Remo♡Con♡Love
木曜の深夜。
福岡の実家、自室のベッドに腰を下ろした青木は一人「ダメ元」のルーティンを繰り返していた。
「今日も音声に切り替えられるか、無視されるかだよな」と半ば諦め混じりの予想をしつつも、最愛の人への「ビデオ通話」のコールを指が勝手に進めてしまうのだ。
ところが、今夜に限って奇跡が起きた。
数回目のコールの後、画面がふっと明るくなったのだ。
「……っ!?」
映し出されたのは、天井や壁じゃない。
ベッドに半身をもたせ掛け、手元に飲みかけのワイングラスを持った薪剛の、とろんと微睡んだ顔だった。
(え、これってもしや、ゆ……ユメなのか??)
「……おい、なぜ自分の頬をつねっているんだ。阿呆面が過ぎるぞ」
「え、だって、薪さんが……マキさんがっっ……!」
歓喜に声を震わせる青木だったが、即座にその観察眼が薪の状態を精緻に捉えていく。乱れた髪、熱を帯びた頬、そして綺麗な指が支えるワイングラス――
「フン、お前がしつこいからだろ」
「薪さん、酔ってます? しかもベッドで寝酒なんて行儀悪いですよ。第一、そんなに赤くなるまで飲むなんて、体調管理はどうなってるんですか。明日も仕事だってのに……」
次々口から突いて出るのは、愛娘を案じる父親のような小言だ。だが、その声はどこまでも優しく、深い慈愛に満ちている。
薪はそれが嫌いじゃなかった。むしろ、自分を無条件に世話して保護しようとするその熱意に、酔った頭を委ねるのが心地よかった。
「……うるさいな。いいだろう、たまには」
空になったグラスをサイドテーブルに置いた薪が、スマホを持ったまま寝返りを打つ。その拍子にカメラの視界がガクンと下に移り、あろうことかそのレンズが、大きくはだけた寝間着の隙間から、白い鎖骨のラインと、滑らかでなだらかな胸板の起伏を鮮明に映し出したのだ。
青木は瞬時に「パパ」から「男」の目つきになり、音の出ないスクショを連打した。指が勝手に動く。もはやこれは防犯カメラの記録に近い、本能的な保存行為だった。
「薪さん……そんな姿、俺以外に見せちゃダメですからね。……ああもう、今すぐそこに行って、布団に潜ってめちゃくちゃに触れたいです」
切実に訴える青木の熱を帯びた表情を、薪は潤んだ目でじっと見つめている。
「……お前は、遠くにいるくせに」
薪が覚束ない手つきで、スマホを自分の顔へと引き寄せた。そして、手の内のディスプレイに映る「青木の唇」を目掛けて落としたのは、吸い付くようなキス。
スピーカーが拾う「チュッ」という生々しい吸着音。近づいた薪の顔で、レンズの視界が真っ暗に塞がれたのだ。
数秒の沈黙の後。
スマホを離した薪は、画面越しの青木の「凍りついた真っ赤な顔」を見ながら、自分が何をしたのか、じわじわと理解し始めた。
「……あ」
顔を真っ赤にし、自分の口元を両手で覆って絶句する薪。その破壊的な可愛らしさが炸裂し、画面の向こうで青木が、いきなり決壊した。
「――っっっっっぶぁっ!!??」
青木は声にならない絶叫とともに自分のベッドに崩れ落ちた。心臓が肋骨を突き破らんばかりに暴れ、全身の血が沸騰する。今の角度、今の、あの、吸い付くような濡れた音は。
青木はベッドの上でのたうち回り、枕に顔を埋めて、もはや言葉にならない獣のような呻き声を漏らす。
「ぐぉおお……今の、今の、保存……じゃなくて、もう一回……いや、ダメだ、心臓が持たない……! 薪さん、責任取ってください!!」
悶絶しながら画面を覗き込むと、そこには恥ずかしさの極致に達し、涙目で震えている薪が映っている。
「薪さん、もう許しませんよ。明日、仕事が終わったらそのままそっちに飛びます。いいですね?」
「……来るな。……待って、いる」
もはや拒絶なのか歓迎なのかも分からない、薪の支離滅裂な囁き。それとともにブツリと一方的に通話が切られた。
青木は真っ暗になったスマホを握りしめたまま、すぐさま予約アプリを起動し、最速の航空券を確保した。
さっきのキスの残響が、鼓膜の奥でリフレインし続けている。
ピクセル越しに眺めるだけの我慢は、もう限界だ。
今すぐあの人の身体を、その熱を、この腕に閉じ込めたくてたまらない。
あと十数時間。
明日の業務を最速で叩き斬り、夜の空港へ駆け込むまでの時間を思うと、それだけで全身の血が燃え上がるようだった。
翌朝、まだ陽の昇る前から第八管区に出勤し、殺気立つほどの集中力で捜査画面に向かっている室長の姿が、出勤してきた部下たちをギョッとさせたのは言うまでもない。
福岡の実家、自室のベッドに腰を下ろした青木は一人「ダメ元」のルーティンを繰り返していた。
「今日も音声に切り替えられるか、無視されるかだよな」と半ば諦め混じりの予想をしつつも、最愛の人への「ビデオ通話」のコールを指が勝手に進めてしまうのだ。
ところが、今夜に限って奇跡が起きた。
数回目のコールの後、画面がふっと明るくなったのだ。
「……っ!?」
映し出されたのは、天井や壁じゃない。
ベッドに半身をもたせ掛け、手元に飲みかけのワイングラスを持った薪剛の、とろんと微睡んだ顔だった。
(え、これってもしや、ゆ……ユメなのか??)
「……おい、なぜ自分の頬をつねっているんだ。阿呆面が過ぎるぞ」
「え、だって、薪さんが……マキさんがっっ……!」
歓喜に声を震わせる青木だったが、即座にその観察眼が薪の状態を精緻に捉えていく。乱れた髪、熱を帯びた頬、そして綺麗な指が支えるワイングラス――
「フン、お前がしつこいからだろ」
「薪さん、酔ってます? しかもベッドで寝酒なんて行儀悪いですよ。第一、そんなに赤くなるまで飲むなんて、体調管理はどうなってるんですか。明日も仕事だってのに……」
次々口から突いて出るのは、愛娘を案じる父親のような小言だ。だが、その声はどこまでも優しく、深い慈愛に満ちている。
薪はそれが嫌いじゃなかった。むしろ、自分を無条件に世話して保護しようとするその熱意に、酔った頭を委ねるのが心地よかった。
「……うるさいな。いいだろう、たまには」
空になったグラスをサイドテーブルに置いた薪が、スマホを持ったまま寝返りを打つ。その拍子にカメラの視界がガクンと下に移り、あろうことかそのレンズが、大きくはだけた寝間着の隙間から、白い鎖骨のラインと、滑らかでなだらかな胸板の起伏を鮮明に映し出したのだ。
青木は瞬時に「パパ」から「男」の目つきになり、音の出ないスクショを連打した。指が勝手に動く。もはやこれは防犯カメラの記録に近い、本能的な保存行為だった。
「薪さん……そんな姿、俺以外に見せちゃダメですからね。……ああもう、今すぐそこに行って、布団に潜ってめちゃくちゃに触れたいです」
切実に訴える青木の熱を帯びた表情を、薪は潤んだ目でじっと見つめている。
「……お前は、遠くにいるくせに」
薪が覚束ない手つきで、スマホを自分の顔へと引き寄せた。そして、手の内のディスプレイに映る「青木の唇」を目掛けて落としたのは、吸い付くようなキス。
スピーカーが拾う「チュッ」という生々しい吸着音。近づいた薪の顔で、レンズの視界が真っ暗に塞がれたのだ。
数秒の沈黙の後。
スマホを離した薪は、画面越しの青木の「凍りついた真っ赤な顔」を見ながら、自分が何をしたのか、じわじわと理解し始めた。
「……あ」
顔を真っ赤にし、自分の口元を両手で覆って絶句する薪。その破壊的な可愛らしさが炸裂し、画面の向こうで青木が、いきなり決壊した。
「――っっっっっぶぁっ!!??」
青木は声にならない絶叫とともに自分のベッドに崩れ落ちた。心臓が肋骨を突き破らんばかりに暴れ、全身の血が沸騰する。今の角度、今の、あの、吸い付くような濡れた音は。
青木はベッドの上でのたうち回り、枕に顔を埋めて、もはや言葉にならない獣のような呻き声を漏らす。
「ぐぉおお……今の、今の、保存……じゃなくて、もう一回……いや、ダメだ、心臓が持たない……! 薪さん、責任取ってください!!」
悶絶しながら画面を覗き込むと、そこには恥ずかしさの極致に達し、涙目で震えている薪が映っている。
「薪さん、もう許しませんよ。明日、仕事が終わったらそのままそっちに飛びます。いいですね?」
「……来るな。……待って、いる」
もはや拒絶なのか歓迎なのかも分からない、薪の支離滅裂な囁き。それとともにブツリと一方的に通話が切られた。
青木は真っ暗になったスマホを握りしめたまま、すぐさま予約アプリを起動し、最速の航空券を確保した。
さっきのキスの残響が、鼓膜の奥でリフレインし続けている。
ピクセル越しに眺めるだけの我慢は、もう限界だ。
今すぐあの人の身体を、その熱を、この腕に閉じ込めたくてたまらない。
あと十数時間。
明日の業務を最速で叩き斬り、夜の空港へ駆け込むまでの時間を思うと、それだけで全身の血が燃え上がるようだった。
翌朝、まだ陽の昇る前から第八管区に出勤し、殺気立つほどの集中力で捜査画面に向かっている室長の姿が、出勤してきた部下たちをギョッとさせたのは言うまでもない。