかかるけれど、大切な形見のクラシックカー。
そのハンドルを握らせるのは、この男しかいない。
そして、その隣に座るのは……自分しかいない、と信じている。
「覚えておけ。……僕をこんなふうにさせるのは……お前だけだ」
「はい。それなら、もう離れることなんて、考えないでくださいね」
頷いて、ほどかれて、結ばれる甘い夜。
体内に刻まれる青木の情欲を全身で受け止めながら、薪は二度と解けない絆の中へと、深く身を沈めていくのだった。