ASTERISM 2064 七夕

 明かりの絞られた室内に、湿った吐息が絡まり合って降り積もる。
 ベッドの上、絡み合う二人の体温は夜の冷気をものともせずに、高揚を続けていた。
 青木の大きな体に組み敷かれ、絶え間ない愛撫に痺れきった薪の指先が、シーツの上に転がされていたゼリーへと伸びる。

​「あお、き……見ろ」

​ 震える手で蓋を開け、透明なジェルを指先で掬い取って掌に広げる。
 潤んだ瞳で青木を見上げながら、その大きな手を取り、指を一本ずつ絡めるようにしてそれを塗りつけた。
​「……こう、だ……ここへ、こうして……」
​ 深く割られた脚の間。
 自ら秘部を晒して、青木の指をナカへと導く。
 自身でなぞるだけでも身体が跳ねるほどの羞恥に、その指が激しく震えている。

「え、……まきさ……」

 あまりに献身的で官能的な命令と所作に、青木の理性が弾け飛んだ。

​「ああ……薪さんのナカ……すご……い、熱い……」

​ 柔らかな粘膜に吸い込まれた青木の長い指が、数を増やしながら蠢く。
 じわじわとナカを押し拡げ、未踏の領域を暴いていく動きに堪らなくなった薪が、自身の屹立を慰めるように淫らカタチに手で触れると、先走りに濡れたその先端を、青木が吸い上げるように口内に含んだ。

​「……ぁう……っ」

​ 先端を弄ぶ熱と、ナカを侵す指が深いスイッチを抉る衝撃が同時に薪を襲う。

​「んっ……ああ……っ!」

​ 我慢したかったのに。薪の背中が弓なりに反り、絶頂の余韻に震えながら、シーツにに崩れ落ちた。

​「……すこし……あなたのイイところが……わかった気がします……」

​ 青木は、羞恥と快楽の涙に濡れた薪の睫毛を唇で優しくなぞる。
 仰向けで無防備に脚を開いたまま、浅い呼吸を繰り返す薪。そのナカに入ったままの指が、いたわるように少しずつ交接の準備を続けている。

 青木の未来について……何も解決していないのに。アルコールに逃げようとまでしていた先刻までの葛藤はどこへ行ったのだろうか。
 吐精した直後だというのに、薪の身体は中を蠢き続ける指の動きに、再び反応を示しはじめる。

​「でも……こんな細いところに……どうやって……」

​ かつての部下としての臆病なまでの配慮が、最後の一線を前に、青木を躊躇させる。
 同性とはまるで思えない、美しくきめ細やかで繊細な薪の身体。
 そのどこかを知らぬ間に自分の不備で損なってしまうのではないかという、畏怖に近い懸念のようなものだった。

​「ばか……きついから、いいんじゃないのか」

​ 青木に口づけた薪の唇が、挑発するように微笑んだ。
 今は捜査を司る任務を離れ上司でさえなくなっているその唇から発せられた、あまりにも無防備で刺激的な言葉。 その微笑と上目遣いな眼差しの罪作りさに、青木の心臓がドクンと跳ねる。

​「ん?七夕の覚悟はどこへ消えたんだ? ……ここまできて結ばれない織姫と彦星がどこに?」

​ 耳元で甘酸っぱく囁かれる挑発の言葉が、二人の境界線を完全に消し去った。

​「たしかに、どこにもいませんね……そんなのは」
​ 青木はゆっくり指を引き抜くと、薪の腰を両手で掴んで、猛る自身の先端を押し込んだ。

​「あ、……っ!」

​ 薪の口から、形にならない悲鳴が爆ぜた。同時に体内の熱が、縋るように昂る青木に絡みつき、仰け反る身体を震わせながら、締め上げてくる。

​「っ……わっ……まきさ……」

​ 薄闇のなかの薪を見つめる青木の視界に星が飛んだ。
​ 愛なのか欲情なのか。とにかくMRI技術がいくら進化し、脳の隅々まで解析できたとしても。今、この瞬間に二人の間に流れる電気信号を、決して可視化できないと思う。

​「あ……ぉ……きっ……ああっ……」

​ 掠れた声が空を切る。
 薪は青木の背に腕を回し、自分の知らない領域を、とてつもない熱量で侵食されていく強烈な存在感を内側で味わう。
 脳を、脊髄を、細胞のすべてを溶かされる感覚に身を委ね、薪はただ、何度も愛しい男の名を吐息で呼びながら上り詰めた。


​​「一つになるって……こういうことなんですね」

​ 青木が薪の耳元で、熱い吐息とともに惚けた声で囁く。

​「……お前の、イメージ通りか?」

​「いえ……想像の、何千倍も……」

​ ――幸せで。
 吐息のようにこぼれた囁きと共に、重なり合う鼓動が縺れて互いの身体に響き渡る。
 
​「織姫と彦星の気持ちが、わかった気がします」

​ 抱きしめた薪の頭頂に鼻先を埋めて、青木が夢うつつに呟く。

​「一年に一度だって……こんなふうに、愛する人と一つになれるなら……また次の一年を、待ったっていいかなって……思えますから……」

​ 薪はその言葉にうっとり聞き惚れながら、バスルームで一人自責の念に駆られていた夜の切なさを心の奥に仕舞い込んで、青木の背に回した腕に思い切り力を込めて、そっと目を閉じた。
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